御屋敷のお嬢様 9  本業探偵の雑用業務





弁護士さんは驚いて、それから目を瞬かせて、普通に困惑してる顔を見せた。
「・・・どうして、そのような? 私には解りかねますが、あの名探偵大河内さんがこの事件を解いたと聞いています。動機も確か――」
「うん、それは僕も聞きました。えっと、いきなり引き取られてきた伯爵の直径の孫、犯人の彼にとっては、えーと・・・いとこ姪になるわけですが、一回り以上はなれた子供を見て、どうやら邪な感情を抱いた、と。それが歪み財産をお嬢様だけに継がせようと試みた――犯行、でしたっけ」
納得出来るような出来ないような。
まったく、大河内くんも大雑把な説明だなぁ?
それでいてこれで解決しちゃうんだから・・・・やっぱり不思議。名探偵効果?
「不思議ですよね、寧ろ自分とお嬢様が生き残れば、幼いお嬢様の後ろ盾として財産もお嬢様も手に入れられたはずなのに」
「・・・さぁ、そこまでは。少々精神的にも異常があったのではないでしょうか。あのような犯行をされたわけですし」
「まぁ、そうですよね。もう居ない人です。本当の理由は今では解りません」
全て後からのこじ付けに過ぎない。
篠井さんは眉根を寄せたまま、
「彼の犯行が、瑞歌様を治すきっかけに?」
それが一番知りたいところだろう。
なにしろ伯爵家の顧問弁護士であるわけだし。
お嬢様が治らないと、どうにもならないわけだし・・・・そう思う人の、一人ではあるはず。
僕は首を横に振って、
「いいえ、それは事件を調べただけです。蛇足で僕のただの疑問です。気にしないでください」
と、云っても気になるかも?
弁護士って職業はそんなものだよね。
大変だなぁ?
僕が他人事のように感じていると、篠井さんは何かを諦めたように小さく息を吐いて、
「それで、他に御用は? もう少し私は仕事がありまして」
「あ、ごめんさない忙しいのに――あと一つだけ」
「何でしょう」
「この依頼――誰が僕に?」
篠井さんは、じっと僕の顔を見つめて・・・・うん、あの、初めてあったときの表情も感情も解らない目だ。
うう、こんな顔が嫌いなんだ・・・・怖いから!
「・・・敢えて、追求なさらないほうが貴方のためだと思いますが」
うん、そうだよねー
知らないほうが幸せだよねー
僕も知りたくないなー
僕は納得して、
「じゃ、変えます。何で僕に?」
初めにもしたけど、きっと今度ははぐらかされないはずだ。
篠井さんは少し不思議そうに考えて、
「・・・ご紹介頂きまして」
「・・・・紹介?」
「ええ、さる方より、お知り合いの禅定さまが良い人物を知っていると窺いまして――」
「・・・・・・・・・・」

き、聞かなきゃ良かった!!
篠井さんがさる方、なんて云うからにはそれなりの地位の人か金持ちか――そんな人のお知り合い?!
それが禅定?!
それって禅定鉄子のこと?!

ちなみに禅定っていうのは―――――うちの大家のことだ。

あああああ!
なんで聞いちゃったんだ僕!
知りたくなかったよ、そんなの!
いったいあの大家ってナニモノ?!
いや、もう、何にも知りたくないです!

お邪魔しました、と僕はさっさと弁護士事務所を後にした。
早く帰ろう。
お屋敷でもいいや。
あの怖い大家の待ち構えるボロ長屋じゃなかったらいいや。
煉瓦に囲まれた檻の様な屋敷。
それでも外界からの敵からは護られる。
そして僕は星をしっかり離さず握って――じっとしてよう。

屋敷に帰った僕は星と再会し、今日の怖い出来事を泣きごと混じりに話した。
特に、大家のこと!
喋らずには居られないよ!
その後で、僕は屋敷生活をのんびり過ごさせてもらった。
とにかく、ご飯の心配もないし寝る所もあるし。
なにより、大家の足音を気にせず居られるなんて――ここは天国?
あ、いやいや、死んでないぞー
僕はしぶとく生きるぞー

庭に散歩にも出させてもらったし、屋敷も探検させてもらった。
勿論、星には一緒に付いて来て貰ったんだけど。
それでも僕と星は、もう一度もあの不幸なお嬢様と、出会うことはなかった。

名探偵大河内成り比呂がその屋敷を訪れたのは、そんな午後の日のことだった。


to be continued...



BACK  ・  INDEX  ・  NEXT