御屋敷のお嬢様 7 本業探偵の雑用業務 車に乗っていて、あまり振動を感じないとなると貧乏人の僕にとっては返って落ち着かないものだ。 さらに長時間乗り続けていると、さすがに乗り物に強い僕でもあまり気分も良くない。 少しでも急ごうとして一度も休憩を入れなかったのがまずかったのかな。 いや、運転してくれた屋敷の下男にも悪いことをしたかもしれない。 朝、屋敷を出るときに星と別れて、昼前に僕はN県にある別荘に着いた。 着いたときに、星から電話を貰ったんだけど・・・正直そこで泣いた。 だって怖いんだもん! もう誰も近寄らない――捨てられたような別荘・・・・怖いっ!! 勿論、星には呆れられたいつもの声で、 「そんなこと解りきってたでしょ」 あっさり通話を切られた・・・ さらに付いて来てくれた、無表情でやっぱり怖い屋敷の下男も・・・本当は途中で逃げ出して撒こうと思っていたんだけど、そのまま付いてきて貰う事にした。 だから本当に怖かったんだよっ!! なんだかスパイをずっとくっつけてるみたいだったけど、この下男一言も喋らないし――僕の云うこと、何でも聞いてくれるから、途中から気にしないでいることにした。 実際、居てくれて本当に助かったしね。 取敢えず凄く色々回ったから、車があって本当に良かった。 最後に、もう夜になっていたけれど帝都に帰って僕は篠井弁護士事務所を訪ねたんだ。 「今晩は」 ビルディングの二階を借り切ったその事務所は、鍵は開いているけれど事務員か誰かの姿はなく、僕は来客用の部屋らしいところをそのまま過ぎて奥の部屋に返答も聞かず入った。 そこに居たのは、弁護士事務所の主である篠井さん。 ピカピカの机の上はとても整理されていて、うーん、性格がでるなぁ? ファイルに目を落としていた篠井さんは入ってきた僕に驚くこともなく顔を上げて、 「お疲れ様でした。N県まで行かれたそうですね?」 うーん、やっぱり筒抜け? 僕は勧められるままにその机の前にある椅子に座って、今日一日で見て聞いたことの内容を整理する。 「行ってきました」 「別荘は、どうでした?」 「怖かったですよ!!」 僕は張り切って答えておいた。 だって中も外も、本当に怖い! 人の気配のない建物ってなんであんなに怖いのかな?! 「他にも色々行かれたようですが」 「うん、だってあの資料、沢山あったけどあの状態になったお嬢さんのことしか書いてなかったし」 僕が知りたいのは、見れば解るものじゃなくって、どうしてそうなったか――なんだよね。 弁護士さんが置いていってくれた事件の簡単な資料って、本当に簡単なんだもん・・・ 「事件は解決しているはずですが」 「そうだけど、お嬢さんがああなっちゃったきっかけは、あそこにあると思って」 「何か見つかりましたか?」 「いえ、これといっては何も」 星から聞いた、大河内の説明はクドクドしかったけれど流れは解った。 その状況の場所全てを見てきたけれど、新しい何かなんて見つかる訳もない。 どちらかと云えば、別荘以外の場所で見聞きしたことのほうが多いと思う。 とにかく、今日はすごく動いた。 失礼かとは思ったんだけど、もう今更か、と僕は室内で帽子も脱がずに篠井さんの前で、 「篠井さん、この事務所を継いだのは去年のことなんですね」 「・・・・・」 あまり変化のない弁護士の顔が、真っ直ぐに僕を見つめてくる。 端正なこの顔、きっと女性にもてるんだろうなぁ・・・ 僕は羨ましい、と考えながら、その表情にどこか疲れが見えるのも感じた。 目の下にうっすらと見えるのは隈かな。 同世代だけれど、僕より疲れている気がする。 貧乏暇なしの僕より、働いてるんじゃないかなぁ? いや、働いているから貧乏じゃないのか。 僕がどうでもいいことを考えていると、篠井さんは小さく息を吐いて目を伏せた。 それから僕を改めて見て、 「ええ、去年、父が身罷りまして」 「そうですか・・・失礼ですがご病気で?」 「いえ、老衰です。私は歳をとってからの子供でして、漸く一人前になった、と父は安心したのかもしれません」 「そうですかー、いや、篠井さんが跡継ぎなら、安心ですよねぇ」 「・・・椿さん、どうしてそう思われたんです?」 御気楽な僕とは違う、と思っていると、篠井さんは探るように僕を見つめて来た。 そんなこと、簡単だ。 「篠井弁護士は、絹嶺院伯爵家のお抱えですよね、でも、長い間仕えたにしては若いなーと思っただけです」 「・・・・そうですか、父の仕事の全てを引き受けたものの、私がその全容を把握出来たのは申し訳なくも最近でして」 「ああ、じゃ、お嬢さんが屋敷に引き取られたのと同じ頃ですか?」 「・・・・・」 弁護士さんの顔は、今度ははっきりと驚きを僕に見せた。 えーっと? 僕を、何だと思ってたんだろう? それくらい、今日一日調べただけで簡単に解りましたよ? あの人形のような――マゴウコトナキお嬢様が、あの事件の一ヶ月前にお屋敷に引き取られたことは。 もちろん、それまでの暮らしは今とは雲泥の差の、下層階級で暮らしていたことも。 |
to be continued...