御屋敷のお嬢様 5  本業探偵の雑用業務





絹嶺院 瑞歌。

舌を噛みそうな名前だ。ケンリョーインミズカさま。
マゴウコトナキお嬢様。
少女と見えるのは、その肢体が幼さを醸し出しているからだ。
しかしその整った顔で嗤われたのなら、彼女からその幼さは消えるだろう。
その目が、人を魅了する大人の目だ。
今はただ、どこも見ていない黒水晶の硝子玉が嵌めてあるだけなのだが。
相変わらず足音を立ててくれないメイドが車椅子を押して、人形を僕の前まで連れてくる。



翌日、僕は意を決して、少女に会うことにしたのだ。
僕は止まった車椅子の前で膝を床に付き、少女と視線を合わせてみた。
「お早う御座います・・・瑞歌さま?」
予想はしていたものの、やはり無反応だった。
僕はこれだけ傍に居てもまったく反応を示さない彼女を良いことに、じっくり観察することにした。
お嬢様の姿は行き届いていて、爪の先まで整っていた。
僕がかなり失礼にも関わらず舐め回すように見ていたら、後ろから「ごほん」と星が・・・
変態親父のようだ、と思い直し止めた。
「瑞歌さまは何の反応も示さず、このまま? お世話はずっと貴方が?」
「はい」
「大変ですね」
「いいえ」
それが自分の仕事だと、メイドはやはり表情を崩さない。
「お嬢様は私の言葉を聞いて下さいます」
「・・・・・どういう意味?」
メイドは首を傾げた僕に、行動で教えてくれた。
百聞は一見に如かず、だね。
彼女はお嬢様の手を取り、
「立って下さい」
とゆっくり前に引き上げる。
僕は目を瞠った。
瑞歌さまは立ち上がった。
車椅子の前に、何の重力も感じさせない動きで、まるで糸で操られているかのような動きで。
「・・・・・・資料には無かったですけど?!」
ちょっと!
弁護士先生! ここ重要じゃないの?!
「はい」
メイドが解かったように、
「お嬢様、お座り下さい」
手を取って今度は少し後ろへ押した。
お嬢様は優雅に座られた。

・・・・・・・本当に、操り人形みたいなんですけど?

僕はお嬢様との対面を終わらせた。
いや、決して!
怖くなったからとかじゃなく!
今まで他の人が反応させようと試みたことを、僕なんかが俄かに医師の真似事なんかでしてみても、無駄だと思ったのだ。
それより、他にすることがある。
自分に宛がわれた部屋に戻ろうとしたとき、メイドが呼び止めた。
「もう一つ、お部屋をご用意しておりますが、いかがいたしましょう」
「あー・・・・・」
星用の部屋だった。
しかし、昨日は一緒に寝た。
独りで居たい、と云う星を引き止めたのだ。
「こんな怖い家で、こんな広い部屋で! 僕に独りで寝ろと云うのか?! 絶対泣くぞ! 泣いてやる!」
僕の涙の訴えに、星は呆れた顔で一緒に居てくれた。
だってベッドは僕のよりも充分大きかったし。
だから、
「イイデス。このままで」
星の意見も聞かず、そそくさと部屋を出た。
「臆病者」
廊下に出てすぐ、星の言葉が突き刺さる。
何とでも云え。
僕は閉められた窓のカァテンを見ながら、
「・・・・星、調べたいことがある」
星は厭な顔をした。
訂正しよう。
調べて欲しいことがある、だ。
星は僕が自分で調べられることは自分ですることくらいは知っている。
僕はそんなにぐうたらじゃないし。
けれど彼女に頼むのは、それが一番早いからだ。
そしてそれは、星がとても厭がることだ。
「・・・・厭なのよね」
星は僕のお願いを先に断った。
それでも、僕は云う。
だってこれが一番早いし、星は助手らしく、断れない。

「大河内成り比呂に会ってきてくれ」


to be continued...



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