離せない温度  5






「そんなの、知らねぇよ! あんたがどう思ってるかなんて、あんた何も言わないじゃん!何もしないじゃん! 俺を・・・っ抱かないだろ!」

慈善?
奉仕?

シチロウの行動の、どこにそれがあった?
簡単に他の男に抱かれにゆく。
気を抜けば、手からするりと離れてゆく。
安心など、出来ない。
なにが欲しいのだ。
なにを与えれば、卯月は居てくれるのだ。
幼い子供に、他にどうすれば、側にいてくれた?
抱いて良かったのか?
何もかもを、奪って良かったのか?
世界をシチロウで染めて、良かったのか?
未来を奪ってしまっても、良かったのか?
子供を囲うなどと、俺はナニサマだ?
簡単に抱いて、他の男と並べられるのは御免だ。
一時だけの快楽を与えて、次の男へと渡すのも御免だ。
卯月は子供だ。
傷つき、世間を知っているようで擦れても見えるけれど、やはり子供だ。
そうなるまでに、卯月になにがあったのだろう?
誰が、卯月をこんなにした?
男に抱かれ慣れるまで、誰がした?
独りで家もないような状況に、誰がした?
幸せと喜びと、その暖かな空間を、誰も与えなかったのか?
与えなくて良い。
誰も、与えなくても良い。
与えるのは自分であれば良いのだ。
シチロウが、それをするべきであれば良いのだ。
その、流れる涙は、どうすれば良い?
シチロウの良いように、受け取ってもいいのか?
こんなにも酷い男に、捕まってもいいのか?
慈善は厭だと言う。
奉仕はいらないと言う。
そんなもの、あったことなど、ない。
あったのは欲だけだ。
こんな子供を抱いてしまいたいという感情だけだ。
自分のものにしてしまいたい。
他の男と並べられたくない。
シチロウが、卯月のただ一人の男になりたい。
卯月のほうが大人だ。
こんな子供過ぎる我侭を、受け入れてくれるのか?
我慢出来ないこの欲を、出してしまっても、いいのか?
抑えられるはずがない。
一度溢れた欲望は、箍が外れてしまえばもう止めることなど出来ない。
全てを暴くつもりだった。
卯月の身体を、シチロウで染めてしまうつもりだった。
ただのセックスなど、したくない。
果てて終わりなどに、したくない。
治まらないこの感情のように、終わらないこの衝動のように、いつまでも卯月を抱いていたい。
シチロウに夢中にさせてやればいい。
離れなくさせてやればいい。
感じたことなどないという卯月に。
快楽など知らなかったという卯月に。
二度と、逃げ出せないようにしたい。
シチロウがいなければ、生きて行けなくなればいい。
甘くて、終わりのないセックス。
それを身体で、覚えさせてやりたい。
「あ・・・っん、や、ぁ・・・っな、ナナ、さ・・・っ」
「・・・ん?」
「も、もぉ・・・っ」
一度果ててしまうと、余裕が生まれる。
けれど、すぐに身体が熱くなるのは卯月のせいだ。
こんなにも終わらない欲は、卯月のせいだ。
卯月の中へ、深く沈めたままシチロウはその身体をもう一度味わうように、白い肌へ手を滑らせて何度も口付けた。
甘い。
吸い付くと簡単に痕が付く。そこへ何かがあるように、咬み付く。
「あ、ん・・・・っ」
薄い胸板の上で硬くなった突起に、指で触れて手のひらで力を込めずに撫でる。
「あ、ぁ・・・っあっ」
足を広げた卯月の腰が、耐えられなくなったように揺れる。
顔を首筋に埋めたままで、笑った。
全身で感じる仕草が、どうしようもなく嬉しい。
震える身体でそれに耐えようとする卯月を、身体を少し起こして見ると濡れた目でまっすぐに睨まれた。
「・・・ん、どうした?」
「ど・・・っした、じゃ、な・・・んんっ!」
わき腹をなぞり上げると、上体が逃げるように伸びる。しかし、離すはずがない。
キツく睨んでいるようだけれど、それがますますシチロウを煽っているのに、気付いているのだろうか。
「も、や・・・ぁ! はや、はや、く、もう、し・・・して・・・っ」
「無理だ」
即答したシチロウに、卯月は驚いた顔を、泣き顔に歪めた。
「ど・・・ど、して・・・っ」
「そんなに早く終われるか。どれだけ我慢してきたと思ってる? もっと、俺に溺れてしまえばいい・・・俺から、離れられなくなるくらいに」
「ん・・・っ! も、もう、じゅ、ぶん・・・っだよっ! 俺、も、ナナさんに・・・っ」
「まだだ」
「ナナ、さん・・・っ」
「もっと気持ち良くなるから・・・もっとさせろよ」
「や・・・っも、ど、どにか、なる・・・っ」
「なればいい」
シチロウはまったく自分からは動かさなかった腰を、ゆっくりと進めた。
「んんっ!」
「どうにかなってしまえよ・・・俺だけ、いればいいだろ・・・?」
子供染みている。
そんな質問。
いつから、そんなことを言うようになった?
「あぁっ! な、ナナ、さ・・・ぁん!」
「卯月・・・」
ゆっくりとした律動を始めて、逃げないように、隠さないように卯月の両手を自分の両手でベッドへ縫い付ける。
指を絡めて、その小さな手を握り締める。
感じているのか、涙の止まらない卯月の顔に、キスをする。
甘い口付けを覚えればいい。
甘いセックスを知ればいい。
シチロウのセックスだけが、甘いと知ればいい。
「や、い、やぁ・・・っな、ナナ、さ、あっあっやだ、や・・・っ」
「・・・なにが、嫌だって・・・? してるだろ? ちゃんと・・・ほら」
「あぁっ、や、やだよぉ・・・っみ、みな、いで・・・っそんな、しな、いで・・・っ」
「そんな?」
卯月は泣きながら、見上げてくる。
すでに、睨むことも出来ないようだ。
「は、はず、か・・し、から・・・っも、や・・・あっ」
「見るよ。もっと、見せろよ・・・卯月のこと、何もかも知りたい・・・」
「やだ・・ぁ・・・っあぁっあっ」
「卯月・・・このまま、イける・・・?」
「や、やぁ、んっ」
後ろだけで、感じてしまっている。
けれど卯月は微かに首を振って、したくないと言う。
これだけで、感じてしまう身体に、誰がした?
この湧き上がる感情は、嫉妬だ。
どうしようもない、耐えられるはずがない。
「やっやだ、あっあっあぁ・・・っ」
嫌だという卯月に、泣いている卯月に、ますます抑えられない。
このまま、達してしまえ。

溺れてしまえ。


to be continued...

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