離せない温度  3






この世界で生活していて、娼婦と出会う確立はどれくらいなのだろう?
もちろん、そういった人間にしか出会わない人もいるだろう。
しかし、街中で、ただ座っていた少年がそうだと誰が言った?
卯月は自分がそれだと、当たり前のように口にする。
その行いを、自分で否定もせず悪いことだとも思わず、日常の生活として過ごす。
シチロウが疎いのだろうか?
それなりに世間には目を向けていたはずだけれど、こんなところで座り込み、誰かに買ってもらうのを待つことが日常なんて。
異常じゃないのか?
当然なのか?
卯月が当たり前のようにそれを仕事とするのは、卯月を買う人間が実際にいるからだ。
買われていたのか。
いつから?
誰に?
どのくらい?
シチロウは自分の気持ちがざわついた。
なんだ、これは。
俺は、怒っているのか?
誰に?
卯月に?
卯月を買った、男に?
当然のようにシチロウにも抱かれようとした卯月を、抱くことなど出来なかった。
出来るはずがない。
気付いていないのだろうか。
幼い顔の、少年は。
「抱いて」
と囁くその顔が、歪んでいることに。
感情を見せない表情をしているということに。
これが仕事だからか?
抱けるはずがない。
胸の奥がギリ、と痛みを感じた。この気持ちは、なんだ?
その中で、誰かが浮かんだ。
それをはっきり認識する前に、頭を振って消した。
考えないほうがいい。
卯月は、子供だ。
抱かれ慣れていると言おうとも、こんな顔で男に手を伸ばしてくる少年だ。
シチロウの、どこか大人と言われる常識的な部分が動いた。
飼うことにしたのだ。
大人の行動か?
買うわけではない。
食事を与えて、眠れる場所を与えて、安らぎを与えて。
もう、他の誰にも抱かれて欲しくない。
それだけは、はっきりとした気持ちだった。
だから、飼う、が正しかったのかもしれない。
初めは安心して寝起きをしていた卯月が、戸惑い始めたのはそう時間もかからなかった。
「しようよ」
家に帰るなり、そう誘われた。
何故?
幼い顔が、その瞳が、揺れている。
男なら解る。
発情している顔だ。
どうして、そうなる?
考えても仕方がない。
ここで、しなければ。
卯月はどうする?
シチロウの許から、出て行くだろう。
そして、快楽を与えてくれる他の男に、抱かれにゆくのだ。
させられるはずがない。
そのはっきりと湧いた気持ちは、どうしてだろう。
放っておけば良い。
縁もゆかりもない少年一人。
今まで身体ひとつで生きてきた少年一人。
世の中を探せば、そんな子供はいくらでもいるのかもしれない。
シチロウが偽善をもって、卯月ひとり救ったところで、どうなる?
なにが変わる?
何も変わりはしない。
けれど、赦せない。
手放せることが出来ない。
この小さな少年を。
細い手足で必死に生きている少年を。
ミチルとは違う、危うい場所で生き抜いている卯月を。
手を離せば、卯月は簡単に向こうへ足を踏み出しそうだった。
二度と帰ってはこない場所へ、行ってしまいそうだった。
行かせられない。
その気持ちだけで、シチロウは卯月をベッドへ繋ぎ止めた。
手を伸ばしてしてみると、卯月の反応は大きかった。
「や、やだ、そんなの・・・っし、なくて・・・んぁ・・・っ」
下肢を晒した上体で、ベッドの上で足を開かせる。
すぐに硬くなるそこは、男娼というわりには綺麗だった。視界に映る肌が、白くて細い。
幼い声が、泣き声に変わる。
口でしてやる奉仕に、卯月は過剰に反応したのだ。
されたことがないのか?
そう思うと、手に力が入る。
舌が、執拗になった。
「ん、んー・・・っま、まって・・・っあぁっ」
逃げようと足掻く足を抱えて、するつもりはなかった奥まで手を伸ばす。
抱かれ慣れているはずなのに、やはり綺麗だった。
「や、あぁ、ん・・・そ、こ・・・っあぁっ・・・」
敏感すぎる。
こんな声を、今まで誰にでも聴かせてきたのか?
こんな身体を、誰にでも開いてきたのか?
「や、やだ、あ・・・っん、も、や、はな、し、て・・・っんあぁ・・・っ」
達した身体は、震えるのを堪えるように息を繰り返していた。
その呼吸を、紅く染まった身体を抱きしめてしまいそうになる自分に、シチロウは気付く。
馬鹿な。
出来るはずが、ない。
それだけは、駄目だ。
もう、後には戻れなくなる。
「おに、さん・・・いれる?」
消えそうな声で、見上げてきた卯月にきっぱりと言った。
「挿れない」
出来るわけがない。
理由があったはずだ。
大きな理由。
探して、ようやく気付いた。
ミチルの泣き顔を思い出したのは、理由を探し始めて、一番最後だった。
ようやくミチルを思い出したという事実に、シチロウは愕然とした。

ミチルを、忘れていた?


to be continued...

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