手のひらの熱 6 ウヅキは次の日から、柘植のベッドで眠った。 相変わらず家の中で柘植を見送り、そして出迎え、一緒に食事を取る。 そして、夜になれば柘植の手に溺らされる。 「ん・・・っあ、ぁっ、や、んー・・・っ」 滴るような、濡れた音が自分の中で起きる。 柘植の手は熱い。 舌も熱い。 吐息すら、火傷をしそうだった。 シャツを着ただけの卯月は下肢を晒し、そこに柘植の顔が埋まる。 恥ずかしい。 恥ずかしい? ウヅキはその感情に戸惑った。 変わらないセックス。 むしろ、優しすぎるほどのセックスだ。 温かく眠れる寝床。 空腹を感じない食事。 負担をかけられない快楽。 全て揃っている。 何も、不満はない。 けれど、込み上げてくるこれはなに? 恥ずかしい。 困る。 どうして? どうして、柘植はしない? 変わらない一方的なセックス。 柘植が分からない。 どうしてしているのかが、分からない。 柘植のことなど気にしなければいい。 いつか去るものなのだから、今を楽しんでいればいい。 それで充分のはずなのに。 ウヅキは胸が痛かった。 落ち着かなかった。 柘植は巧い。 今までウヅキがしてきたセックスなど、全て消し去るほど、甘くて巧い。 「ひぁ、んっ・・・!」 時折、胸に伸びる手が。 肌を探るそれが。 どうしようもなく、感じてしまう。 声が、抑えられない。 「や、あ、ぁ・・・っや、まっ、て・・・! あぁっだ、め・・・っ」 聴こえるのは、シーツの上を足掻く衣擦れの音。柘植の立てる、濡れた音。 自分のはしたないほどの、喘ぎ。 今まで何度も受け入れたウヅキのそこへ、柘植は慎重に指を埋める。 そして、時折激しさを見せるほど攻める。 「や、あぁ・・・っお、に、さん・・・っあっあっ・・・も、や、いく・・・っ」 腰が揺れる。 声が止まらない。 もっと欲しい。 もっともっと、欲しい。 柘植は、一言も話さない。 その口から漏らすのは、熱いほどの吐息だけ。 ウヅキの下肢で動く柘植を、ウヅキは覗き込むこともできないため顔すら分からない。 いったい、何を考えているんだろう? 「やあぁ・・・っ」 我慢など、する必要はない、と柘植はあっさりとウヅキを解放させる。 その手で、唇で。 何度いかされたかなど、もう覚えてもいない。 けれど、ウヅキは荒くなった呼吸を落ち着ける途中で柘植をようやく見上げた。 「・・・おに、さん・・・? しない、の・・・?」 「しない」 やっと、柘植が声を出した。 これを訊くのも、何度目だろうか。 自分が果てるたびに、訊いているのだけれど、柘植の答えはいつも同じだ。 柘植は濡れたタオルで、ウヅキの下肢を拭うと脱ぎ捨てた服を着せてくれる。それから、 「・・・もう、寝ろ」 ベッドに沈むように倒れている卯月の頭を、優しく撫でる。 どうして? 髪を指に絡めるように撫でられて、その心地よさにウヅキは瞼が重くなってしまう。 どうして。 この、温度はなに? 柘植は、どうしてこんなことをする? 「・・・して、いい・・・よ?」 ウヅキは半分睡魔に襲われながらも、ゆっくりと瞬いて柘植を見上げる。 そこから注がれる、温かい視線。 柔らかな笑顔。 止めて。 それ、なに? どうして、そんな顔で見る? 柘植にそんな顔をさせる、自分の顔はどうなっている? 心が乱れる。 今まで、長くない人生で。 どうにかやっと、平静でいられる気持ちを持てたのに。 何があっても、動じないでいられる自分になれたのに。 誰も想いたくない。 誰にも想われたくない。 いつでも、消えてしまえる人間でありたい。 いなくなっても、誰も気にしないでいられるようにありたい。 空気になれたらいいのに。 街角で座っていても、ウヅキを気にするものなどいない。 ウヅキが連れて行かれても、気にするものなどいない。 帰ってきても、気にするものなどいない。 それで良かった。 構われるくらいなら。 誰からも見て欲しくなどない。 そんな目で、見るな。 そんな熱で、触れるな。 おかしくなる。 心が震える。 いやだ。 こんな気持ち、知りたくない。 考えたくない。 誰かを欲しいなんて、想いたくない。 ウヅキはシーツに顔を押し付けて、熱くなった目を隠した。 「・・・卯月?」 寝たのか、と優しい声が振ってくる。 止めて。 どうしようもないことなど、知っているではないか。 柘植には、恋人がいるのだ。 |
to be continued...