手のひらの熱  5






柘植は本当に、遅くならない時間に帰ってきた。
恋人のところに行ったんじゃないのかな。
ウヅキは思ったけれど、どうでもいいや、と切り換えた。
必要なのは、それじゃない。
熱が欲しい。
冷め切っているのは、熱が暫くないからだ。
楽しいと思ったことは一度もなく。
早く終われ、といつも思っていたのに。
こんなにも喉が渇くように熱が欲しい。
実は淫乱だったのかな。
ウヅキはなくなって初めて、身体が疼くことに気付いた。
誰だっていい。
欲しい。
帰ってきた柘植を出迎えて、見上げた。
「卯月? ただいま、どうした・・・」
「おにーさん、ね、しようよ・・・」
「・・・・・なに?」
いつものように、強請ってみた。
大抵の男は、ウヅキが強請ると断ったりなどしない。
ウヅキが強請ったのだから、と必要以上に酷くする。
驚いて身体を固めた柘植を、ウヅキは手を引いて柘植の寝室まで連れて行った。
ベッドに片足をかけて、着ていたシャツを頓着無く脱ぎ捨てる。
「卯月・・・?」
それでもまだ、状況が理解できないような柘植の前に膝をつき、ベルトに手をかけた。
そこでやっと、柘植が慌てる。
「卯月! なにやってんだ・・・っ」
「なにって・・セックスじゃん。しよーよ、俺、したい・・・」
「し、したいって・・・! しなくても、いいって言ってるだろ・・・?!」
「そうだけど、ずっとしないなんて、俺どうにかなっちゃうよ」
「卯月・・・!」
「ね、しよ、早かったけど、恋人としなかったの?」
「卯月! こら! 止めなさい!」
「やだ」
柘植の制止など聞くつもりはない。
ウヅキは、身体が欲しがっているのだ。
ジッパーを下ろすと、頭上で柘植が大きく息を吐き出した。
諦めたのかな、と思ったときだった。
「おに・・・ぅわっ?!」
いきなり、ひょい、と身体を持ち上げられた。
抱えられて、そのままベッドへ下ろされる。
して、くれるのだろうか。
電気も付けていない寝室では、柘植の表情が分かりにくい。
転がった身体の上から、柘植が覆いかぶさる。
「おにーさん・・・?」
「じっとしてろ」
低い声だった。
男の、声だ。
顔が見えない分、それだけがよく響く。
柘植はウヅキのズボンに手をかけて、簡単に前を開く。
下着の中から取り出したそれを、なんの弊害も無く口に含んだ。
「な・・・っや、ま・・・っおにーさん、待って、俺、そんなの・・っ」
「・・・・・」
慣れているように、柘植はそれに舌を這わせて手を使う。
びくん、と腰が揺れる。
「・・・ん・・っ」
ウヅキは動揺したのだ。
その行為を、強要されることはあってもされたことはほとんどない。
経験は乏しい身体を、柘植は簡単に高めてゆく。
「あ! んん・・・っや、ぁ・・・っ」
声が漏れる。
必死で唇を噛み締めても、柘植のその動きに反応してしまう。
声なんか。
あげたりしないのに。
抱かれても、息を殺すように卯月は啼かない。
抱かれるより、犯される辛さ。
それに、耐えるだけなのだ。
いつかは終わる。開放される。
それだけだ。
けれど。
柘植の口に。
手に、舌に。
ウヅキは思考が纏まらなくなってくる。
「ん、んんー・・・っ、ぁ、ン・・・っや、そ、こ・・・あぁっ」
濡れているのは、柘植の唾液かウヅキの体液か。
吸い上げる音が。
舐め取る音が。
ウヅキの耳に届く。
思考を壊してゆく。
「や、ぁん、おに、さ・・・っま、ま・・あ・・」
柘植の指が、自然と後ろへと伸びる。
「あ・・・!」
足掻くように。
思わず逃げてしまうように。
足がシーツの上を彷徨い、身体が浮いた。
けれど、柘植はそれを許さないとばかりに押さえつけてくる。
濡れた手でその蕾へと触れられて、ウヅキはいやだ、と感じた。
いや?
自分から強請ったのに?
抱いて欲しいと、言ったのに?
ウヅキが自分の考えに沈んでいる間に、柘植はその指を深く埋めてくる。
「ん・・・・っあぁぁ・・・っ」
身体が硬くなる。
思えば、毎日のように抱かれていたはずなのに。
セックスが久しぶりなのだ。
やはり、柘植は慣れているのだろうか。
恋人が男なのだ。
当然なのかもしれない。
すぐにウヅキの奥に触れて、
「あ、ぁ・・・っ!」
大きな手が。
長い指が。
ウヅキの中で抽挿を繰り返す。
柘植の舌は、ウヅキの何もかもを舐め取るようにそこを這う。
「あ、あ・・・っや、ぁ・・・も、・・・ん・・・っ」
柘植の声は聞こえない。
けれど、ウヅキには何もかもがどうでも良かった。
ただ、目の前の開放だけだ。
久しぶりのセックスに、のめり込んでいるだけだ。
こんなに感じてしまうのは。
それだけだ。
柘植の舌が、指を埋めている秘口へと伸びる。
「や、あぁっ!」
指とは違う熱が、そこで動く。
「ん、あ、あ、・・・っや、ぁ・・・っや、や・・ぁ・・・っ」
足を閉じようとしても、柘植は許さなかった。
ウヅキはそのまま、解放へと登り詰めされただけだ。
「あ、あ、ん・・・っも、・・・あぁ・・・っ」
柘植の手に、我慢など出来ることもなく、果てた。
その瞬間の熱が、身体を襲う。
そして、冷めた。
ただ荒い息だけが寝室に響く。
大きく胸を上下するように呼吸を繰り返していると、覆いかぶさった柘植が汗で額に張り付いた髪の毛を掻き分けてくれる。
「・・・卯月?」
「・・・ん、ん・・・おに、さん・・・いれる・・・?」
「挿れない」
続きを促すつもりだったけれど、柘植の声はあっさりとしていた。
暗闇の中で驚いて見上げると、闇に慣れた視界に柘植の顔がぼんやりと映る。
「挿れない。卯月がしたいなら・・・こうしてしてやるから。他の誰にも、させるんじゃない」
「・・・・・」
それって、どういう意味?
抱かないけれど、してくれるの?
それって、なんの意味がある?


to be continued...

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