手のひらの熱  10






「ん・・・っん、ん、・・・んんっ」
柘植の手は熱い。
冷たいシーツの上にウヅキは初めて裸で転がった。
何も隠すものもない身体を、柘植はその全てを暴くように手で、唇でなぞってゆく。
わき腹をなぞられて、背中を撫でられて、薄い胸の上にある突起を口に含まれて。
どこに柘植が触れても、ウヅキは腰が浮いてしまう。
せめて、声をどうにかしたい、と自分の腕で口を塞いだ。
微かに聞こえた、柘植の笑うような声は幻聴ではない。
細いウヅキに覆いかぶさるように身体を重ねていたのを少し起こして、
「卯月? なにやってるんだ?」
笑いながら塞いでいた手を取り上げた。
「や・・・っ」
「ん?」
無意識に吸って、歯を立てていたのか自分の腕に痕が残ってしまっている。
そこに、柘植はウヅキに見せるように舌を這わせた。
片手でその腕を取り、もう片方でウヅキのもうどうにかなりそうな中心へと伸ばす。
「あ、や・・・っだ、だって・・・っ」
「なに?」
「こ、こえが・・・っあぁっ」
抑えようとする側から、柘植の巧みな指で固くなった自分自身に触れられて腰が揺れる。
いやいや、と首を振る。
懇願するように、柘植を見上げた。
「こえ、声が、でちゃう、から・・・っ」
恥ずかしいのだ。
けれど、柘植は笑みを深くして、
「出せよ、誰も啼くなとは言ってないぞ? むしろ、聴きたい」
「ば・・・っヘンタイ! 俺の、声なん、か・・・っ」
「可愛い声、もっと聴かせろよ」
「か・・・っかわいくなんかない! なに言ってんのっナナさん・・・っ」
「可愛いだろ、そんな声出して・・・これ以上、俺我慢できそうにないんだけど」
「・・・・・っ」
大きな手のひらが内股を這い、奥へと進む。
「ん・・・っぁ・・・っ」
「卯月のなか、すごく熱い。だから・・・いつも、駄目だと思いながらも・・・止められなかった」
「・・・っ」
すでに濡れた指が、ゆっくりと押し入ってくる。
ウヅキがそれに、身体を硬くしたのは一瞬だ。
入ってきた長い指に、すぐに翻弄されて身体が蕩けてしまう。
「ほら、なか・・・いつも俺を誘ってる。無意識か? それとも、わざと俺を煽ってる?」
「あ、おって・・・っ」
なんか、いない。
そんなこと、したこともない。
けれど、柘植の指はますます深くウヅキを暴く。
「あ・・・っや、ぁん・・・っな、ナナさ・・・っエロい、よ・・・っ」
指が。
手が。
吐息が。
視線が。
柘植の全てに、奪われる。
何もかもを、剥ぎ取られる。
煽っているのは、柘植のほうだ。
柘植は嬉しそうに笑って、
「エロいよ、当然だろ? どれだけ我慢してたと思ってる? お前を一晩中泣かせることもできるし、酷いことだってできる。でも、したくない」
「・・・・っ?」
「セックスってより、メイクラブ。俺は、お前と愛し合いたい」
「・・・・・・っ」
心臓が止まる。
止まったと思った。
その衝撃に、ウヅキは目がチカチカとして脳髄から揺らされた気がした。
最悪だ。
このひと、なに言ってんの。
今、なに言ったの。
混乱した思考を抱えて、何もいえないでいたウヅキに、
「悪い・・・ちょっと、我慢できない・・・させてくれ」
囁くように顔を近づけて、ウヅキの細い腰を抱えた。
「あ・・・ん―――――・・・っ」
慣らしたウヅキの内へ柘植はゆっくりと、しかし強く腰を進めた。
入れてしまうと、柘植はウヅキを待つことなく律動を始める。
「んっぁ、あっやっ、あ、ま、ま・・・って、んぁ・・・っ」
「・・・待て、ない・・・悪い、少しだけ・・・」
「す、こし・・・って・・ああぁっ・・・」
クラクラしたままの思考を纏める暇もなく、揺すられる柘植に合わせてウヅキは抑えられなくなってゆく。
「あ、あ、や、ナナ、さぁ、ん・・・っあぁ・・・っ」
「・・・っ、卯月・・・」
熱の籠った声で呼ばれて、熱い手で身体を探られて。
ウヅキはどこかキレてしまいそうなほどの快感が身体中を駆巡った。
「あぁ――――・・・っ」
押し上げられて放ってしまう。身体の奥にも、熱が吐き出されたのが分かった。
「・・・ん・・・っ」
ウヅキの中から、濡れたそれを引き抜く感触でさえ震えるほど反応してしまう。
胸を大きく震わせながら、呼吸を整えてウヅキは潤んでしまった目で柘植を睨み上げる。
「ん・・・っも、ひ、どいこと、しないって・・・、言ったのに・・・っ」
酷くはない。
ウヅキの身体は、どこも傷つけられてもいない。
乱暴にもされていない。
しかし、甘い。
痛いほど、甘い。
その愛撫が、酷い。
その本音は口にすることは出来ず、ただ涙が零れるのを堪えて柘植を見上げた。
「酷いことはしない」
柘植はその目に浮かんだ涙を舐め取って、そのまま唇にも触れる。
「・・・けど、いやらしいことはしたい」
「・・・・・っ」
唇が触れ合う距離で、柘植は揺れるウヅキの目を覗き込んでくる。
「男だぜ? 俺も・・・卯月、」
「・・・んっ」
「もっと、いやらしいこと、しよう」
「・・・・・・っ」
耐えられない。
これは、なに?
この甘さはなに?
どうして、こんなことになってる?
ウヅキは唇を噛み締めて、泣きそうになるのを耐えた。
睨み付けたいけれど、潤んだ視界ではよく柘植が見えない。
柘植はその視線の先で、笑っているようだった。
笑わないで。
そんなに、優しい目で見ないで。
おかしくなるから。
やめて。
一度だけでも、良かったのに。
それだけで、自分には充分だったのに。
怖い。
こんなに優しい手は知らない。
こんなに温かい身体は知らない。
溺れてしまう。
離せなくなってしまう。
やめて。
これ以上、入ってこないで。
俺を弱くしないで。
いつかこの温度が、失くなってしまうと分かっているから。
怖い。


to be continued...

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