不器用に交叉するだけで  4






レキフミはすでに独り暮らしを始めている。どう考えても、あの家は落ち着ける場所ではない。
ミチルの家からまっすぐに帰り、ベッドに転がる。
身体が疲れていた。
ミチルが気を失うまで、抱いたから?
けれど、それ以上に身体がだるい。脳裏を圧迫する何かに、煩わしさを感じた。
腕すら上げられない。
清潔好きなレキフミだけれど、シャワーを浴びようとも思わなかった。
何も考えたくないと思いながら、どこかで判っている。
そう、なりたくない。
だから、考えたくない。
細い腰だった。
足は、女のように柔らかく白かった。
男の証であるというのに、ミチルのそれは何故か綺麗に見えた。
思わず口淫してしまいそうだった。
視界に映した素肌は下だけ。
きっとシャツの中で乳首が硬くなっていたはずだ。一度もそれに触れてもいない。
けれど、想像できた。
想像でしかないのに、自分の身体が震えてしまった。
レキフミは奥歯を噛み締めて、視界を閉じた。
想像というより、妄想だ。
薄い身体を、全て暴いてやれば良かった。
想像を、現実にしてやれば良かった。
きっと、興味を失くしたはずだ。
こんなにも執着するのは、まだ、見ていないミチルがいるからだ。
レキフミは疲れきった身体を少し丸めた。大きな手が自分の中心へと伸びる。
ズボンから取り出したそれはすでに硬く、レキフミは目をぎゅっと閉じた。
思い浮かべるのは、見たことのないミチル。
白い肢体。
尖った乳首。
細いうなじ。
浮き出た鎖骨。
わき腹から背中。
盛り上がる肩甲骨。
撓る上体。
揺れる腰。
涙を見せていない、ミチル。
ただ欲情に啼く、ミチル。
「・・・っ」
レキフミの手の中で、それはあっけなく果てた。
何度もミチルの中で出した後なのだ。
薄い自分の精液を、荒い呼吸を落ち着けながら見てレキフミは顔を顰めた。
まだ、ミチルを抱けそうだった。
「・・・チッ」
レキフミは舌打ちをして、無理やり身体を起こす。
そのままシャワーブースへ飛び込んだ。
頭から冷たい水を被り、少しのぼせ過ぎた脳みそを冷やしたかった。
自慰など、初めてだった。
淡白だと思っていた。
相手がいるからその気になるのだと思っていた。
そして、その相手に興味がなくなれば熱も冷める。
抱く気も起きない。
今まではその通り、自分の欲求が終わればもう欲情などしなかった。

けれど、なんだっていうんだ。

ミチルの姿態を想像する。
それだけで、何度でも出来そうだった。
独りででも、イける。
そのまま休むことなく、大学へ向かった。
身体は疲れているけれど、頭が落ち着かない。
気を抜くと、厭なことを考えそうだったのだ。
講義を終えて、構内のカフェで珈琲を飲む。
独りでぼうっとしているように見えて、頭の中はやはり落ち着かない。
俺は、何がしたい?
何度も同じことを自問し、答えなど出ない。
出したくない。
そこへ友人が二人、当たり前のように同じテーブルについた。
「レキフミ、今週末はバイト休みって言ってたよな?」
「・・・ああ」
レキフミにあまり表情のないのはいつものことだ。
それを良く知る二人はさして気にも留めず、言葉を続けた。
「今日、G商事のOLとあるけど、来る?」
「・・・・・・やれるなら行く」
その答えに、二人はレキフミを見つめる目を少し瞠った。
「・・・なに」
「なにって、お前がそんなこと言うなんて驚いたんだよ」
「ヤリたいのかよ、お前が、珍しいな」
「・・・・すげぇ、ヤリたい」
「なら、来いよ、お前ならその気になれば誰だってヤレるだろ」
「てかさ、家に帰りゃいくらでもいんじゃねぇの?」
今も、実家にはやはりセックスが好きな女優がいるだろう。
レキフミは重たい、と感じる頭を少し振った。
「・・・玄人は厭だ。素人がいい。俺が何しても、嫌がらない女がいい」
友人は少し呆れて、
「何するつもりだ、お前・・・」
「別にいいけど、ただヤリたいって、珍しいよなお前が。溜まってんの?」
「・・・・昨日、一晩中ヤってた」
「一晩かよ!」
「それで足りないとか言うか! この淡白野郎が!」
言い寄る二人に、レキフミは大きく息を吐いた。
考えたくない。
判りたくない。
どうして、頭から離れないんだ。
見たこともない、姿態を見せるミチル。
何度だって出来そうだ。
「オナニーするよりいい」
「お前と自慰って、お前と誠実くらいおかしい」
「・・・・どういう意味だ」
レキフミが少し目を細めて見ると、その冷たい視線にも慣れた相手はあっさりと答えた。
「有り得ない」
有り得ない。
そんなことは、言われなくてもレキフミが一番良く判っている。
もう一人は、そういった男の頭を軽く叩き、
「別にいいだろ、そんなことがあったって。それより、お前が誰かを一晩も抱いていたことのほうが凄い」
誰だったんだ、と探るように覗き込まれる。
思い浮かべれば、すぐに脳裏に浮かんでくる。
綺麗な年上の男。
レキフミは少し目を細めて、簡潔な形容詞を告げた。
「・・・前から狙ってた、サラリーマン」


to be continued...

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