不器用に交叉するだけで  2






ミチルを初めて見た瞬間に、戦慄が走るほどの興味を持ったのを覚えている。
綺麗な人はどう見ても年上でそして、隣の人間しか見えていないようだった。
そこで相手の男を見た。
ミチルの視線の先にいつもいる男は、自分から見てもいい男だ。
笑顔は柔らかく、紳士で、きっとこういう人間を良い大人というのかもしれない。
ミチルの表情はどちらかと言えば冷たく、高慢な冷徹さを見せるものだった。
けれど、その男を前にすると甘さに溶けるほどの笑顔を見せる。
自分のものには決してならないだろうそれに、レキフミは今まででないくらいの興味を覚えた。
あの綺麗な顔を、思い切り泣かせてみたい。
憎しみだけに、染めてみたい。
綺麗なものなのないのだと、教えてやりたい。
レキフミはどれだけ時間を費やしても、必ずしてみせると確信した。
しかし、これほど夢中になっても、落ちてしまえばもう周囲と溶け込むほどに見分けがつかなくなるのだろう。
今までと、同じように。
ならば、時間をかけてもいい。
確実に落ちると判るその日まで、この寒気すら覚える興味をずっと感じていたい。
そのほうが、絶対面白いはずだ。
レキフミが、仮面を付けたように笑い始めたのはその時からだった。
レキフミは、このカフェ「ドリス」には長い。
高校生の頃から、バイトとして働いていた。この接客が自分にあっているのだろう。
もはや興味がある人間を探すことがライフワークになっているのではと思うほどの、人間観察にこれ以上の場所は無い。
様々な人間の集まる場所は、見ていて本当に飽きない。
馬鹿に仕切ったような嘲りを笑顔ひとつの下に隠して、相手をすることもすでに快感を覚えるほどだ。
もともと、会社勤めをする気はなかったレキフミは大学を出ればここへ就職することに決まっていた。
カフェのオーナーとはかなり親密な仲で、レキフミのこの性癖を楽しんでいる気配もある。
オーナーと元々の知り合いは、レキフミの父親である。
レキフミのこの恋愛観は親のせいと言っても良かった。
しかし、それをレキフミは責任を押し付けたり詰ったりはしない。
今の自分に、充分満足しているからだ。
レキフミは今まで生きて経験してきた中で、これほど打ち震えたことはない。
目の前で項垂れるミチルを見たとき、歓喜に発狂しそうだった。
どう見ても、すでに壊れかけていた。
ミチルの心は脆い。
レキフミはそれを教えられなくても判っていた。後は、手を離してやれば良い。
その心を壊せ、と囁いてやるだけで良い。
「俺を、壊してくれないか」
レキフミは、それ以上に甘い言葉などないと思った。
虚ろなままの目など、つまらない。
誰を想っているのかなど判りきっているけれど、そんなミチルを抱いても面白くもなんともない。
確実に、壊す方法がある。
笑顔の下を見せて、ぼろぼろに、壊してやりたい。
レキフミの思惑は成功したのだ。
ミチルは今、レキフミしか見えていない。
恐怖に怯える自分を必死で耐えている。
高すぎるプライドがそうさせているのだろう。
それを、もっと折ってやりたい。
立ち上がれないほどに、壊してやりたい。
「い、やだ・・・っいやだ、もう、あ・・っ」
膝を大きく広げて、自分の抽挿をずっと見つめていた。
愚図っている声は、誘っているようにしか聞こえない。
「いやだって、ここはそんなこと言ってないじゃないですか」
ミチルの中心は触れてもいないのにそそり立ち、先が耐えられないと濡れている。
レキフミはミチルの奥へ、一番良く反応するところへ自分を擦りつけた。
「いやっやっやめ、やめろ、あ、あ、だめだ、い、やっ」
「嘘吐き、ミチルさん」
「いや、あ、あっそこ、そこ、いや、だ、いや、あ」
ミチルの内は、想像以上だった。
想っていた以上に、堪らなくなる。
柔らかな内壁は擦り付けるたびに赤く熟れて行くようで、ますますレキフミを離そうとしない。
絡み付くようなそれに、レキフミは今までミチルを抱いていた男全員に嫉妬を覚えた。
嫉妬?
俺が?
この、相手に?
泣きながらいやだと繰り返すミチルに、レキフミは抑えきれない感情を持て余した。
これは、なんだ?
怒っているのか?
いやだと言われて?
それでも、ミチルの身体は正直に反応している。
こうなるまで、どのくらいの男に抱かれたのだろうか。
あの男には、どんな風に抱かれた?
そんな声で、もっと欲しいと強請って見せたのか?
泣きながら止めろと言い続ける、その声で?
レキフミは抑えていた膝から手を離し、もう何度も果ててずくずくになったミチルの中心を力を込めて握り絞めた。
「ひ・・・あぁっ!」
こうすれば、ミチルは果てることは無い。
開放は、訪れない。
けれど、レキフミは腰を止めなかった。
ただ延々と、変わらずミチルのその場所を攻め続けるだけだ。
「れ、レキフミ、レキフミ、いやだ、やめてくれ、はな、して、」
ミチルが名前を呼ぶと、レキフミの中に違う何かが生まれる。
初めて聴いたときは、あまりに微かで気のせいかとも思ったけれど、確認するように何度も呼ばせてみればやはり、間違いではない。
甘く、脳髄に響く。
レキフミを恍惚へと導く。
もっと聴きたくて、何度も呼ばせた。
それが、さらにレキフミを興奮させる。
レキフミは震える身体を見下ろした。
曝け出しているのは下半身だけだ。上には、まだネクタイを締めたままの状態で触れてはいない。
ジャケットはめくれて、シャツの裾やネクタイの端には、何度も放った熱ですでに汚れている。
その奇妙にも感じる不思議な光景に、レキフミは自分を抑えられなかった。
「いやだ、ってミチルさんが言ったんですよ・・・いやだばっかりだ」
「や、いやだ、もう、やめてくれ、やめて、離して」
「どうなんですか? はっきり言ってくださいよ・・・」
「れ、レキ、フミ・・・っもう、もう、頼むから・・・っ」
「何を、お願いされているんでしょうね、俺は。どっちがいやなんですか、挿れるの、やめましょうか、それとも、手を、離しましょうか」
「・・・っ、ん、んっ」
レキフミは律動を少し早めた。
ミチルの顔が、苦しそうに歪む。
渇いた唇を思わず舐めた。
まだ、終わりそうにない。
まだ、汚したりない。
もっと、壊したい。
「ミチルさん? どうしますか?」
「・・・っは、な、してくれ・・・っ」
「・・・手を、離すんですね?」
ミチルは何度も頷いた。それを確認して、レキフミは心から喜んだ。
もっと犯したい。
ぐちゃぐちゃになるまで、犯し続けたい。
「あ、あっあっれ、レキフ、ミっあぁっ」
「イッて下さい、ミチルさん・・・もっと、壊れてください」
レキフミは終わらない熱を飲み込んだ。
深く、刻み付けるように。


to be continued...

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