不器用に交叉するだけで  10






ミチルは壊れた。
そうなるように、抱いたのだ。
全てに触れて、見たミチルの身体はどこも想像とは違う。
想像以上にレキフミを掻き立てた。
胸の上で震え硬くなる突起を口に咥えれば、思った以上に反応された。
うなじから鎖骨、肩から腕。
わき腹も浮き出た肩甲骨も。
全てレキフミを急き立てるものでしかなかった。
レキフミで汚れたミチルが、意識を手放してその四肢をベッドへ投げ出す姿態を見ても、どうしようもなかった。
「ミチルさん」
レキフミは強くその頬を叩いた。
呻くように、苦しそうに顔を歪めて起きたくなどない、と背けるミチルに容赦なく続けて叩いた。
「ミチルさん、起きてください」
「う・・・ん、な、に・・・」
疲れきっているのだ。
このまま、寝させてやりたいとは思う。
けれど、ミチル自身もベッドもどろどろだ。
放って置いて欲しい、と目を閉じたまま眉を顰めるミチルに、
「駄目です、起きてください」
レキフミは背中に腕を差し込んで上体を起こした。
「ん・・・な、んだ、なに、もう・・・」
「抱きませんよ。今日は、もう。でも寝るのはシャワーを浴びてからです」
「・・・いい、もう、この、まま・・・」
「駄目です。入って来て下さい。その間に、シーツ変えておきますから」
「・・・レキフミ?」
無理やり立たせられるようにされたミチルは、漸く目を開きそして訝しんだままレキフミを見る。
レキフミはその惨状を見て、目を顰めた。
「襲いたくなるんですよ、まだ。その格好でいられると。だからシャワーを浴びて来て下さい」
「・・・・・」
ミチルは少し躊躇を見せたけれど、それでもレキフミに従った。
レキフミは一階の浴室までミチルに手を貸しながら連れてゆくと、すぐに寝室へ戻りシーツを変えた。
汚れたそれを見下ろしながら、レキフミは溜息を吐く。
自分がおかしい。
終わった後まで、こんな世話を焼いている自分が、在り得ない。
見たくないなら、放って帰ってしまえば良い。
前と同じように布団をかけて視界を封じて、そのまま背を向ければ良かったのだ。
出来なかったのは、ミチルの腕のせいだ。
熱い腕が、背中に回った。
その温度が、まだ背中に残る。
放って置いたとしても、ミチルは一人でも良いだろう。
むしろ、そうしたほうがより壊れるだろう。
どうして、こんなことをしている?
レキフミはしてしまいながらも疑問を感じていた。
そして、それに答えなどない。
レキフミは汚れたシーツを抱えて浴室まで降りた。
脱衣所にある洗濯機にそれを放り込んで、擦りガラスのドアの向こうから聞こえるシャワーの音をじっと見つめる。
そのうちに、水音に耐えれなくなり声を上げた。
「・・・ミチルさん」
返事はない。ただ、シャワーからの熱が溢れる音が聞こえるだけだ。
「ミチルさん」
レキフミはそのドアに手を伸ばし、湯気が溢れるのに目を顰めた。
外していない眼鏡が曇る。
レキフミは下衣を身につけているだけで、そのまま浴室へ足を踏み出した。
「ミチ・・・」
曇った眼鏡の向こうに見えるのは、座り込んだミチル。
シャワーの首を掴んでしかしそのままへたり込んで動けなくなったミチル。
困惑した顔が、そのままレキフミを見上げてくる。
「・・・なんだ」
しかし、発せられる言葉は冷たく突き放したような声だ。
レキフミはそれで、躊躇うことを吹っ切った。
「ミチルさん、立てないんでしょう」
「・・・・」
「一人で、洗えないんじゃないですか」
「・・・・放っておいてくれ」
「放っとけませんよ、俺の、中から溢れてるんでしょう」
「・・・・っわ、判って、る、なら・・・っ」
赤らめた顔を背けたミチルの後ろへ、レキフミは屈み込んだ。
「俺のせいなら、俺が洗います」
「なに・・・っ」
「全部、掻き出してあげます」
「レキフミ・・・っ」
抵抗する声など、力ない腕など気にならない。
レキフミはその通りに何度も攻めたその内壁に指を埋めた。
息を飲むミチルを見つめながら、中が濡れているのを感じる。
それを掻き出しながら、どうしてこんなことをしているのだろう、と思考を巡らせる。
アフターサービスまで、したことなどない。
やってしまえば、それで終わりだ。
もう、興味はないものにすることなどない。
けれど、どうしてここまでする?
「れ、レキ、フ・・・っ」
「ああ、すげぇ、入ってますね、溢れてます」
「レキフミ・・・っ」
「大丈夫ですよ、全部出しますから」
「・・・・っ」
シャワーのコックをミチルから奪い、レキフミはその奥へと当てた。
「や・・・っあ、熱い・・・っ」
「我慢してください、洗うだけです」
「い、や・・・っだ」
「だから、聞けませんよ、ミチルさんの厭は」
「う・・・あ・・っ」
「ミチルさん、腰上げて・・・そう、そのまま」
「あ・・・っあ・・・っ」
シャワーから勢いよく溢れるお湯を直接当てて、中に送り込む。
指でグルグルと内壁を掻き回し、傷つけないように洗った。
自分の穿いたままのジーパンが濡れようとも、レキフミは構わなかった。
「はい、終わりです」
レキフミは業務用のようにそれを告げて、そこから指を抜いた。
ついでにシャワーをミチルの身体にかけて、ミチルが俯いたまま震えているのに気付く。
「ミチルさん?」
「・・・・っ」
その身体の変化には、すぐに気付いた。
レキフミは溜息を吐いて、
「ミチルさん、どうしてそう俺を煽るんです? せっかく止めてあげたのに」
「お前が・・・っ」
勢いのまま振り向いたミチルを、シャワーで濡らしたタイルの上へ押し付けた。そのまま覆いかぶさる。
「レキフミ・・・っもう・・っ」
「・・・・イれませんよ」
それでも、熱を持った身体は簡単には引かない。
レキフミは曇る眼鏡を鬱陶しそうに外しタイルの上に置いた。
そのまま、組み敷いたミチルの足を抱えて閉じさせる。
膝を合わせて、そのまま腰を抱えた。
「れ、レキフミ・・・っ」
「ここで、いいですから・・・させてください」
レキフミは張り詰めたジーパンから取り出した自身を、ミチルのその足の間に埋めた。
太腿の間は、柔らかく熱い。
「う、あ・・・っ」
足の間で繰り返される抽挿に、反応していたミチルは信じられないように怯えを見せて震える。
「れ、レキフミ、レキフミ・・・っ」
「・・・なんですか、イれませんよ、これで、我慢してるんです」
「あ・・あっで、でも、」
「でも、なんですか、ミチルさん」
「あ・・・うぁ、レキ、レキフミ、レキ・・・っ」
「一緒に擦ってあげますから、イッてください」
「あ、あ・・・っい、ま、まて、あ・・・っ」
「待ちませんよ」
「レ、レキフミ・・・っ」
「・・・・ミチルさん?」
動揺が見えた。
ミチルの目に、震えているのが見えた。
それを覗き込むと、戸惑っていたミチルの腕が伸びあがってきた。
「あ・・・っ」
背中が、熱かった。
回された腕に、レキフミはやはり思考が飛んだ。
これは、なんだ?
その答えを見つけられないまま、レキフミは手の中のミチルと一緒に果てた。
ミチルをベッドへ戻し、気を失うように眠るのを見ても、答えはなかった。
そのまま、レキフミは思考の中に入ってしまった。
その男を見たのは、そんなときだ。
レキフミはその男を見るのを、久しぶりに感じた。
いつもいつも頭のどこかにあって、消えてくれない。
だから実際に視界に映るのを見て、久しぶりだ、と思ったのだ。

柘植だった。


to be continued...

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