欲求不満  2




出来るなら一緒の仕事がしたいけど、一緒の会社に入って一緒の部屋に帰ってって生活をしてたら、皇紀さんに嫌がれそう・・・で、辞めた。それにじっと籠もりっぱなしってのが、俺の性格に合わない。やっぱり少しは動きたい。
俺はそのまま周りに座って暇潰しのように俺の取ってきた資料を見始めた友人達を見回した。
「・・・なぁ」
気になって、口を開く。振り返ってきた視線たちに少し迷いながらも、
「年上の社会人から見てよ、俺らってやっぱ・・・ガキ?」
俺的には、もう子供じゃないつもりだったけど・・・どうしても、皇紀さんは俺を同じようには見ていない。
一瞬、きょとんとした友人達は男女ともに不思議そうな顔と面白そうな顔半々で、
「そこまで子供じゃないと思うけど〜? 子供扱いは止めてほしいわよね」
「年上ってどのくらい上? てかお前、今年上と付き合ってんの?」
「確かにガキかもだけど、そこも売りじゃない?」
「年上かぁ・・・もしか、人妻?!」
一気に言われて、俺は眉を顰める。
「あのなぁ・・・とりあえず、人のもんじゃねぇよ、確か・・・10、いや11、上かな・・・」
「はぁ?! それって、30超えてるじゃん!」
「上すぎだろ! お前どーしてそんなの選んでんの?!」
「どうやって知り合ったのー?! って、その年で独身って、ちょっとヤバクない?」
「うるせぇ! いいだろ、どうでも!」
「よくねぇよ〜、教えろよ! なんでお前がまた年上なんだよ!」
「・・・・・・」
確かに、そういわれるほど、俺は年上とは付き合ったことはない。
「どうやって知り合ったんだ?」
「・・・酔っ払ってるとこ、介抱したんだよ」
素直に答えた俺に、笑い声が返ってくる。
「そこを喰ったのか!」
「やっぱお前って節操ねぇなー!」
「うるさいって! そのときは、マジでそんな気はなかったんだよ!」
そうだ。
あの日、確かに助けた瞬間はそんな気は無かった。ただの顔見知りだったし、しかも野郎だ。お隣さん、てくらいの顔見知りだっただけで。年上だろうなってくらいの興味しかなくて・・・確かに、綺麗な顔だったから覚えていたんだけど。
それでも、手を出す気はまったく無かったんだ。
あの時、誘われるような目を見るまでは。寂しそうな顔を見るまでは。
落ちた。あれで、一発だったんだよな・・・
俺は周りで騒ぎ始めた友人を抑えるのに、
「そんなことどうでもいいから! 俺はあの人に認めて欲しいんだよ!だからどうやったら追いつけるか必死なんだよ」
「ああ、それで就職・・・」
「でもさ、そんなに頑張んなくても、可愛くしてればいいんじゃないの?」
「だよね、そんなに離れてれば、向こうもヒモくらいにしか思ってないんじゃないの?」
「・・・んなわけねぇだろ!」
ヒモだと?!
この俺が? 飼われるのか?!
「俺はあの人にガキ扱いされたくないだけだ! だいたい皇紀さんがヒモなんか作れるはずねぇだろ!」
皇紀さんはいつも寂しがりやだ。
強がっているけど、裏切られたくなくていつも跳ねつけているけど、本当は構って欲しくて愛されたくて寂しくて仕方ない人だ。
それくらい、俺にだって解る。だけど皇紀さんのプライドは高い。
俺がただ言葉で言うだけじゃ、崩れないくらい高い。
勢いで言ってしまって、何故か視線を集めたことに気付いた。
「・・・なんだよ!」
「なにって・・・コウキさんって、誰だよ」
「その年上の相手?」
「み・・・苗字? 名前?」
「名前だけど?」
戸惑っている質問の意味が解らなくて、俺はブスくれたまま答えた。
だから、なんだっての?
「・・・・おい、恭司? その相手って・・・女か?」
ひとりがかなり躊躇して聞いてきた。
俺はもちろん、隠すつもりなんか無い。
「男だよ、オカマとかそんなんじゃなく、正真正銘野郎」
「・・・はぁ?!」
「おっまえ! いつからゲイになった!?」
「うわぁ、私ホモって初めてみたぁ!」
あからさまな侮蔑と興味。
そんなこと、一番俺が不思議だっつの。
「うるせぇ、ほっとけ!」
こいつらに訊こうとした俺が莫迦だった。
「ねぇねぇ、どんな人?!」
「ああ! 見たい! 会わせろ!」
「恭司が付き合うくらいだもんねー」
「・・・・絶対、嫌だ!」
会わせられるはずねぇだろ、お前らなんかに。
あの傷つきやすい皇紀さんがますます傷ついて・・・怒ってもう俺と会ってもくれなくなったりしたらどうする?!
「出しおみすんなよ!」
「いいじゃん、減るもんじゃなし」
「減るね」
そして何より見せたくない理由はひとつしかない。
「これ以上敵は増やしたくない」
皇紀さんの綺麗さをもう、誰にも見せたくない。
こいつらはもちろん、もう部屋に閉じ込めておきたいくらいなのに。
そんな俺を、悪友達は「重症だ」と言う。
ほっとけ、そんなこと、言われなくても解ってるよ。
俺はもう相手をしないことを決めて、また資料に目を落とした。
でも仕事なんて、どんなのがいいんだ?
やりたいことも思いつかないし、何になったら・・・皇紀さんに認めてもらえるだろう。
俺の頭の中はもう皇紀さんでいっぱいだ。
ほかのことなんか、入る余裕なんか無い。
これって、ちょっとやばい? ストーカー入ってる?
でも、朝から晩まで、四六時中居たいんだ。ずっとそばに居たいんだ。
俺はそこまで考えて、ふと気付いた。
・・・・あれ?
そういえば、ベッドが来てからなんか忘れてるような?
俺、あのとき何を言ってたっけ?
思いをめぐらせて、まだ俺の周りで屯っていた悪友のことなんかすっかり
忘れて、叫んだ。

「・・・・ああ!!」



to be continued...



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