愛し愛され  ―恭司―  4




初めてコウキさんの声を聞いた気がした。
年上になんて全然見えない。全く見えない。
何を思い出しているのか、表情が辛そうに歪む。抱かれた男の数だけ、思い出しているのかもしれない。
そんなの嫌だ。
嫌だ、としか思えない自分が情けなかった。
そこで初めて解った。
コウキさんが何を言いたいのか。何を思ってるのか。
充分傷ついている。もう傷を負いたくないと周りを拒絶してる。
俺はそんなやつらと一緒にされたくない。
けれど、俺の未来を保障するのは今のこの気持ちしかない。
絶対に裏切らないし、この気持ちは変わらないって思う。
それを証明するものがなくて、情けなかった。
俺の心臓を切り取って、差し出すことが出来ればいいのに。俺がもし裏切ったら、それを捨ててくれれば良い。
泣きそうな顔で俺を睨みつけるコウキさんが、動揺した。
「・・・・・」
目が揺れて、俺を見上げている。

なに? なんで・・・・

俺は自分の顔に触れて、やっと気付いた。
泣いていた。
「・・・っ」
頬が濡れていて、慌てて手を擦り付ける。
泣くなんて! 涙を見せるなんて! しかも情けなさからだ!
俺は恥ずかしくて顔を背けた。涙が止まらなかったからだ。
「・・・・なんで、そんな」
さっきとは違う、弱々しい声でコウキさんが訊く。
そんなの、解ってるだろ。
「・・・どうしたら、あんたに認めて貰えるの、俺が、本気だって」
「僕なんて・・・一過性のものなんだよ、本当に。男に抱かれ慣れてるから、お前にも新鮮に見えただろうし、男を知らないなら、嵌り込むのも無理ないかもしれない・・・だけど」
コウキさんは真剣だった。
真剣に、俺を諦めさせようとしている。
「すぐに通り過ぎる。それが解ってるから、僕に近づくなって言ってる」
俺は少し考えた。
コウキさんは、傷つくのを恐れてる。誰かに捨てられて、裏切られて、その時が辛いのが嫌なんだ。
嫌なくらい、その人にコウキさんが、嵌ってるんだ。
俺を受け入れてくれないのって、捨てられるのが怖いから?
裏切られるのが怖いから?
それってさ・・・
「・・・・コウキさん、俺のこと、好きなの?」
「・・・・・っ?!」
俺にははっきり見えた。
動揺した目と、かすかに染まった頬。
好きだから、受け入れたくないのか? 自分から信じようとしないのか?
怖いのって、もう俺のこと、想ってくれてるから?
「・・・・なんだ」
俺は肩を撫で下ろすように息を吐いた。
「・・・・・・なんだ、ってなに」
「なぁんだ・・・そうなんだ」
警戒心を出して俺をまた睨むコウキさん。
でも悪いけど、もう全然怖くない。
もう、俺のものだったんだ。
納得して、頷く俺にコウキさんは訝しんで眉を顰める。
「なんだよ・・・」
「コウキさん、俺。コウキさんのこと、すげぇ好き」
「・・・・っ!」
はっきりと朱色に染めた頬と、動揺して俺から逸らした目。
キョーアク。
ごめん、我慢できそうに、ない。


to be continued...



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