愛し愛され  ―皇紀―  4




子供は平気で大人を傷つける。
それが傷だなんて思わない。怖いことなど一つもない。
だから子供は嫌いなんだ、と皇紀はため息を吐く。
世の中自分以外の人間しかいないんだぞ?
自分の想いが通らなくて当たり前なのに、それを解っていないからだ。
「惚れてるって言ってるだろ!」
怒鳴れば届くと思っているのか、しかし皇紀にそれを聞く耳はない。
「言葉なんて口にすれば誰でも言える」
言い切ってしまうと、恭司の顔が歪む。
怒りで歪む。
皇紀はそれを冷静に見つめた。
怒って出て行けばいい、と思ったのだ。
そして、こんな冷たい大人は相手にしなければいいと思った。
恭司は怒りを顔にだしていたけれど、それをふと無くした。
表情を、消した。
皇紀が訝しんで眉を寄せた瞬間、その身体を担ぎ上げられた。
「・・・?! ちょっと、なんだ?!」
そのまま皇紀の部屋を自分の部屋のように進み、ベッドまで行くとそこに皇紀を落とした。
スプリングの上で揺れながら、皇紀は恭司を睨み上げる。
「・・・しないって、言っているだろう、だから子供はいやなんだ」
「・・・子供子供ってさ、あんた、俺の何が解んの?」
表情をなくした恭司は、今までの子供には見えなかった。
皇紀は内心かなり怯んだのだが、プライドを持って耐えた。
「なんで俺を信じてくれねぇの? 好きって台詞以外の、何を見せればあんたが振り向いてくれんの? 仕事? 年収?」
何も言えない皇紀に、恭司はそのまま続けた。
「悪いけど、俺はそんなもん全然持ってねぇ。働くっても、バイトしかしたことねぇし、親のスネ齧ってるし、一人でまだ生きてなんていけねぇよ」
「・・・出来ないことだらけだな。だから、子供なんだ」
「子供の何が悪い?! 子供だろうとなんだろうと、あんたに惚れてんだよ! どうしたら俺のもんになるんだ?!」
「ならない」
皇紀ははっきりと言った。
真剣な声は、確かに皇紀に届いた。けれど、皇紀は受け入れることは出来ない。
「・・・僕はもう、誰のものにもならない」
「なんで」
「・・・男は嫌いだ」
皇紀は過去を思って、泣きそうだった。
視線を伏せて、恭司の真っ直ぐでまだ綺麗な視線から逃れたかった。
「仕方ないだろう・・・男同士なんて、実際なんの役にもたたない。僕はいくら抱かれても、子供なんて出来ない。・・・・仕方ないじゃないか」
だから皇紀は独りでいいと思う。
もう、裏切られるくらいなら初めから独りで居たほうが楽なのだ。
誰かを好きになるから、こんなにも辛いのだ。
誰も好きにならなければ、それでいい。
「子供なんていらねぇよ、あんたがいるなら!」
恭司の言葉に、皇紀は怒りを込めて睨んだ。
「誰もが最初はそう言った!」


to be continued...



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