愛し愛され  ―皇紀―  3




皇紀は身体中が痛みを覚えていた。
一晩中攻められるのは、この年にはきつい、と解っていたのに、途中からは自分でも止められなかった。
後悔しても後の祭りだ。
新しい週になって、社会人として、なんとか出勤した。
自分の机で、パソコンに向かうだけなのに、それが辛い。
このまま、ベッドに倒れ込みたいという欲求を必死で堪えていた。
「体調、悪いのか? それとも、遊びすぎか?」
先輩であり、同僚の男がそんな皇紀に笑って声を掛ける。
しかめっ面は、隠せなかった。
「・・・遊び過ぎです。すみません」
「なら、同情の余地なし」
皇紀も解っていたので、笑って背中を叩かれたのも、甘んじて受け入れた。
仕事に集中すれば、身体のだるさなど忘れてしまえる。
そう思って、目の前のパソコンに向かった。
今回請け負ったのは、雑誌の編集だったので、椅子から立ち上がることは少ない。それだけが、救いだった。
電話とメールのやり取りで、仕事に集中した。
会社に寝袋を用意されるほど、泊まりこみも多い会社だが、今日はどうしても、無理だった。
帰ってベッドで寝たい、外が暗くなると、そうしか考えれなかったのだ。
仕事の進行を社長に伝えて、今日は他の同僚より早く上がらせて貰った。
彼らは、これから一週間、会社に住み込む勢いなのだ。いつもなら、皇紀も仕事が終わるまではそうしていただろう。
疲れた身体にもう少しで家だ、と呟いて、歩いた。
そして、マンションの部屋の前で、足を止めた。
もうそこが自分の安息の地なのに、動かなかった。
ドアの前に、座り込んだ男がいる。
「・・・遅いよ、コウキさん」
皇紀は大きく息を吐いた。
年下とは思えない図体と態度のでかさ。しかし、その拗ねたような顔は確実に、幼い。
「何をしてる」
「待ってた」
「自分の部屋に帰れ」
「コウキさんを、待ってた」
朝までいたこの子供を、皇紀は部屋を出るときに追い出した。
遅刻しそうだったので、それだけで放っておいたのだ。
「待てとは言ってない・・・ほら、どきなさい」
皇紀はドアの前に座り込んだ男を足でつついた。
素直に立ち上がった男は、皇紀がドアを開けるとそれを全開にして、自分の身体も中に入れてきた。
「・・・自分の、部屋に帰りなさい」
「ずっと待ってたのに」
「待てとは言ってないだろ」
「待ちたかったんだよ、じゃないとあんた、捕まらないし」
「入るな」
「入るよ。ずっと待ってたのに」
「駄目、出なさい」
「やだ」
「やだって・・・一体、いくつだお前は」
「21」
「・・・・・」
帰ってきた年齢に、皇紀は頭がクラリ、とした。
違うはずだ。
頭を抑えて、それでも玄関で押し戻す。
「帰りなさい・・・疲れてるんだ、君みたいに、学校に遊びに行ってるワケじゃないんだから」
「何もしねぇよ」
「信用できない」
「マジで、何もしねぇ」
「あのね・・・」
皇紀は大きく息を吐いて、目線の違う目を見た。
若いエネルギーが溢れている。
「後悔」と言うことを、恐れない態度だ。
「僕は、君とは付き合わないよ」
「なんで」
「年下に興味はない」
「その年下に、縋ってたのに?」
「・・・誰でも良いときが、ある。それが、たまたま当たっただけだよ」
「誰でもいいんじゃなくて、俺にしろよ」
「君・・・」
「きみ、じゃねぇ。春名恭司、コウキさん、名前全然聞いてくんねぇんだな」
「・・・必要ないから」
男、恭司は拗ねたように、皇紀を睨んだけれど、皇紀は目を伏せた。
しかし、もう一度強く、恭司を見上げた。
「生活力のない、自立もしてない人間に、興味はない」
「そんなもん、そのうち付くだろ」
「なら、付いたときに来なさい」
「そんな先の話、できるかよ」
恭司はまた先を言いかけた皇紀の口を塞いだ。
噛み付くように、キスをした。
「・・・んっ」
皇紀はその肩を押し返すが、力では敵わない。
恭司が口を離すのを、待つしかない。
やっと離された口を拭って、
「・・・だから、信用できないんだよ、君は」
「余計なこと、考えんなよ、コウキさんのことなら知りたいけど、他のことは聞きたくない」
「・・・・山根皇紀、社会人、職業、デザイナー、年下に全く興味がない、今年32歳」
司の目が、驚愕に見開かれた。


to be continued...



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