愛し愛され  ―恭司―  1




しまったなぁ・・・

それが、正直な感想。
現在の気持ち。
昨日、男を抱いた。
知識として知ってたけど、実際にしてみたことなんかなかった。
酔っ払ってはいたけれど、記憶がなくなることなんかない。
しかも、九割がた興味本位で。
興味本位・・・だった。
なのに、途中から嵌って、思いのほか、のめり込んで、少しでも見せた、抵抗の仕草も、片端から抑え込んだ。
夢中になってしまった。
掠れた高い声が、耳に届いて、それにまた煽られて。
「待って、止めて」
と、言っていた気がする。
でも、止めなかった。止めれなかった。
それを思い返して、口に銜えた煙草の火が近づいてきて、慌てて取る。
「・・・っち、」
少し、熱かった。
現実に返る。
どうしようか。
どうしようもない。逃げることだって、ここから消えてしまえば・・・
よくねぇよ。
ここは俺のお隣さんだ。
そうだ、お隣さんなんだ。
後ろのベッドで、未だに目を覚ましてくれない相手は。
シーツに包まれた身体は、俺のよりもかなり細い。
年上のはずなのに、いや、男のはずなのに、綺麗な顔をしてて。
「・・・、んん・・・」
気づいたみたいだ。
少し身じろぎをして、ゆっくり身体を起こす。
上半身を起こして、辺りを見回している。俺と目が合って、身体をはっきりと硬直させた。
当然だよなぁ・・・
「・・・あのさぁ」
言いながら、俺は相手の身体を見る。
裸のままの身体に、俺がつけた痕が見える。所有物のつもりかよ、俺は。
そんなことを考えてても仕方ない。切り出した。
「・・・名前、なんだっけ」
「・・・・っ」
真っ赤になった相手が、勢いよく、手を振り上げる。
部屋に、小気味良い音が響いた。
「・・・ってぇ」
絶対、痕が残る。やっぱり女より痛い。
相手は立ち上がろうとして、ベッドの下に落ちた。
腰が、上がらないのだ。
「・・・っ」
そりゃそうかも。俺も痛いし。
「大丈夫?」
「な、わけない・・・っ」
「ごめん。立つの?」
「・・・シャワー浴びるんだよ」
突き放すように、言われた。
終わって、死んだように眠ってしまって、そのまま何もしてない。
身体はベトベトだ。
「わかった」
俺は、そのまま脚をすくって抱き上げた。
「なに・・・?!」
「シャワー、浴びるんだろ」
「いいよ、自分でできるから・・・!」
言われても、俺は聞こえないふりをして、ユニットのバスまで連れて行った。その中に下ろして、
「お湯、だすぞ」
「自分でできるって・・・!」
「俺が、したいの」
「しなくていい!」
「する。それから、名前、何?」
「なんで・・・っ早く帰りなさい、もう」
「やだ」
「やだって・・・こら!」
俺は湯船の縁に腰を下ろして、勝手にスポンジをあわ立てて相手の手を取った。
「名前、教えて」
「・・・なんで訊くの」
「知りたいから」
「・・・知らなくていいよ。もう、関わらないほうが良い」
「だったら、即効で帰ってる」
泡のついたスポンジで、身体をなぞる。
やっぱり、細い。
「帰りたくない」
「・・・?なんで」
「知りたいから、あんたのこと」
「・・・・」
「これで、終わりたくないから」
バスの中に座り込んで、黒目がちな大きな目が見上げてる。
まじで、年上に見えない。
「だから、名前、教えて?」
俺の手は泡だらけだったけど、気にせずにその顔に触れて、そのまま引き上げた。

嫌だとか、止めろとか、やっぱり受け付けないからな。


to be continued...



BACK  ・  INDEX  ・  NEXT