恋愛シーソー 延長戦4





「えーと・・・DVD借りたんだけど、見る?」
暗にうちに来るか、と沢田が恐る恐る切り出せば、秋篠は俯いたままの顔をもう一度頷かせる。
俯いていても耳まで赤く、いったいどうしたんだろう、と沢田は落ち着かなくなってしまう。
手を出そうとして怯えられてから、沢田は必死に理性を働かせて自制しているものの、いつもよりも大人しい秋篠にそれも難しくなってしまう。
秋篠の家から歩いて10分の距離にある沢田の部屋の前に来て、もう一度俯いたままの秋篠を見た。
やはり何も言わず、大人しく付いてくる秋篠に、沢田は部屋のドアの前で、
「えーと・・・シノ? なんでそんな顔赤いのか訊いてい?」
「・・・え?」
「ちょっと・・・落ち付かないから、理由聞きたい・・・てか、そのままだと、部屋に入れたくない」
「え?」
正直、自制心が持たない、と呟くと、秋篠が顔を上げて目を瞠らせる。
その意味を理解して、また顔を染めた。
「や・・・てか、そんな可愛い顔すると、困る」
「か・・・っ可愛いってなんですか! 五十嵐くんなら解かるけど、僕は・・・っ」
「なんで、そこで五十嵐が出てくる? まぁあの子も可愛いけど、俺にはシノのほうが可愛く見える。ただそれだけじゃん?」
「可愛くないです!」
むきになって言い返す秋篠の顔に、沢田は呆れるように、
「可愛いって、もう、部屋入ったら速攻押し倒しそう」
「は? え?!」
「だから、今日は帰って」
「・・・え?」
驚いたまま、戸惑いも含めた秋篠に、沢田は落ち着かない身体をどうしようもないな、と諫めながら笑う。
「このままだと、また泣かしそうだから・・・ごめん」
今日は宥めて触れることも出来ない、と両手を広げて見せる。
驚いていた秋篠が、その意味を知って目を彷徨わせ、
「あ・・・あの、でも・・・」
「でもじゃなく、俺はシノが好きだから」
「・・・それは、」
「何度も言うけど、好きだから、泣かせたくないんだって。な?」
「な・・・泣いたり、しません、僕」
「いや、ええと、泣くから」
「泣きません!」
「シノ・・・」
どうしてこう強情なんだろうな、と沢田が深く溜息を吐き、
「泣かせるよ、俺は」
「・・・・っ」
「嫌だって抵抗されても、泣き顔見たいから泣かせる」
きっぱりと、強く射抜くように見つめて言えば、秋篠の目が動揺し肩が小さく揺れる。
その怯えを目にして、沢田はやっぱり、と肩を落とす。
強姦された恐怖を、秋篠が忘れるはずはない。
惚れていると思えば思うだけ、それを後悔するし同じことはしたくない、と心に決める。
「ごめんな、シノ・・・俺まだ人間出来てないからさ、好きな子と二人っきりで、何もしないとか無理っぽい」
まだ赤い顔を俯かせたままの秋篠に、もう一度謝って帰るよう促せば、細い肩が一歩踏み出し身体に衝撃を受けた。
「・・・っし、の?」
抱きつかれている、と理解したのは、ドアに背中を押しつけられるようにして自分に逃げ場がなくなった時だ。
胸の前で重なる細い身体を、抱き締めてしまいたい、と凶暴な衝動に駆られるけれど、微かに残る理性がそれを押し留めて、手がおかしな位置で止まる。
「し、シノ、なに? 離れて、頼むから・・・」
「・・・泣きません」
「え?」
「泣いたり、しません、」
腕に抱きこめば、すっぽりと収まる身体が震えているのが伝わる。
沢田は困った、と苦笑して、
「えーと・・・もう泣いてない?」
「泣いてません!」
「シノ・・・頼むから、聞きわけ・・・」
「いやだ」
「し・・・」
「さ、沢田さん、お願い・・・」
「・・・・・」
ごくり、と沢田は自分が息を呑むのを聞いた。
「こ・・・怖いけど、でも、ここで、止めたら、僕、きっとずっと・・・出来ない、まま、」
「こ・・・怖いこと、したくない、んだけど、」
「き・・・気持いい、って、五十嵐くんが」
「は? 五十嵐?」
「僕に・・・気持いいこと、教えてくださ、い」
秋篠の声が耳に入った瞬間、ぷつん、と何かが切れた音も聴こえた。
「ん・・・・っ」
自制して止まっていた腕に力を込めて、細い身体が撓ろうとも構わず抱き締めた。
苦しい、と上げた秋篠の顔に覗き込み、唇を塞ぐ。
重ねるだけのものではなく、強引に舌で抉じ開けて歯列を襲う。
「ん・・・っん! ぅ、んっ」
顎を引いて逃げようとするのも許さず、追いかけて舌を絡め引き留める。
呼吸も儘ならず、口腔に溜まる唾液も飲み込めない秋篠に吸い付き、音を立ててそれを奪い取る。
「んぁ・・・っ」
その音に驚いて、びっくりして目を瞠る秋篠を至近距離で見つめ、視界の中でごくり、と飲み込んで見せた。
「・・・・さ、さわ、さ・・・・っ」
いったい何を、と今の行動が羞恥そのものだ、と顔を染める秋篠を強く見つめ、足の間に自分の片足を割り込み押し付けるように身体を揺する。
「さわ・・・っ」
「・・・シノ」
戸惑う目を覗き込み、いいのか、と脅した。
身体に自分が欲情していることを教え、不安を与える。
これでやはり怖い、と拒むのなら、沢田は腕を解くつもりだった。
こうまでなった身体を落ち着かせるには無理があるけれど、やはり秋篠を泣かせたくはない。
だから怯える相手に酷く雄を見せつけた。
「お前のなか、挿れたい。突っ込んで壊れるまで、泣かせたい。シノに酷いこと・・・したい」
嫌だと言ってくれ、と沢田は願って、きっと凶暴になっているだろう顔を隠すことなく見据えた。
秋篠はその目を揺らがせて、唇を震わせながらも、しっかりと絡んだ身体を離すことはしなかった。
「・・・僕、を?」
「・・・え?」
「ほ・・・他の、誰かじゃなく、僕を・・・してくれる、のなら、」
後悔なんかしない、と小さな声が沢田の耳に届く。
「怖く・・・ないわけじゃ、ないんです、でも・・・沢田さんを好きなの、もう、嘘をつきたくない」
「シノ・・・」
「に・・・逃げないように、しっかり、掴んで、くださ、い・・・痕になる、くらい、」
僕を、掴んで、と強請った。
他の誰かではなく、秋篠を欲してくれるのなら良い。
不安も恐怖も、ないわけではないけれど、好きだという思いも、嘘ではない。
抱かれてしまうと、もっと不安になるかもしれない。
けれどその不安も秋篠のものだ。
沢田が秋篠に与えてくれるのなら、不安も全て欲しいと思った。
沢田の口から、負けた、と溜息のような声が漏れて、そこから急くようにドアの中に引き込まれる。
抱きかかえられるように部屋に押し込められて、夏の熱気に包まれた中ベッドまで数歩で辿りつきその上に倒された。
「・・・っ」
寝ころんだ秋篠の上で、沢田が自分のシャツを鬱陶しそうに脱ぎ捨てる。
凶暴なものが浮かんだ目に居抜かれて、秋篠は身体を硬直させたけれど、沢田はもう止められない、と覆いかぶさってくる。
「さ、さわ・・・だ、さ・・・っ」
「・・・駄目、止めない、する」
「んっん・・・っ」
清潔にアイロンの当たったシャツの上から手を広げ、皺になるのも気にせず身体を弄る。
首筋に顔を埋めて、うっすらと汗の味を確かめるように舌を這わせた。
泣かない、と言ったけれどすでに涙の浮かんだ目をぎゅっと閉じて、震える手で性急になる肩を押し返す。
「あ・・・っあの、あの、沢田、さん・・・っい、いまさら、です、けどっ」
「・・・・・・止めないっつったろ」
低く押し殺した声が、本気なのだと教える。
秋篠は何度か頷き、
「う、うん、だ、だけ、ど、あの・・・・っや・・・やさ、しく、ゆっく、り・・・っ」
お願いだから、と恐怖を捨てきれない秋篠の懇願に、沢田は急く身体をぴくり、と止めて、細い身体の上で長い溜息を吐いた。
「はぁ―――・・・っマジ、いまさら・・・っ」
「・・・っご、ごめ、なさ・・・っ」
低い声に怒らせたか、と秋篠はやはり我慢しよう、と固まった身体で覚悟を決めたとき、沢田がゆっくりと身体を起こす。
「・・・沢田、さん?」
そろり、と目を開けると、そこに居たのは欲情したものをどう吐きだそうか困惑した顔をする沢田で、そのまま襲いかかってこないことが不思議で首を傾げた。
沢田はもう一度溜息を吐いて、
「・・・ワリ、ごめん、優しく、する。落ち付く」
まるで自分に言い聞かせるように言葉を区切って言うのに、秋篠はかなり我慢を強いているのだ、と知って戸惑ってしまう。
けれど沢田も、頭で考える以上に身体が熱いことを知っている。
不安に揺れる秋篠の目を見つめて、
「・・・落ち付く、から、シノ・・・先に、してもいい?」
「・・・え?」
「てか、シノが・・・して?」
「・・・・え、ええ?」
固まっていた腕を取られて、その中心に導かれた。
強制的に触れさせられたものは、沢田の欲望の象徴で、秋篠は何を言われているのか理解して真っ赤になった。
泣きたくない、と言いつつもすでに泣きそうだ。
「お願い、シノ・・・我慢、出来ねぇんだけど」
駄目か? と上から強請られて、秋篠は声も出せない。
「イかせて、シノ」
「・・・・っ」
もう一度頼む、と見つめられて、秋篠は違う不安が込み上げてきた。
これを受け入れたら、きっと二度と戻れはしない。
迷いながらも、秋篠は沢田の視線から逃れられなかった。
「・・・沢田さん、ずるい、です・・・っ」
泣きそうになって、責めてそう詰ることが、秋篠のせめてもの抵抗だった。


to be continued...



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