恋愛体質  3




「もう・・・だめ」
熱くて仕方ない身体を投げ出して、四肢を倒れ込むようにベッドに投げて、震える声で首を振る。
もう、終わりかよ?まだ、全然足りないんだけど。
「だめ、も・・・っあ、や・・・っ」
悪戯を仕掛ける俺の手を、身体を捩って抵抗しようとするけど、そんなこと無駄だ。
「・・・なんで・・?」
「だ、だって・・・あぁっせんぱい・・・!」
「なんで、駄目・・・?」
潤みっぱなしの目で睨まれて、うわ。すでに、やばいな・・・
「だって、溶けちゃう・・・」
「・・・・・・」
なん、だって?
「溶けて、どうにか、なっちゃうから・・・もう、だめです・・・・」
煽ってんだよな? そうだろ? そうだよな?
止めれるわけ、ねぇだろ。





「・・・どうして、ここで寝てるんですか?」
「なんで一緒に寝てないんですか?」
「・・・一緒にいるの、嫌だったんですか?」
寝起きの頭に、立て続けに言われて・・・・なにがなんだか。
待て。 どうした? なんでそんな可愛い顔・・・・ああ、違う、そっちに向くな俺。
あのまま寝られて、どうにか手を出さずには居られたけれど、暢気に一緒に寝られるはずはなく。
俺は離れて、気持ち良さそうに寝る薫を・・・・・一晩生殺しで。
もちろん、耐え切れるはずはなく。トイレに何度か行ったけど。
あれほど虚しいことはない・・・・・
いつのまにか寝てしまってた俺は、寝起きの頭をフル回転させられた。
なんで、こんな可愛いことを言われて拗ねられなければならないんだ?
一緒にいるのが、嫌なはずはない。むしろ、嫌じゃないから駄目なんだっての。
「ただ・・・自制が、ちょっと」
そう、自制。
それが・・・・持ちこたえれるのか? 俺。
こんなに葛藤している俺に、薫は可愛い顔で、またしてくれと言う・・・抱いて良いと言う。
たくさんしてくれと言う。
ぐちゃぐちゃに・・・・・・っ

  理性、切れそう。

「今から、していい?」
だってしたい。 したんだろ? お前もしていいんだろ? だったら、いいよな? 起きてるし、意思も確認したし! 抱いていいよな?!

「駄目です」

これほどまでに、俺が落ち込んだことがあるだろうか?
さっきの可愛い言葉はいったいなんだったわけ?あれって、誘ってるんじゃなかったのか?この状況で、学校ってなんだよ?!
疲れきった俺に、薫は追い討ちをかける。
「もう一回、キスしてください」
・・・・なに?
この酷い生き物、どうにかしてくれ。この可愛すぎる生き物、どうにかしてくれ。
俺は従うしかない。だって俺は理解している。この相手は、なにかを予想して言っているんじゃない。ただ、して欲しいから言ってるだけだ。それ以上でもそれ以下でもない。俺はこの短期間で、学んだことは一つ。

  『忍耐』

俺の辞書に、そんな言葉、あったっけ?なんで俺、こいつにこんなに惚れてるんだろうな?





そして。
甘かった。
とても、凄まじく、俺は甘かった。
セックスを知らない薫を、あのまま放置しておくべきではなかった。
なんなら、泣こうが嫌がろうが、あのときやってしまえば良かったんだ。今でこそ、笑い話になるかもだけど。いや、笑われるから、今でも思い出したくもないけど。俺の性格の悪い悪友どもは、今でも笑って口にする。
ああそうだよ!俺が!全部悪かったよ!!

昼休みに俺は、耳を疑った。
「・・・なんだと?」
俺の前でにやにやと笑う男は、福田だ。こいつは美術講師の安堂を狙ってるヤツで、いつもの仲間内のひとりだ。
つまり、性格の悪いうちのひとりだ。
「教えてやったから、五十嵐くんに、セックスの仕方」
にっこり笑って、とゆうより、吹き出す手前だ、この顔は!
「はぁ?! なにが?! どういうことだよ?!」
「知りたいっていうからさ、なにをどうするのか」
・・・・・どういうことだ?! なんで、こんな男に訊くんだよ?! 他の野郎に訊くなって、俺言わなかったか?! つうか、教えたのか?!
慌てて俺は、薫を呼びに行った。もう、福田を相手にしている場合じゃない。
呼び出すと、薫は戸惑いを見せた。
・・・デジャヴ?
どこかで、こんな薫を見た。
ああ、初めだ。
最初に、薫を同じように呼び出したときも、薫はこんな顔で・・・出来るなら、付いて来たくなさそうだった。
でも。許せるはずはない。
そのまま、もう一度美術準備室まで行って、中からあいつらの声がする。
手を止めた。
このまま、あいつらの前でする話じゃない。
絶対、笑われる・・・!
その廊下で話を始めた俺に、薫は戸惑いながらも素直に答えた。
薫は素直だ。基本的に、疑うことを知らない。そして、知らないから、タチが悪い。
思い出したくないけど、再現してみたい。





「・・・どーしてお前、あんなこと聞いたんだよ・・・!?」
「・・・あんなこと、って・・・」
セックスなんて、他人に聞いてするものじゃないだろ。それは、常識だろ?! 違うのかよ?!  
「き、聞いちゃ駄目だったんですか・・・?!」
駄目だったに決まってるだろ・・・!頭を抱えそうだ・・・俺。
「駄目っつうか・・・!」
「だって瀬厨くんも原田くんも教えてくれなかったし、先輩は昨日途中で止めちゃったし・・・!」
止めたって、そんな今更そんなこと、言ってんじゃない!
「学校行くからって止めたのお前だろ!」
「それは今朝の話です!」
「あんなガチガチのバージン抱けるかよ!」
「だ・・・っ」
思わず言ってしまった。あんな状態の薫を、抱けるはずがない。
なのに、薫は一気に蒼白な顔で、びっくりした顔が泣きそうで・・・
「いや! 抱かないわけじゃねぇけど!」
慌てて言葉を繋げた。抱かないはずはない。それは、事実だ。
「だ・・・けど、抱かないって、さっき・・・っ」
「お前がいいんなら今すぐにでもやってやるよ!」
つうか、俺、今までの苦労はなに?いったい、どれだけ俺が無理して我慢してたと思ってんだよ?
「・・・そんなの、無理です」
その言葉に、俺は思考が凍った。
掠れた声で、
「む、りって、なんで?!」
「だって無理なものは無理です!」
そ・・・そんなに、力いっぱい否定されて・・・なんで?
やっぱり、俺のこと、好きなわけなくて、ただ、キスとか気持ちよかったから? それだけ?
絶望に落ちそうになった俺の耳に、また響いた叫び。
「あんなとこに絶対入んない!!」
「・・・・っ」
はい?
なに?
お前いったい、福田から何を聞いた?どんな風に、聞いた?
固まった俺を溶かしたのは、目の前のドアの中から聞こえた・・・爆笑。
しまった。忘れてた。
こんなとこで離してたら、聞こえるに決まってる・・・!
ああくそ!
俺は何がなんだか解らない怒りも混じって、そのドアを勢いよく開けて中を睨む。
「お前らな・・・っ」
案の定、腹を抱えて悪友どもが笑っている。一番奥で、安堂まで肩を震わせている。
苛付いた俺は、そのままの気分と勢いで叫んだ。 
「盗み聞きしてんじゃねぇよ!」
「盗み聞きって、聴こえたんじゃん!」
「そんなとこで大声で話すほうが悪い!」
そりゃそうだ。俺が悪い。だけど、もっと悪いのはお前だ、福田!!
俺は元凶の男を睨んで、
「お前が余計なこと言うからだろうが!」
「俺は正直に答えてあげただけだろ、感謝されるべきだろうが」
「するわけねぇだろ! おかげで・・・っ」
こんなことになってんのに!
俺に掴みかかられた福田は、視線を俺の後ろに回して、
「なぁ、五十嵐クン、解ってよかっただろ? セックス」
俺も振り返った。
薫は・・・・・頷いた。
良かったのか?!本当に?!それで、嫌って言ってるのもか?!
「出来るか出来ないかは・・・ハルの腕次第だよな?」
この・・・っお前が、俺の未来を塞いだんだろうが!どうするんだよ!試しも、もうキスもさせてくれなかったら・・・!
「五十嵐・・・ちょっとおいで」
押し合いをしている俺の奥で、安堂が薫を呼びつける。
もう、安堂は笑っていない。真剣な顔だ。
素直に安堂の前に来た薫に、本当に真剣に、
「お前・・・したくないんだろ?」
「・・・・・」
「しなくったって、いいんだからな?」
は?!なに言ってんだよ!
「ちょっ・・・! 先生それはないだろ!」
「煩い、菊池。肝心なのはお前の意志じゃない。五十嵐の意志だ」
きっぱりとした安堂の言葉に俺は口を閉じた。
それは・・・・最もで、当然のことなんだけど。この場合・・・・・俺の気持ちも考えてくれ。
薫は少し考えて、困った顔で安堂を見て、 
「・・・したくないわけじゃ・・・ただ、出来ないだけで」
「出来ないならしたくないだろ?!」
「どうなんでしょう・・・よくわかんなくなってきました。だって物理的に無理だと思うんです。普通は入れるとこじゃないと思うし、絶対痛いくらいじゃすまないし」
「・・・・・・・・」
か・・・薫?お前、ちょっと落ち着け。
ほら、安堂も固まってるぞ。
「してくれないって思ったらなんかやだったけど、でもするのはちょっと怖いし、瀬厨くんも痛いって言ってたけどでも慣れちゃったって言ってて」
セズくん・・・?お前、その相手となんの話をしているんだ?
薫はひとり、真剣だ。周りで呆然としている俺たちなんか、目に入っていないくらいに。 
「先生、慣れたら痛くないんですか? どのくらいしたら慣れるんですか?」
「・・・・・っ」
声を失くして、赤い顔で安堂が俯いたのを合図に、俺の周りで沸きあがった、爆笑。
ああ・・・・俺も関係ないなら、笑ってしまいたい・・・
「? え? なんで?」
びっくりした薫を睨みつける。
「薫、お前な・・・!」
「先輩・・・なんで皆笑うんですか? 僕、真剣なんですけど!」
真剣に他の野郎に聞くことじゃねぇだろうが!そんなにやりたいなら、いくらでもしてやるよ。
口が、止まらない。
勢いが、止まらない。
「そんなこと他の野郎に聞くなって言っただろ! 俺に言えよ! 慣れるまでしたいなら痛くなくなるまで慣らしてやるよ!」
「嫌です! だって、それでもやっぱり痛いことには違いないじゃないですか!」
やっぱりなんか、勢いで言い返されて・・・・腹が立ってきた。
なんで俺、こんなに我慢してんのにこんなに言われなきゃならないんだ?
「仕方ねぇだろ! 慣れるまで我慢しろ!」
「やです! 絶対いや!」
「いやって・・・! それにやってみなきゃ痛いかどうかは解らねぇだろ! お前痛くないかもしれねぇだろうが!」
「痛かったらどうするんですか!」
「それでもやるに決まってるだろ!」
「・・・・っ」
しまった。言ってから、後悔しても遅い。
薫の目に、涙が溢れる。頼むから、泣かないでくれ。俺の何もかもが、崩れてなくなるから。
俺がしてきたことも、我慢してきたことも、全部無くなるような気がするから。
「・・・・泣くなよ、これくらいで」
言った俺を、泣き顔のまま薫が睨みつける。
・・・・なんだよ?
「薫?」
「も・・・いいですっ先輩とはしません!」
は? なにが?
「・・・・しないって、どういう意味だよ」
「先輩としても痛いだけならしません、慣れてからにします」
「・・・・・はぁ?」
どういう意味だ、と聞き返す前に、薫は、
「先生とする。先生に慣れるまでしてもらいます。慣れたら先輩ともします」
安堂の傍に立ってその白衣を握り締めた。一瞬間を置いてから、また上がったのは笑い声。
勘弁してくれ・・・・・
頭を抱えた俺に、安堂も眉を寄せて溜息を吐いている。
俺はどうにか持ち直して、
「させるわけねぇだろ!」
笑いこける、友達がいのないやつらの声に負けないように叫んだ。
「だってさっきバージンは抱けないって言ってたし!」
「そうゆう意味じゃねぇだろ!」
「じゃぁどういう意味ですか?」
どうもこうもねぇだろ! 意味なんて、解れよ! 解るだろ?! 普通! 
「先生、してくれますよね?」
「したら許さねぇからな!」
確認を取った薫を打ち消すように叫んで睨む。両方から言われて、安堂は大きく溜息を吐いた。
「お前ら・・・落ち着け、頼むから! ほら、他のやつらも無責任に笑ってるんじゃない!」
安堂はそこに居た全員を叱りつけて、薫を正面から見て、
「五十嵐、ちょっと落ち着きなさい。しなくてもいいとも言ったけど、するんならよく考えろ」
真剣に口を開く。
いや安堂、それってどういう意味だよ?
「痛い痛くないどうこうは・・・ちょっと置いといて、本当に、したいのか?」
したいのかって・・・・なんだよ。なんで今更そんな確認取るんだ?!そろって、俺を踏みにじりたいのか?!
「・・・したい・・・のかな。ただ、出来ないって思っただけで・・・」
「やれば出来る」
してみなきゃわかんねぇし、それに・・・・今までバージンを抱いたことがないわけじゃない。
出来ないはずはない。
「・・・本当に?」
疑われた。そりゃそうだ。けど、言えるか。
「絶対に? それってどうしてそう思うんですか? もしかして、先輩もしたの? したことあるの?」
はい?
なに?
それって・・・・どういう意味の? 俺が、したって・・・・・・・どっちが?!
考えたくねぇ!
てか、お前らも想像するな!!
「僕にもさせてください。そしたら、痛いのかどうかだって分かるし、先輩が痛くなかったら僕にも出来るかも・・・・」
案の定、笑われた・・・・
安堂まで、笑ってやがる。
俯いても、肩が震えてるんだよ!!俺は、マジで切れた。
「・・・・出来るわけねぇだろ!」





その後は・・・ちょっと、思い出したくない。
自分でも、かなり酷いと思った。
薫が、だ。
つまり、何を言っても、どうやっても、薫は俺を信用しない。俺のことを信じない。
一気に心が冷めた。
いや、まだ気持ちがあるからこそ、辛くなった。
表情がなくなるのが、自分でも解った。


to be continued...



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