ウソツキ 4
校舎がでかければ体育館もでかかった。 バスケットのコートが四面ある。 そのうえ、もうひとつ小さなものと、講堂あるという・・・ 一体どれだけの敷地? 俺はそう思いながら、一人だけ制服を着て体操服の中に混じった。 教科書も揃ってなければ体操服も持ってきてない俺は、一人で見学することになった。 バスケットをしている新しいクラスメイトを見ながら、背後にも声が聞こえる。 ネットで半分に分けてある体育館は、向こう側は違うクラスのようだ。 ――てゆうより、違う科?どうみても普通科の人間やない・・・ と、思うほどガタイのいい生徒ばかりだ。 さまざまな体操服やジャージを着ていて、同学年にも見えない。 「退屈だろ」 いつのまにか、相地が傍に来ていた。 俺は視線を戻して、 「ちょっとな・・・なぁ、あれ、ちやうクラス?」 ネットの向こうを指した。 「ああ・・・そうそう、先輩。多分、工業科かな」 ――やっぱりそうなんや・・・ 「あ、二年生だ」 「?なんで判るん?」 「知り合いが・・・部活の、先輩がいる」 「相地、何部?」 「バスケ」 「そぉなんや、やったら、今日も楽勝やな」 「まぁね・・・あ、こっち来る」 相地がそう言ったとおり、工業科の二年生の相地の先輩らしき人物がこちらに大またで歩いてきている。 「おす、今日の部活んときな、」 「はい」 相手は、来るなりネット越しに相地に話しかけたが、隣にいる俺に気付いて、目を見開いた。 俺が見上げるほどの相手は本当にバスケ部員って感じだ。 「森澤・・・?!」 驚いたまま呟いた相手に、相地が間に入る。 「転入生です、森澤先輩の弟で・・・」 「弟?!そのものじゃねぇか!」 ――一葉の知り合いかな・・・ 大声を上げた先輩に、周りから野次のような声が飛ぶ。 「本間ぁ!一年ナンパしてんじゃねぇよ!」 「働けよ!」 それまで、俺から目を離さなかった先輩――本間は、それで思い出したように自分のクラスを振り返った。 「市成!!ちょっと来いよ!」 「・・・・!?」 ちょっと、待って。 ――いちなり、て、あのいちなり・・・?そんな、急に言われても、まだ全然・・・ 俺が戸惑ってる間に、呼ばれた相手はすでに目の前に来てしまった。 「・・・一葉ぁ?!何やってんだ、こんなとこで」 いちなり、は、本当に、その山井市成だった。 過剰に騒ぐので、そのクラス中から野次馬のように人がネット越しに集まってしまった。 さすがに焦った相地が、俺を庇って説明をする。 「ちが、違いますよ、森澤先輩じゃないです。弟ですよ」 「アイツに弟なんかいたか?つーか双子だろ」 誰も区別のつくものなんかいない。 そうだ。 山井も結局、気付かなかったのだ。 首元が、嫌に苦しくなった。 「げぇ・・・クリソツ」 「クローン?!」 「何でいまさら転入?」 「名前なんての?」 口々に群がっては騒ぎ立てる。 山井も、珍しそうに俺を見てる。 ――あかん。 もう限界。 「・・・うるさい」 俺はゆっくり口を開いた。 大人しくなんてしていられない。 「え?」 「なに?」 「・・・うるさい、てゆうとんねん、おまえら!おんなし顔がそやいに珍しいんか?!俺は動物園のパンダちゃうぞこのどあほ共が!お前らの方がサル山のサル状態や見苦しい!!仮にも先輩やっちゅうねんやったらそれなりの品位を作り直して出直してこい!」 一気に言い切って、面々が呆然と俺を見ているのを睨んで、俺は背を向けた。 取り残された相地の話によると、俺の関西弁に驚いたらしい。 そして、「やっぱり森澤の弟・・」なのだそうだ。 その後、俺は一応体育館内にいたけれど、その醸し出す不機嫌オーラに誰も声をかけられなかったようだ。 終了のチャイムが響くとすぐに、俺は体育館を後にした。 教室に向かう廊下で、後ろから呼び止められる。 「森澤・・・!」 俺は暫くしてから、足を止めて振り返った。 「ごめん・・・!俺があんなとこで紹介なんかしたから・・・」 申し訳なさそうにした相地が息を切らせて頭を下げる。 俺は正直に、 「ちゃうよ・・・相地のせいやないんや。ちょっと、ムカツクことが・・」 「ムカツクこと・・・?」 相地が首を傾げると、俺は答える前に廊下の向こうを見た。 目を見開いて見た俺の視線を追って、相地もそっちへ振り向く。 相地も気づいたように、声を上げる前に、すでに俺は脚と口が出ていた。 「・・・っめぇ!こら一葉ぁ!待てこら!」 廊下に響いた俺の怒声に、そこにいたほとんどが振り返るが、俺はそんなの気にしない。視線はただひとつ。 こんな事態を招いた張本人だけだ。 俺はこんなにもはっきりと怒りを見せているのに、一葉はケロリ、とした顔で、 「あれ、葉。どうした?」 「どーしたもこーしたもないやろ!!あの人おんなし学校やったんやん!どないすんねんそんなん!!」 キレた俺が捲くし立てると、一葉は俺の傍にいた相地の格好を見て、 「そうか・・・体育か。盲点だったな」 と呟き、それでもあっさりと俺にむかって、 「大丈夫。普通科の体育なんてそうないし、科が違うから滅多に会わないし。校舎も違うしな」 「その自信はどっからくんねん、突っ込まれたらどないするん?」 俺が睨んでも、一葉は「ばれない」と言い、さらに、 「開き直れ。知らんで貫き通せ」 と、女王様っぷりを見せ付けた。 俺は頭を抱えて、 「・・・絶対ムリ・・・」 「無理じゃねぇだろ、滅多に会わないんだし。しかも何があったわけでもないし、コレを気に、俺も会わないようにするし・・・」 俺はその台詞の途中で、身体をビクつかせた。 ――ああこんなん、何かありました、て教えてるようなもんや・・・ 案の定、一葉は俺を睨むように、 「・・・お前、何した?」 と聞いた。 「・・・なんもしてない」 「じゃ、何された?」 「・・・・・」 ――クソ、何でこいつこやいに鋭い・・・ 俺と一葉が言い合っていると、それまで傍で見守っていた一葉の友達が 「・・・一葉、向こうからくる・・・あれ、市成だぜ」 「え?!」 俺と一葉はそろって振り向く。 確かに、廊下の向こうから来るのはこの普通科の廊下には相応しくない一際ガタイのいい男がジャージのまま、向かってきていた。 市成は一葉の目の前に立つなり、 「一葉!」 と意気込んだが、一葉が、 「なんだよ」 とそれを跳ね返すように睨み返したので、市成の勢いが怯んだ。 「・・・あ、その・・・」 「なに?!」 「あ・・・ごめん・・・?」 なにに、誤っているのか、一葉には判らなかったが、とりあえず俺を後に隠し、 「許さねぇ。しばらく顔みせんな」 と言い切って、俺の手を取ってそのまま歩き出した。 俺は、そこから逃げ出したかったから、それに逆らわずに着いて行くことにしたのだ。 |
to be continued...