お願い、サヨナラと言って  8






「ボトルを・・・入れてもいいか?」
視線が颯太の背後へと向いていた。
そこには、一応常連となった客のボトルを並べて札を付けていた。
颯太は思わず苦笑してしまう。
何を、言い出すのだろう。
「あのね、無理しないで、お酒、弱いんでしょう」
差し出した一杯の薄いアルコールすら、飲み干せていないままだ。
「だが・・・」
「こんな店、愛想しなくてもいいわよ、言ったでしょう、税金対策だからって。それに、ここは普通の人が来る店じゃないから・・・・」
颯太の為に、小さな店にしてくれた。
独りでやっていける店で、あまり目立たなく、繁盛もせず、ただひっそりとやっていけるだけで良い。
颯太を助けてくれたあの優しい人は、いつまでも颯太を大事にしてくれた。
だから、颯太は壊れきらないままでいられた。
人前で繕う力を付け、いつまでも成長しない小さな本心を隠すことが出来た。
幼い心は傷付くのも癒すことも恐れて、変わらないままだった。
颯太はそれを守るように、人と付き合うことを覚えたのだ。
それでも、こんなにも苦しくなるときがある。
会いたくて逢いたくて、どうしようもない人がいる。
忘れたつもりでいても、姿を見ればこんなにも崩れそうになってしまう。
弱い颯太は、弱いままだった。
傷付いたままで、治しもしていない。
震える足を堪えて、颯太はカウンタから出た。
「もう、今日は閉めるから」
戸口にある、入り口のランプを消した。
外灯のスイッチだ。
これが消えれば、もう閉店だった。
相手を帰そうとした行動だった。


「サヨナラ」


to be continued...

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