お願い、サヨナラと言って 4 「・・・結婚、した、っていうことか」 重い口を開いた声に、颯太は笑った。 「そうね、そうなるのよね、一般的には結婚とは言わないのかもしれないけど」 あのまま、あの家に居続けることも出来なければ存在も残しておくのすら厭だった。 自分が壊れていくのが、颯太には分かった。 誰も、そんなつもりはなかったのだろう。 どこか、みんなが弱かったのだ。 そして、やはり颯太も強くはなかった。 どこか家族の、家の中の空気が通るような気がした。 淀んでいた時間が、漸く動き始めたかのように流れ、清清しさを感じるそれに、颯太は戸惑いを感じた。 それに乗って、一緒に足を踏み出せるほど、颯太は綺麗ではなかった。 淀んだ空気は、颯太の周囲だけはそのままで、晴れることはなかった。 そうして、家を飛び出したのだ。 あの選択が間違いだったと、今でも思わない。 そうするしか出来なかったし、今でも他にどんな方法があったのかすらわからない。 成長していないってことかな。 颯太は苦笑して、作った高い声を続けた。 「相手が女性なら、普通に籍を入れれたんでしょうけど、まだ日本っていうところは同性の婚姻を認めてくれないから・・・」 「・・・・同性」 「そう、養子縁組っていう形をとるしか、なかったの」 松下颯太。 それが、今の名前だった。 これから先、この名前を変えていくつもりもない。 カウンタの上に沈黙が落ちた。 颯太は何も言わない相手に自分から何かを言えるはずもなく、ただ惰性のようにグラスを拭き続けた。 |
to be continued...