お願い、サヨナラと言って 1 颯太が産まれたとき、一人ではなかった。颯太より一回り小さく、女の子が一緒に産まれた。 名前が山崎楓子―やまざきふうこ―颯太より長く保育器に入っていて、無事、大きくなるのか両親はずっと不安で小さな命を見つめていた。 その不安は杞憂に終わり、産まれたばかりの双子は元気よく育つ。 その双子が生まれる二日前、斜向かいにいる母親の従姉妹が、男の子を出産していた。 それが、楷薙修也―かいなぎしゅうや―だ。 母親同士は昔から仲が良く、嫁いだ場所も近い。 産まれた子供も同時期とあっては、ますます一緒に居る時間が長かった。 子供たちは三人一緒に育った。 颯太と修也は兄弟のように遊び、成長が二人より遅かった楓子を妹として大事に扱った。 母親は元気なものの、双子だけれど颯太よりも小さな楓子をより気にかけ可愛がっていた。 一人だけの、女の子だからでもあった。 二卵性とはいえ、双子なだけあって颯太と楓子は良く似ていたが、それでも楓子は颯太より可 愛く見えたのだろう。 颯太にしても、愛情がもらえないわけでもなく、遊ぶ相手がいないわけでもない。 ただ、楽しいだけの子供時代が流れた。 母親同士の間で、いつか一緒に、という願いを込められていたのはその楓子と修也だった。 仲の良い二人が結婚したら、自分はじゃあどうなるのだろう。 颯太はその疑問を、何故か口にすることが出来なかった。 今でも、出来ないままだ。 妹の楓子を可愛いと思い、常に隣に居る修也が大事だと思う。 その想いに辛くなったのを、子供心に覚えている。 けれど、その意味を知るのはもっとずっと後で、もう口にすることなど出来ない、と知った大人になってからだった。 小学校に上がってから、楓子はますます可愛くなった。 同じ顔なのだから、髪を伸ばせば同じようになるよ、と言った修也の冗談を聞き流し、颯太は楓子の可愛い格好が似合うのを、ただじっと見ていた。 隣で、同じように修也が見ているのも、気付いていた。 いつも見ていた楓子の目が、怖いと思ったのはその小学校を卒業する頃だった。 常にお姫様として扱われてきた楓子は、どこでもその態度だった。 可愛らしすぎる顔は、誰も文句を言うことなどない。 楓子と修也の待つ教室に、颯太は一人違う掃除場所から帰ってきたところだった。 「ねぇ、修也、中学生になったら、付き合ってくれる?」 椅子に座っていた修也にしな垂れかかる楓子は、最早少女ではない。 その目は、幼いものではなかった。 その言葉に、颯太は固まってしまった。 盗み聞きだ、と知りながらも足を動かし、二人の前に出ることが出来なかった。 「・・・え?」 「だって、結婚するんでしょう、私たち。なら、付き合ってもいいじゃない?」 誰にも取られないように。 楓子がそう思うほど、修也は人気が高かった。 颯太が見ても、格好良いな、と思うときがあったのだ。 どこかで、聞いては駄目だ、と思うのに、足が動かなかった。 「・・・・・・うん」 頷いた修也の声に、颯太は心臓が壊れた気がした。 自分の想いを知った。 どう考えても、可笑しかった。 自分の妹に、嫉妬するなんて。 一緒に育ってきた、兄弟のような少年が、好きだと想うなんて。 変だ。 自分が可笑しくなっていくのが、颯太は怖かった。 大事な親友を、可愛い妹を、そんな風に想うなんて、自分が一番嫌いだった。 けれど、中学生になんてなりたくない、と強く願った。 誰よりも、願った。 叶うなら、何と引き換えにしても良いと想った。 中学生になんて、しないで。 颯太の願いは、聞き遂げられた。 |
to be continued...