それが日常だと知れる日々 7




「連休中だから、今は仕方がないとして」
役所のほとんどは休みだった。
児童施設に連れて行くとしても、はっきりと手紙に春則の名前がある以上、責任は逃れられない。
シノブが現れたときにとりあえず世話に慌ててはいたけれど、それも慣れれば現実がまた降りかかってくる。
春則は俯いたまま繕の隣に並び、
「・・・・自信がない」
「なに?」
「一人でシノブを育てる、自信がない」
春則の正直な気持ちだった。
自由に、思うままに独りで生きてきた春則は、誰かのために生きたことなどない。
責任は自分だけのもので、それ以外に負うことなどはなかった。
いきなり現れた現実に、戸惑いそして慣れて情が移ったとしても、この先を考えれば不安しか残らない。
しかもまだ、言葉を話すことも出来ない乳飲み子で、時間に不規則な春則が世話を仕切れると自分でも思えない。
俯いたままの春則に、繕は紫煙が換気扇に吸い込まれていくのを見つめながら、
「施設に相談するか」
「・・・え?」
「すれば、まずお前自身が調べられる。生活習慣や、収入。お前がどういう意志を持っていようと、それが判断基準でおそらく――そのまま施設に預けられるだろう」
「・・・・・繕、」
言われなくても解かっている、と春則は表情を歪めながら視線を上げた。
「さらにお前が望めば、DNA鑑定も出来るだろう」
「・・・え?」
「シノブが本当にお前の子供であるかどうかが、はっきり出来る」
「繕!」
煙草を咥えたままの繕に、春則ははっきりと怒りを込めて視線をぶつける。
春則の中では、もう決まっているのだ。
シノブがここに居る以上、他の誰かの子供ではない。
繕はそれを真っ直ぐに受けて、紫煙と一緒に溜息を零した。
「覚悟はあるんだろう」
「・・・え?」
「もう、覚悟だけはあるんだろう」
シノブを引き取る、覚悟だ。
自信がないのは、そう決めてしまっているからだ。
全てを見通されるように、繕にそれが知られていると解かると、春則はその肩に額を乗せた。
「・・・・・だけど、俺は、」
「・・・・なんだ」
「お前が」
春則は呟いて、繕のシャツを握り締めた。
覚悟は決めた。
どうにかして、父親になろうと春則は決めた。
しかし、違う部分が繕を求める。
シノブを育てることに自信はなくても、不安はまた別のところからくる。
繕との付き合いは気ままなものに似ている。
お互いが独りで都合良く、何も気にしないで側にいられる関係。
春則はそれで良いと思っていたし、それが崩れることはないと思っていた。
けれど、自分にシノブという存在が出来れば、繕はどうするのだろうか、と春則は目を伏せた。


to be continued...



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