それが日常だと知れる日々 6
シノブの面倒を見るにあたって、本当に救いだったのはシノブが良く眠る、ということだった。 特に夜は寝かしつけると朝まで起きない。 春則は子供はそういうものなのか、と冬姫に告げると驚かれた。 電話の向こうに報告をするように時折連絡を入れると、 「親思いの赤ちゃんね」 と冬姫が笑う。 それでも一人で面倒を見ることは、春則にも不安で正直なところ――苦痛だった。 けれど一人ではなかった。 繕が、ずっと一緒に居るのだ。 春則の子供だ、というシノブをどう思っているのかは解からないけれど、必死になってシノブの面倒を見る春則の側に居てくれていた。 「連休中は、他に予定を入れていないからな」 そう告げてそのまま春則の部屋に居る繕に、複雑に思いつつも春則はホッとしていた。 元々が器用な春則は、オムツを替えることすら何度かすれば慣れてしまった。 ミルクを温めて人肌にすることすら手際が良くなってしまい、 「・・・・春則、泣いているぞ」 「聞こえてる」 その間抱いていてくれ、と手渡された繕はあやすことも出来ないまま内心感心していた。 狭い部屋のキッチンとリビングだ。 声が遮断されることはない。 出来上がったミルクを飲むと、シノブはまた安堵してもう一度眠ってしまう。 ソファの上に寝かせて春則はその寝顔をじっと魅入り、 「・・・・なぁ」 「なんだ」 「シノブってさぁ・・・めちゃくちゃ可愛くないか?!」 「・・・・・・」 「女の子だから、とかじゃなくさぁ、」 「お前、それは」 完全に親バカになっているぞ、と繕は言わなかった。 ソファの端に座り、床に座って飽きることなくシノブを覗き込む春則に冷めた視線を送る。 「あー、可愛い、俺シノブのためなら何でも出来そう・・・」 「完全に父親に成りきっているのか? 嫁にでも出してやるのか」 繕は煙草が吸いたい、と腰を浮かしながら呟くと、 「嫁になんか出すもんか! 悪い男に引っ掛からないようにずっと見張っててやる!」 「悪い男ってお前みたいなのか」 「お前みたいな、だ!」 立ち上がった繕と、春則は睨みあげるようにして視線を絡める。 けれど先に視線を外したのは繕で、煙草を咥えキッチンの奥へ消える。 換気扇の下まできて火をつけながら、 「お前・・・どうするつもりだ」 低く呟いた。 その声は換気扇の音に消されることはなく、リビングまで届いたはずだった。 ゆっくりと繕を追ってキッチンに姿を見せた春則の顔は、俯いている。 困惑の見えるそれが、春則の気持ちを表していることは繕にもはっきりと解かった。 |
to be continued...