それが日常だと知れる日々 4
「あら、おしめが濡れてるのよ」 春則が携帯を掴んで電話をかけてから約1時間後、また新たに人が増えた。 春則の姉である、冬姫だった。 三人居る姉の中で、子供がいるのがこのすぐ上の姉なのだ。 携帯で簡単に事情を告げると、呆れられながらも冬姫の反応は早かった。 ミルクがある、と知るとすぐに電話口で作り方を告げそのまま抱いて飲ませることも教えた。 子供――シノブは大人しくそれを恐々と抱く春則の腕の中で飲んだけれど、泣くことは止めなかった。 それをどうすればいいのか、手も出すことすら躊躇ってただ傍観していた男二人を押し退けて、それほど遠くない場所に嫁いでいる冬姫がシノブを見るなり言った。 大きなショルダーバッグを置いて、冬姫はすぐにシノブをタオルケットの上に転がし下肢を解く。 言い当てたように、そのおしめはぐっしょりと濡れていた。 「あら、女の子〜名前は何ていうの?」 緊張感のない冬姫の声に、春則はすでに疲れきったように、 「・・・シノブ・・・」 「シノブちゃん、困ったパパねぇ、ほら、綺麗になった。もう泣かないのよ」 パパ、と言われて、それは誰のことだ、と春則は側に立ち尽くしていた繕を振り 向くけれどそこからは冷たく視線が向けられるだけだ。 冬姫が手馴れたようにおしめを取り替えて抱き上げると、小さなシノブは人心地ついたのかその腕でウトウトとし始める。 「ん〜人見知りもしないし、大人しいわね〜ちっちゃいときの春くんみたい」 「ちょ・・・っ冬姉?!」 春則は姉の言葉に慌てた。 突然現れて押し付けられた子供と、似ていると言われて慌てない男はいない。 けれど冬姫はそんな弟など気にせず、 「さて、子供の前で話すことじゃないけれど、詳しく説明してもらおうかしら、春くん、村瀬さん?」 姉弟の中では、一番おっとりとしている性格の冬姫であるが、その顔はすでに母親である。 その視線に男二人が勝てるはずもなかった。 春則はそれまで慌てていたのを落ち着けるように、覚悟を決めるように溜息を吐いた。 その隣で、また繕も深く息を吐く。 指先が唇に触れるのは、煙草を吸いたい、と思っているからだろうが、この状況でその一言が言い出せずにいた。 春則の部屋で、今主導権を握っているのは小さな子供を抱えた冬姫だったのだ。 |
to be continued...