それが日常だと知れる日々 1 待ち合わせたのは駅で、空港ではない。 午前中に飛行機で東京に着いた繕よりも、春則は遅れて待ち合わせ場所に着いた。 慣れた改札を出たところにある灰皿で、繕はユニフォームのようにスーツを着て煙草を咥えていた。 その変化のなさに苦笑しつつも、春則は自分も変化がないな、と格好を改めて考えた。 麻のTシャツに春物のハーフコート、紺色のパンツに紅いベルベットのベルト。 先日カットしてもらったばかりの髪。 乱れない姿で立つ繕に荷物は見当たらない。 また要領良く送ってしまったのだろう。 春則が歩いてくるのが見えたのか、繕は丁度目の前に来たときに煙草を吸い終え灰皿に押し付けた。 「遅れた?」 「時計はどうした」 「付けてるけど?」 「自分で確認しろ」 言われて春則は自分の左腕に視線を落とす。 午後二時半を少し回ったところだ。 「まぁ許容範囲だよな」 「お前に会社勤めは無理だな」 「だから、してないだろ」 「知っている」 それが最初の会話だった。 そのまま肩を並べて駅を出てゆく。 どちらから言い出した訳でもないけれど、向かう場所をお互いに知っていた。 春則はどのくらい振りだろう、と考えて、思い出すことを途中で止めた。 考えても仕方ないことだ。 その代わり口から零れたのは全く違うことだった。 「出世したんじゃないのか? 次はなんになんの?」 「正式な辞令は月曜だが、営業第二の課長だ」 「・・・それって偉いのか偉くないのか、全然わっかんねぇんだけど?」 「海外事業部へは、最短だな」 「海外、行くのか」 「行って欲しいのか」 「連れてってくれんのか」 前を向いたまま声を交わすうちに、ホテルに着いた。 駅前のタワーホテルは、すでに慣れた場所だった。 出会ってホテルに入ってやることはひとつ。 本当に、変わんねぇな、と春則は自嘲しつつ、そのフロントへ先に足を踏み入れた。 この二年間、一度も逢わなかったわけではない。 お互いの仕事の都合を考えれば、二、三ヶ月は逢わないときもあった。 逢えばいつも久しぶりだと思うだけで、思い出すように身体を重ねて貪りあう。 満たされていく欲求は性欲なのか、違う他の何かなのか。 考え悩むよりも前に、春則は目の前にある身体に手を伸ばした。 それが繕と再会した時の全てだった。 |
to be continued...