淫欲 携帯の着信を見て、春則は不機嫌を隠さずに取った。 「はい」 いつもより低い声で、機嫌が悪いのは解る筈だ。 「忙しいのか?」 かけてきた繕は、まずそう言った。何の前置きもない。 春則は忙しかった。再び、家に缶詰状態になってしまったのだ。 前回、少し頑張りすぎたようだ。 好評だった仕事が上手く評価されて、次々に仕事が舞い込んだ。 「デザイン事務所」としても、居るのは春則一人だ。 何も余計なことは考えず、只管仕事をこなしていたが、 溜まってきた疲れと気晴らしも出来ない欲求不満さにイライラが抑えられなくなっていた。 「忙しい」 一言で返す。 「そうか。じゃぁ、終わったら連絡くれ」 繕は春則が答える前に、切ってしまった。 春則は切れた携帯を見つめ、ますます苛つく。 「・・・クソ」 「終わったら連絡」なのは、こっちが仕事を終えて連絡するまで、繕からの連絡は一切ないということだ。 それが解っているから、余計に腹を立てる。 「クソ男」 罵りながら、自覚した自分をすでに後悔している。 すぐに行って、その身体を重ねたい。 押さえ込んでいた欲が湧き上がるのが感じられた。 禁欲していたのに、この一声だけでもう身体が反応する。 熱い吐息が、耳元で吐かれる。 擦れた声が、時折耐えれなくなって発せられる。 いつもは煙草を取る長い指が、身体を這う。 中心を弄られて、始めはゆっくりとした動きが、徐々に早くなる。 押えきれない声が、みっともなくも春則の口から上がって、しかしもう、春則に羞恥は残っていない。 只管それを求めて、背中に腕を回し、足を絡める。 先週、身体を重ねたばかりだというのに、春則の身体はすでに耐えれなくなっていた。 自然と手が自分の中心に伸びる。 繕の吐息を耳に思い出して、すでに頭を擡げているそれは、自らの手であっけなく放ってしまった。 「・・・っ」 汚れた手を見て、息を抑える春則は擦れた声で笑った。 自嘲だった。 これほどまでに、自分を惨めに情けなく思ったのは初めてだった。 「・・・サイアクだな」 目の前に相手がいないのに。 想いが届くはずがないのに。 自慰行為など、何の意味もない。 だけど、反応する身体に、自分で罵った。 |
to be continued...