願望 春則はしまった、と後悔した。 ばれた、と思ったのだ。 何も言わない、気まずい時間が流れて、いきなり、 「あっつ、」 と、繕が慌てた。 「え?」 春則が見ると、ずっと持ったままだった繕の煙草が、いつのまにか手元まで来ていたようだ。 それに気付かず、繕は動かなかった。 慌ててそれを灰皿に押し付けて、繕は大きく息を吐く。 ようやく、身体が動くことを思い出したようだ。 「・・・悪い」 春則は謝った。 「なに?」 聞き返した繕に、もう一度謝った。 「悪い」 「・・・なんで謝る、どういう意味だ?」 「・・・そうゆう意味」 「解らん。ちゃんと答えろ」 春則は繕を睨みつけて、 「あんたマジで性格悪いな」 「それはお前だろ」 「俺が謝ってやってんのに!」 「なんで謝る必要がある」 「なんでって・・・!」 言いかけて、春則は言葉を止めた。 旨く、言葉が見つからない。 「好きになったりして、悪かった」と、言えればいいのだ。 しかし、言えなかった。 そんな台詞が言えるほど大人じゃないし、縋り付いていくほど、子供にもなれなかった。 「・・・この場合、俺も謝るのか?」 「え?」 「抱いて、悪かったな」 「は・・・?なに言ってんだ?抱かれたのは、俺が・・・」 そうして欲しかったからだ、と続けれなかった。 しかし、繕は続きを待った。 「言えよ」 「・・・・・」 「言ったら、お前の思うようになるかもしれないぞ」 春則は驚いて、繕をまじまじと見た。 真剣なその目に、春則はその想いを理解した。 「え・・・・え?」 戸惑った。 しかし、顔を背けれない。 「・・・まさか、」 「まさかってなんだよ、早く言え」 「だって、まさか・・・」 「疑うなよ」 「疑うだろ、だって・・・」 春則は記憶を巡った。 「だって、あんた、他に女が・・・」 「お前だっているだろうが」 「もういねぇよ」 言ってから、しまった、とまた後悔した。 「え?」 「・・・昨日の女で、最後だ」 しかし、バレついでだ、と告白した。それから、繕を睨んで、 「あんたは、居るだろ・・・俺と会った後でも、会いにいくような女が」 「・・・・」 繕は驚いて春則を見る。 「・・・言っとくけど、後を付けたわけじゃない。偶然だからな」 「あれは・・・」 繕は戸惑ったように、言葉を止めた。 「なんだよ」 「仕方ない」 「なにが?あんたこそ、最低だぞ」 詰め寄られて、繕はため息を吐いた。 「・・・仕方ないだろ、足りなったんだ」 「は?」 「足りなかった、一回なんかで、終われるかよ」 「・・・はぁ?」 春則は理解が出来ず、顔を顰めた。 繕はそれ以上に眉を顰めて、 「・・・終わるとお前は、いつも眠たそうにしてただろ、それを・・・」 起こせなかった、と続けた。 春則は驚いて、それから、吹きだした。 「は・・・ははっあんた、あんたって・・・!」 「なんだよ」 すごい、莫迦だろ、と言った春則を繕は睨みつける。 しかし、春則はそんなものには負けない。 「あれは眠たかったってより、動けなかったんだよ」 「良すぎて?」 「・・・・それは、まぁ」 切り替えしてきた繕に、春則は言葉を濁す。 「・・・だいたい、なんで今日に限ってあんたがここにいるのか、聞いていない」 春則は最初の疑問を返した。 「悪いのか?」 「そうじゃ・・・」 「いつも、お前だけ気持ちよさそうに寝てたよな」 「・・・あんたが勝手に、帰ってたんだ」 「嵌りそうだったから」 さらりと言われた理由に、春則は思考を取られる。 「・・・・」 繕は春則を見ないで、もう一度煙草に火を付けた。 春則はその答えを、探す。 遊びもできる、大人だ。 意味が解らないほど、子供でもない。 その意味を、考えて、繕の行動に、真実を見て、笑った。 「・・・あんた、やっぱすげぇ莫迦・・・」 ベッドに顔を埋めて、肩を震わせる。 「お前に言われたくない」 それに、春則は確かに、と頷いた。 |
to be continued...