朝日





春則はゆっくり目を開けて、朝だ、と自覚した。
それから、身体のだるさも自覚する。
やりすぎた、と思った。
それでも、忘れたくなかったのだ。
青臭い想いに自分で笑いながら、そして、それを止めた。
「・・・・?」
その状況を見て、一瞬、理解できなかった。
自分の身体の隣に、人がいた。
もちろん、間違えるはずもない。繕だった。
「え・・・?」
周りを確認して、すでに朝であることを見る。
それから、昨日を思い出す。
シャワールームで、泣くまで抱かれて、その後を春則は思い出せなかった。
身体が綺麗なことを見れば、繕がしてくれたのだと解る。
解らないのは、どうして繕が隣に寝ているかだ。
春則が身体を起こすと、その動きで繕が身じろぐ。
「・・・・」
春則は困惑の中、繕を見た。
「・・・どうした?」
目を開いて、春則の視線に気付いた繕は首を傾げた。
「それは・・・こっちの台詞だ」
春則は驚愕して、繕を見ていた。
「なに?」
身体を起こした繕に、春則は眉を顰めて、
「なんで、ここに・・・あ、終電、終わったのか?」
自分で理由を見つけて、納得しようとした。
引き止めすぎたのかもしれない。
「俺がここにいるのが、おかしいのか?」
「おかしいだろ・・・だって、」
初めてじゃないか、と続けようとして、春則は言葉を切った。
それを自分で思って、顔が熱くなるのが解ったのだ。
しまったと思って、すぐに顔を背けるが、気付いた繕はそれを追って、
「どうした?」
「なんでも・・・ない」
身体ごと背けようと、ベッドから降りかけた春則の手を取って、繕は
自分に向かせる。
「なんでもないって、顔かよ」
「何でもないって・・・」
「言えよ」
「・・・・っ」
俯いた春則を、繕は離さない。
言うまで、離すつもりはないとしたその行動に、春則ははため息を吐いた。
「初めて、だろ・・・」
「え?」
「朝、見るの・・・」
繕は、それだけで解った。
おやすみ、と言って寝顔は見るが、起きたところは初めてなのだ。
「ああ・・・そうだな」
納得した繕に、もういいだろ、と春則は手を離せと言う。
「どうして」
「・・・帰る」
「もう?」
思いがけない答えに、春則は驚いて繕を見る。
その顔は、いつもと変わりない。
なのに、言うことが理解できなかった。
「帰るだろ・・・あんたも、会社が・・・」
「さぼったって良い」
「は・・・?」
繕はそのまま、春則をもう一度ベッドに倒した。
「なに、」
繕は自分が洗ったその身体に、もう一度口付けた。
「え・・・?ちょっと、待てよ」
「待てねぇ」
「莫迦なこと言うな、もう、駄目だ」
「どうして」
「ど・・・してって、昨日、あんなに・・・」
「したがったのは、お前だろ」
「そうだけど、もう・・・」
「もう?火をつけたのは、お前だぞ」
「俺が?」
「寝起きからお前、そんな色気出してどうするんだ?」
「は・・・?」
繕が止める気がないことを解って、春則は本気で止めた。
「ま、待て、おい、ちょっと!!」
「往生際が悪い」
「そりゃ、生まれつき・・・いや、待てって!!」
「なんだよ」
「き・・・のう、しただろ・・・」
「昨日はな、今日は、してない」
「じゃなくて・・・」
春則は呼吸を落ち着けて、繕を見た。
「・・・もう、しない」
はっきり、意思を込めて、言った。
効果はあったのか、繕は手を止めた。
「もう、あんたとは、しない」
「・・・終わりか?」
繕は掠れた声を出した。
「だから、昨日あんなにしたのか?」
「・・・そうだ」
繕はしばらくその春則を見つめて、それから身体を起こして、春則に背を向けて座った。
サイドボードにあった煙草を取って、火をつける。
一度吹かして、口を開いた。
「お前・・・マジで殴りたいな」
「は?」
「あの女の気持ちが解った」
「なに?」
繕は紫煙を吐き出しながら、言った。
「振るのが、突然すぎるんだよ」
「・・・・は?」
春則は身体を起こして、その背中に疑問をぶつけた。
「振る?振ったのは、あんただろ」
言ってから、しまった、と顔を顰めた。
振り向いた繕に、視線を合わせれない。
「なんだって?」
黙った春則に、繕は詰め寄る。
「もう一度言えよ」
春則はため息を吐いて、観念した。
「あんたが、先に終わらせようとしただろう」
「・・・・いつ」
「昨日」
「昨日?」
「その・・・指輪だよ」
「指輪?」
繕は何も付いていない指を見た。
「してないから、なんだって?」
「つまり・・・そうなんだろ」
春則は言葉を濁した。
自分では、言えなかった。
繕は勘がいいのか、春則の言いたいことは解ったようだ。
「それで・・・指輪をしなくなったから、終わらせるって、思ったのか」
「そうだ」
「・・・お前、莫迦か?」
「はぁ?!」
いきなりの言葉に、春則は思い切り顔を歪めた。
「なんで、そうなるんだ・・・とゆうより、指輪の有る無し以前に、他にいようといまいと、やってただろ」
「それは・・・」
春則は俯いた。
「・・・あんたに、指輪を外すような相手が出来たんなら、仕方ないと、思って」
「仕方ない?なんで今更そんな殊勝な・・・」
繕はそこで言葉を止めた。
何に、反応したかは解らないが、突然、ある想いが閃いた。
驚いて、春則を見る。
その表情に、春則は顔を顰めて、慌てて俯いた。
それで、充分だった。
繕は、その感情に気付いた。


to be continued...



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