終夜





「・・・っつ、」
繕の、息を殺した声が響いた。
痛みで、身体が反応したのが解った。
すぐに理解した春則は慌てて力を緩めた。
「悪い・・・」
背中に、また爪を立てた。
まだ治っていない、前の傷の痕に、もう一度立てたようだ。
「・・・あんたも、バンドエイド、必要だよな」
笑うと、顔を顰めた繕が睨んだ。
「・・・なら、必要ないようにしてやる」
「ん、んんっ」
繕は一度引き抜いて、春則をベッドの上で返した。
うつ伏せにされた春則は、腰だけを抱えあげられ、勢いのまま埋めた繕に、息を止めた。
「・・・っ、」
繕の形を覚えてしまった春則は、すぐに慣れてそれを受け入れる。
「あ、あ・・・っ」
掴むものをシーツに代え、春則は声を上げる。
早くなる律動に、春則は自分も終わりが近いことに気付く。
「んんっ」
最奥まで突かれ、中に放たれるのを感じて、春則もシーツを汚した。
大きく息をしながら、引き抜こうとする繕を止めた。
「なんだ?」
「・・・・頼む、も、っかい・・・」
その手を取って、誘った。
イったばかりの春則の放たれる色香に、繕はすぐに反応してしまった。
「ん、ああ・・・!」
再び、奥まで埋め込まれる。
疲れるまで抱いて欲しかった。
声が枯れるまで抱いて欲しかった。
動けなくなって、出て行く繕を見ないですむように、して欲しかった。
流れた涙は、生理的なものだ。
悲しくて、泣いてるんじゃない。
春則は自分に言い聞かせながら、それを見られないようにシーツに顔を埋めた。
ただ、繕を感じていられるように。



シャワーを浴びようとした繕に、声をかける。
「もう、帰るのか?」
ベッドの上で、ぐったりとした身体を動かせずにいたが、口が開いた。
「・・・・まだ、足りないのか?」
繕は、春則のその表情と身体から出るなんとも言えない艶に、顔を顰めた。
「うん・・・足りないな」
身体を動かせないくせに、そう言う春則に、繕は大きく息を吐いた。
「なら、一緒に洗ってやるよ」
「え・・・?」
「洗って、またしてやる」
繕は春則の身体をそのまま担いだ。
「あ、え・・・?」
春則は驚いている間に、シャワールームに入っていた。
狭いユニットの中に押し込められて、シャワーの熱を感じながら、春則は声を上げた。
いつもより、響くその声に、春則も、そして繕も興奮した。
「あ、ああ、ま、っ・・・!」
「まだ・・・やり足りないんだろ」
「あ、あっ」
いきそうになった瞬間に、腰を引かれて、春則は身体を震わせた。
「も・・・いいっ」
首を振って、懇願した。
「も、早く・・・っ」
「まだだ。・・・気が済むまで、抱いてやる」
「や、ああ・・・!」
後ろだけに翻弄されながら、春則は冷たいタイルに爪を立てた。
あまりに甘すぎる自分の声に、情けなくて涙が出そうだった。
それでも、抱いて欲しかった。
これで、最後だ。
そう、決めたからだ。


to be continued...



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