だから





春則はベッドに頭を押し付けたまま繕を見て、
「言えよ」
「なに?」
「言えって」
繕は春則が何を言っているか解ったが、顔を顰めた。
「・・・お前が先に言え」
「言ったら、させてやるよ」
春則は自分から立ち上がる艶を隠そうとしない。
繕は大きく息を吐いて、
「性質が悪い」
「もともとだ」
「知ってる」
春則は肘を付いて、顔を上げた。
「俺は、あんたになら、ずっと抱かれても良い」
それから、少し視線をずらして、
「・・・他に出来ないからな」
「なに?」
「・・・女を、抱けない」
その意味を、繕はすぐに理解した。
「それで別れたのか」
「あんたは、別れないつもりか?」
「別れるもなにも・・・そんな付き合いをしていない」
「いっつも、遊びかよ。ひでぇ男だな」
「それを、お前が言うのか?」
「俺は、それなりに付き合ってた」
「するだけだろ」
春則は記憶を巡って、反論がないことに気付き、話題を戻した。
「いいから、言えよ」
「嫌だ」
はっきり言われた言葉に、春則は驚いて身体を起こす。
背を向けて座ったままの繕に、
「嫌?いやってあんたな・・・」
言いかけて、その耳が少し赤いことに気付いた。
よく見ないと、解らないほどの変化だ。
「・・・・え?」
驚いて、思わずそのまま口から出た。
「あんたって、まさかすげぇ照れてんの・・・?」
「・・・・・」
答えない繕に、春則はまた笑った。
ベッドに倒れこんで、体中を震わせて笑った。
「・・・っ、も、なんだよ、あんたって・・・!」
その春則を、繕はじろり、と睨んだ。
睨まれた視線を、笑って受け止める。
効果がないことを解った繕は、もう一度ため息を吐いて顔を背けた。
「・・・だ」
「え?なに?」
春則はその小さな呟きを聞き取れなかった。
身体を起こして、繕に近寄る。
繕はその身体を取って、ベッドに押し倒した。
「おい、ちょっと・・・」
繕は身体を押し付けたまま、その首元に顔を埋めた。
「・・・っ、おい」
吐息がかかって、眉を顰める春則の耳に、口付ける。
「・・・だから、」
吐息と一緒に耳に送り込まれた台詞は、聞き返しようがない。
春則は息を飲んで、その声を聞いた。
子供のような態度に、傲岸不遜な言葉に、春則は破顔した。
「させろよ、春則」
初めて、名前を呼ばれた。
しかも耳元で囁かれた熱のこもった声に、春則は身体を開きそうになる。 
「繕・・・いいけど」
お返しに、自分も名前を呼んで、続ける。
「残念、タイムアウトだ」
「なに?」
春則はベッドサイドに設置された時計を見る。
時刻は、八時半になろうとしていた。
このホテルはビジネス用で、九時がチェックアウトなのだ。
「また、次に・・・ん」
続けようとした春則の口を、繕は自分の口で塞いだ。
舌を絡め取って、熱のこもったキスに、春則は否応なしに身体に火をつけられる。
「おい、繕・・・」
熱いキスの合間に、講義する。
繕は笑った。
それは春則が始めて見る、微笑みだった。
しかしそれは一瞬で、すぐににやり、と口端を上げた。
「五分で終わらせてやる」
「・・・早」
「早いかどうか、確かめさせてやるよ」
「・・・終わらなかったら?」
「お前の努力が足りない」
「俺のせい?」
「お前が、誘ったんだ」
繕はそこで話は終わり、と身体に口付けた。
朝っぱらから、よくもこんなに色気を出せる、と繕は呆れて春則を見た。
春則は、耳元から離れない、繕の言葉を一生忘れられないだろう、と
繕を受け入れる。
遊びだったんだけどな。
そう思ったのは、お互いだった。


fin



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