愛して欲しいと言えばいい 7
ケイタは思い切り泣いた。 泣いて、何かが晴れた頭で思い浮かべた。 どうして、この男のところに来てしまったのだろうか。 気持ちいいから? それはあるのかもしれない。 いつだって、望んだら抱いてくれていた都合のいい男。それを裏切られたことがないから、どこかで安心していたのかもしれない。 自分に忠実だ、と。 どうしてしてくれるかなんて、今まで一度も考えたことがなかった。 いや、考えている今が、不思議だ。 身体が満たされれば、それで良いとしてたはずなのに。ケイタはそれでも、この男に抱かれたいと、わざわざ来て抱かれた。 暫く使っていない身体に気付かれて、何故か羞恥に襲われた。この行為が、恥ずかしいと思った。そんなはずはないと思っても、身体は正直に反応する。 ケイタが望むままにしてくれる男に、ケイタは涙を止められなかった。 もう終わったのだ、と実感した。 かかってくる電話を待って、焦りを隠すために抱かれる必要はないのだ、と安心した。 それからやっと、相変わらず気持ちよくさせてくれる男を見た。 どうして、ケイタを抱いてくれるのだろう? お金を払ったことなど、一度もない。でも、望みを叶えてくれる。 もしかしたら、払っえば今以上に叶えてくれるのだろうか? そうではなかった。 男は、蔑んでいただけだ。 ケイタを、笑ってみていただけだ。 ケイタがどうして抱かれるのかを知っていて、それでも抱かれているのを見ていた。他の誰に抱かれたあとでも、抱いてくれた。 そして、ケイタを見ていた。 湧き上がるのは、羞恥と憤り。 けれど、散々に攻め立てられた身体はすぐに男の手の中に堕ちる。 「子供だ」 と言う男の言葉は合っている。 ケイタは、叶わない望みを抱いて、誰かに叶えて欲しくて泣いている子供だ。 そんなもの、認めたくなんかなかった。 けれど男は、「もっと泣け」と攻め立てる。 言葉の通り手が身体を這って、ケイタを高める場所を一つひとつ弄んでいく。 力の出ないケイタは泣いてそれに反応するしかなくて、言ったことなどない言葉を漏らす。 もう、やめて。 セックスを、やめて欲しいと思ったのは初めてだった。心から、したくないと思って泣いたのは初めてだった。 「お願い、も、いや・・・っ」 どうして嫌なのだろう? セックスはとても、気持ち良いから好きだ。 こんなやり方でも、男は巧い。ケイタをすぐに高めていく。 それでも、嫌だと思った。 男の冷たい視線が刺さる。 男が、楽しくないから、嫌なのかな。 ケイタは途中から、そんな思考も消えてしまった。 * ツン、と上を向いた胸の突起にしゃぶり付いた。 触って欲しくて、震えているようにしか見えなかった。手はケイタの中心に伸び、そこを柔らかく弄っている。 「あ・・・あぁ・・・っ」 嗄れた泣き声が耳に届く。 嫌だと泣いても、触れば反応する慣れた身体を貪った。 「お、ねがい、譲二・・・、もう、いや・・・っああぁ・・・!」 ケイタの泣き顔を見るたびに、嗜虐心に襲われる。もっと泣かせたいと思う自分が止められない。 譲二は沸き起こる怒りを、そうすることでしか抑えられなかった。 ケイタの身体を貪りつくし、言ったとおり手だけで何度もイかせた。 抵抗などする体力もないケイタに、腰を抱えて最後に自分を押し込んだ。 「あ・・・あぁっ!」 ケイタはすでに声を上げることしか出来ない状態なのは充分分かっている。それでもケイタの腰を掴み揺らし、何度も出し入れを繰り返してその中にまた熱く放った。 意識を飛ばすのではなく、完全に気絶したケイタを見て、やっと譲二は息を吐いた。 ドロドロになったケイタを見て、抑えきれなかった自分に苛付いた。 後悔はしていない。 ケイタに言ったことは、全て事実なのだから。 そう思っても、泣きはらした顔を見て譲二はため息を吐いた。 もう、人形には見えない。 譲二がその身体を綺麗にしても、整えたベッドに寝かせても、ケイタは目を覚まさなかった。体力を限界まで使って疲れきった身体が欲しているのはたっぷりの休養だった。 ケイタが目を覚ましたのは、ケイタを抱きかかえるようにして譲二も眠りに付いた翌日のことだった。 腕の中で身動ぎをされて、譲二も気が付いた。 戸惑った顔が、譲二を腕の中から見上げている。 「・・・・どうした?」 譲二の言葉に、驚いたようなケイタは急いでその腕の中から這い出た。 「なん・・・だよ、お前・・・なんで・・・」 「なにが?」 「なにがって・・・」 聞き返した譲二に、ケイタは戸惑って口を閉じた。それから、何かを吹っ切るように譲二から顔を背けて、 「帰る」 とベッドから降りようとする。譲二はそれを素早く止めた。腕を取って、また自分の下に組み敷く。 「止めろ、もう、しないからな・・・!」 柔らかなベッドと譲二に挟まれて動けないながらも、ケイタは睨み上げた。それさえ、譲二には笑みが零れてしまう。 「なに・・・?!」 「いや・・・俺の質問に、答えろよ」 「質問・・・?」 「振られたのか?」 「・・・・っ!」 瞬間に真っ赤になって顔を背けるケイタに、譲二は譲らないように言葉を続ける。 「それで、お前はどうするんだ?」 「ど・・・どうもしな、い」 「また、男に抱かれ続けるのか?」 「・・・・そんなこと、お前には関係ないだろ」 「そうか?」 「そうだ・・・、お前には、もう抱かれない!」 「何故」 「・・・っお前なんか、嫌いだからだ!」 「だから?」 「だ、だから・・・って、だから、嫌いって・・・!」 「それが、なんの関係が? そもそも、お前は抱かれる男全員が好きだったのか? それで抱かれていたのか?」 「・・・・・」 否定できず、視線をそらして黙り込むケイタに、譲二は覆いかぶさったままで、 「俺は、いつでもお前の望みを叶えてやってただろうが」 「・・・っそんなの、面白がってみてただけだろ!」 その通りだった。譲二が、自分で言ったのだ。ケイタが振られるのをじっと見ていた。 「お前がして欲しいことなんか、隠しても解る」 「・・・っ欲しいものなんか、ない!」 「あるだろ・・・欲しくて堪らないものが、泣いて、欲しがってるものが」 「い・・・いらない! そんなもの、いらない!」 ケイタの言葉は、譲二の問いを肯定してるのだが、自分にいっぱいなケイタはそれに気付かない。譲二を押し退けて逃げ出そうとするケイタを、もちろん譲二が素直に許すはずもない。 「お前の望みなんか・・・すぐにわかる」 伊達にずっと見ていたわけではない。 無感動に、顔に表情を出さないようにしているケイタを、人形のようにしているケイタを、譲二はずっと見ていた。 その内を、ずっと感じ取っていた。 その子供が、ずっと欲しいと願っていたからだ。 「言えよ・・・」 「・・・え?」 「言ってみろ。手に入るかもしれないだろ」 驚くより、動揺した目が譲二を見上げている。左右に振る顔は、そんなこと有り得ない、と言っていた。 「自分から欲しがりもせず、強請りもせず、それで手に入るとでも思っているのか?」 「・・・・っ」 「泣けよ。泣いて強請れよ。子供のように意地を張るなら、子供のように強請って泣けばいい」 動揺に揺れる目が、戸惑ってその目尻に涙が浮かぶ。 譲二はそれを嘗め取って、笑った。 「欲しいと言えばいい」 |
to be continued...