愛して欲しいと言えばいい 5
誰でもいいから、抱いていてほしい。 身体が寒い、とケイタは感じた。だから時間の合う人間を捕まえて抱かれた。 身体はとても疲れているはずなのに、何度も攻められて埋められたはずなのに、心が落ち着かない。 とても寒い。 泊まりで仕事に行っているホストは今日は捕まらない。 どこかに泊めてもらおうかと携帯を開いて、すぐに閉じた。 泊まるなら、あの外見と同じように整いすぎた部屋がいい。 ケイタは大人しく自分の部屋に帰った。寝に帰ってくるだけのような部屋は、埃は溜まっているが散らかってはいない。しかしあのホストの部屋はいつも綺麗だ。誰が掃除をしているのだろう、とケイタは考えた。しかしすぐにやめる。考えても仕方がない。ケイタに関係はない。 もうすぐ年が変わるこの季節に、暇そうにしている人間のほうが少ない。ケイタも相手を見つけるのが大変になった。だから、数時間ごとの入れ替わりになってしまう。 リビングに置かれたソファに転がって、テレビを付ける。 何もしない夜は久しぶりだった。 ケイタは独りが嫌だった。独りになると、考えたくないことを考えてしまう。 あの男の部屋はどんな風なんだろうか。 連絡を受けて、それからどこかホテルに行くか、ケイタの部屋に来る。 向こうの部屋には行ったことがない。プライベートには、一切他人を入れない男だった。 本気の相手には、入れるのだろうか。 ケイタは内容も分からないテレビをただ視線の先に当てて、それから眉を顰めて目を閉じた。 考えても仕方がないことだ。 寂しい。誰かに暖めて欲しい。 なのに、どうしてここにあの男はいないんだ? ケイタは多分今頃客を啼かせているだろう男を思い浮かべた。 いつでも連絡をすれば、すぐに来て抱いてくれていた。 ケイタを拒んだことなどない。 なのにいない。一番欲しいときにいない。 それは当然のことだった。ケイタは客ではない。ホストの男を縛ることなどできない。金も払わず抱いてもらっているぶん、誰よりも得をしていると考えなければならない。 しかし、あの大きな手を思い出す。 今頃抱いているのは、女だろうか。男だろうか。 どちらにしても、いい声で鳴かせているのだろう。 啼くくらいで傍に居てくれるなら、いくらでも啼いてやるのに。 ケイタはもう何も考えたくない、と寝室に入って丸まって眠った。 布団の中で小さく小さく身体を丸めて、堅くして。 何もくれないなら欲しくない、と拒絶しながら眠った。 * 年が明けたその日に、ケイタからの連絡を受けた。 返せば、その日まで連絡がなかった。 譲二から連絡をしたことは一度もなかった。あくまで譲二は受身だった。 抱かれたいなら、抱いてやった。だから抱かれたいときに来ていた。 それまで連日のように訪れ、まるで住んでいたような状態だったのでその変化は少し驚いたが、深く追求はしない。 譲二が仕事で帰らなかったほうが先だったのだ。そのまま誰かのところで飼われていたのだろう。正月と言えど、譲二は実家に帰るわけではない。ほとんど縁を切ったような間柄だった。それは譲二の仕事のせいでもあるが、昔から家と譲二は合わなかったのだ。だからすぐに家を出て自立を始めた。 「客」あっての仕事は、この時期実は仕事が少ない。高く男を買う人間も、この時期は表面の世間体のほうが忙しいのだ。たまにパーティなどに同伴させられるくらいだった。 だからこの時期は譲二にとっても休暇と言って良かった。 ケイタからの連絡があってすぐに、ケイタは譲二の部屋に来た。 すでに家を出てから連絡をしてきたのだろう。 誰に誂えてもらったのか、ケイタにピッタリと合った温かそうなコート。それを身につけて現れたケイタはしかし、顔が青ざめていた。 「・・・・寒かったのか?」 その顔を見て譲二が訊くと、ケイタは凍ったような唇を動かした。 「・・・・うん」 しかし出て来たのは頷きだけで、譲二はいつものように自分に手を伸ばしてきたケイタを驚きながらも受け入れた。 「先に風呂に入るか?」 縋りつくようなケイタを覗き込むと、ケイタは首を振って自分の腰を押し付ける。性急な行動はいつものことだが譲二はすぐにいつもと違うことを感じた。しかし、それを聴いてやるほど譲二も人は良くはない。 「なら、暖めてやる」 ケイタの軽い身体を抱き上げて、すぐに寝室に入った。 寒い、と言ったケイタの身体は本当に寒そうだった。柔らかな肌が、凍ったように固くなっている。すぐに熱を帯びて擦り寄ってくる腕もぎごちなく譲二の袖を掴むだけだ。 力の入ったその動きはまるでバージンを相手にしているようで、譲二も戸惑ってケイタを覗き込む。 「・・・どうした?」 その目は泣きそうだった。譲二にもわかる。その目で、必死に見上げてくる。 「いいから・・・っ早く、抱いてくれ・・・っ」 寒いから、とケイタは訴える。 譲二は了解したようにふん、と鼻を鳴らして冷たい肌に唇を付けた。 やはり、冷たかった。喉もとに噛み付くように口付けて、そこからゆっくりと下へ這う。細い肩にも吐息をかけて暖めるようにじっくりと時間をかけた。いつもは譲二の手のほうが冷たいくらいだが、それよりも冷たいケイタの身体を確かめるように貪る。 浮き出た鎖骨に歯を立てて、薄い胸の小さな突起を嘗める頃にはケイタの口からも苦しそうな吐息が漏れていた。 すでに隠すものなどないケイタの身体に手を這わせて、舌は執拗にその突起を嘗めて絡める。甘咬みを繰り返し、何度もその腰から足の凍った肌を確かめるように往復する手に、ケイタの身体はいつものように反応し、震える。 「・・・っは、ぁ・・・」 覆いかぶさった譲二に腰を擦り付けてくる様は娼婦のようだが、手は譲二の背中ではなくまだ着たままの譲二の服をぎゅっと握り締めている。そうされると、誘うような動きも羞恥を帯びて見えて本当に処女を相手にしている気分だった。それはそれでいいな、と譲二は思って、敢えて主張し始めたケイタの中心には触れずに固い身体を解すように手を這わせた。 「・・・あ、あ・・・っ、もぉ・・・っ」 揺れた目が見上げてくる。もう、どうして欲しいのか譲二にも解る。突起を嘗め続けていたせいで濡れた唇を嘗めて、人の悪い笑みを浮かべる。 「・・・ん? まだ、寒いだろ」 ケイタは首を左右に振って、譲二の握ったままのシャツに一層強く力を入れた。 「も、いい・・・っ」 「良くない。硬い身体を相手しても楽しくない」 「も・・・あぁ・・っ」 すでに尖ったままの突起に再び歯を立てた。焦らしていると、身体中が性感帯のようになってくるケイタは肌の上を譲二の手が滑るだけで粟立つような快感が全身を襲う。余裕のある譲二はそれを見てもう少し楽しむつもりだった。 「あ、あっあぁ・・・っ」 染まった頬と口から吐息の漏れる表情を見れば、すでに寒さなどはないのだろう。しかし譲二がこの状況を楽しまないはずはない。じっくりと時間をかけて抱いてやるつもりだった。 身体に痕を付けるのを厭わないケイタの身体は、綺麗だった。最近はつけないようにしていたのだろうか、と譲二は思いながらも、自身はケイタからは聞いていないので思うように痕を付けた。焼かない身体にはその痕がよく映える。 重なった譲二の腹に立ち上がった自分を擦り付けるように腰を揺らすケイタに、乾いた笑みを浮かべてその先端からすでに溢れている雫を指で掬った。 「あ、あっ、あっ・・・」 ケイタはもっと触って欲しいと欲望を隠さないが、譲二はそんなに簡単に楽にしてやるつもりはない。滑りを帯びた指をその奥まで伸ばす。小さな蕾に指の腹を当てて、滑りを移すように擦り付ける。 「ん、や、あ、あっ・・・」 自ら膝を立てて腰をその指に縋るように揺らすケイタが、何を求めているかはすぐに解る。譲二は笑って人差し指だけをつぷ、と埋めた。 濡れているせいで抵抗も無く埋まってしまうが、譲二はそのキツさにすぐ気付いた。何度となくしている行為だった。 この場所がどんなに誘うように絡んでくるか、身体が覚えている。 しかし、キツい。その奥にある快感をしっているケイタは、その先を求めるけれど指を入れただけですでに余裕はない。いつもならすぐにでも譲二を受け入れるほどの軟らかさだというのに、指の一本から慣らさなければ今日は無理のようだった。 すぐに押し込んでも、ケイタは受け入れるだろう。それが欲しくて抱かれているのだ。しかし、痛みに泣くのも解っていた。 まるで本当に処女じゃないか。 譲二はその事実を理解して、眉を顰める。 誰にも抱かれていなかったのだろうか? いつから? 譲二は疑問を持ったままケイタの腰を掴んだ。 「え・・・ん、あっ」 驚いたケイタには気にせずに腰を抱えて指を這わせていたそこに舌を伸ばした。 「あ、あぁっ・・・」 指で押し広げて、襞を解すように嘗めた。唾液が舌を伝ってケイタの中に押し込められる。次第に濡れた音が響く。今更ケイタがそれに何を思うはずもない、と譲二は気にせずに舌を使っていたが、抱え上げた足が、シーツを握る手が、小さく震えている。不自然に身体に力が入っている。 「・・・・?」 口から出てゆく嬌声も、それを隠すように顔を譲二から背ける。 「ん・・・っ、んっ」 譲二はその腰をベッドに戻して、顔を覗き込んだ。 「・・・・どうした?」 ケイタの染まった頬は、上気しているだけではない。その表情に羞恥があるのに、譲二は気付いた。震える 身体を押さえ込むように力が入っているケイタは、戸惑いを隠せず、 「・・・あ、だ・・・って、」 「なんだ」 「ひ、さ・・・しぶり、だし・・」 「なに?」 「・・・んなとこ、嘗めてんの・・・」 いつもは、こんなことをしなくても受け入れられる身体なのだ。他の男にすら、嘗められることなど少ないのだろう。譲二も、思い出してもいつだっただろうか、と記憶を巡らなければならない。 「・・・そうだったか?」 しかし譲二は薄く笑みを浮かべて、囁いた。ケイタは顔をまた背けたままで、 「・・・そうだよ・・・」 「そうか、たまにはいいだろ・・・気持ち良いんだろ?」 言いながら、譲二はその奥にまた指を入れた。簡単に、埋まってしまう。 「あ、あぁ・・・っ」 内側に力を入れて指を曲げると、すぐにケイタは反応する。気持ち良い、と身体中で返す。もう一本指を入れて内襞を解し、探るようにかき回す。 「あ、あぁ、あっ」 快感に震えるケイタを見下ろして、譲二はもう片方の手をその胸に伸ばした。先ほど嘗めて濡らした場所はすでに乾いていたが、尖ったままの突起を指で押す。 「ん、あっあぁ・・・っ」 内側から攻められながら性感帯のその場所も弄ばれてただ声を上げるケイタに、 「・・・お前も、バージンのようだぞ・・・? どうした? 抱かれてなかったのか・・・?」 「客」を一気にその気にさせる低い声で囁く。 「珍しいな・・・」 「あ・・・あ、」 一気に高められて、荒くなる息遣いを抑えながらも見上げてくるケイタは、 「・・・き、ぶん・・・?」 抱かれたくない、気分だった、と呟く。 抱かれたくなったり抱かれたくなくなったり。気分で他人と自分を左右する。 本気で猫のようだ、と譲二は思った。しかし、ケイタが見上げるその視線は恨めしいものがある。譲二がその目を覗き込むと、 「・・・お前が、いないから・・・っ」 「・・・・なに?」 「あのとき、お前がいないから・・・っ」 「・・・・・」 だからどうだと言うのだろうか。 譲二はその言葉の真意を考え込んでしまった。 譲二がいなくても、他に抱いてくれる男ならいくらでもケイタにはいるはずだった。もう一度譲二が聞き返す前に、ケイタが縋るように譲二に手を伸ばす。 「も、もぉ・・・っいいから、は、やく・・・っ」 一度も解放はなく、焦らされ続けたケイタは欲望に忠実だ。 その表情に譲二の保っていた余裕も薄れた。 求められれば、与える。 それを基本としていたけれど、ケイタに求められて返せない男がいるのだろうか、と譲二は今更ながらに自分の行動を思った。 冷静にケイタの相手をしているつもりだったけれど、自分もかなり箍が外れてきているのかもしれない。 相変わらず良い声で啼くケイタにそれを気付かれたくなくて、久しぶりの身体を攻め続けることにした。 |
to be continued...