離せない温度  11






シチロウはどうやって帰ったのか、気付けば自分の部屋の前に居た。
「・・・・・」
しばらく、そのドアを見つめて立ち尽くした。
このドアの向こうに、失くしたくないものがある。
いっそ閉じ込めてしまいたいほど、欲しいものがある。
姿を想うだけで、シチロウの全てが占められる。
終わりの見えない、欲の尽きないこの感情はなんなのだろう。
しばらくして、ドアが内側から開いた。
「・・・ナナさん?」
顔を覗かせた、幼い少年。
それが自分の手の中にあることに、シチロウは微笑む。
なんて酷い大人だろう。
なんて悪い男だろう。
この少年を、鎖で繋いで籠に入れて飼ってしまいたいなどと。
平気で思う男を、卯月は受け入れ許してくれるのだろうか?
「・・・よく解ったな?」
迎え入れられて、部屋へ入る。
後ろで、ドアを閉めた。
逃げられないように?
この浅ましさにすら、笑ってしまう。
「なんとなく」
それに気付いているのかいないのか、卯月は奥へ入ろうとした身体を途中で振り返らせた。
「・・・ナナさん」
「・・・ん?」
自分より大きな身体へ、腕を伸ばして縋るように絡む。
「・・・卯月?」
珍しいその行動に、シチロウは思わず瞬いて確認するように覗き込んだ。
それを見上げてきた卯月は、今までとどこかが違う。
「ナナさん、ちゃんと・・・・」
「・・・・」
「帰って、来て、」
時間が止まったように、固まってしまった。
「ここに、俺、いるから・・・っ待ってるから」
卯月の、顔が歪む。
泣き顔に変わる。
それでも、卯月は必死だ。
その熱が、シチロウに伝わる。
全身から伝わる。
「俺が、逃げないように、縛っても、いい。繋いでも、いい。どんなに、酷いことしても、いいから・・・・っ」
その声を奪った。
身体を抱き上げるようにして、唇を塞いだ。
貪るように、口付けた。
甘い。
卯月の、経験を思えば幼い口付けに、シチロウは執拗に舌を絡ませる。
「ん・・・んっ!」
銀糸を繋がらせるほどに、ゆっくりと唇を離せば熱に熟れたような目で見上げてくる卯月がいる。
それに、またどうしようもない気持ちが襲う。
ミチルと会ってきたことを、どこかで感じたのだろうか?
自分が傷つくことで、シチロウの愛情を図ろうとでも言うのだろうか?
それとも、シチロウの気持ちを疑っているのだろうか?
「・・・まだ、逃げようと考えているのか・・・?」
凶暴さを浮かばせた笑みで、卯月を覗き込んだ。
息を飲むように、卯月の身体が固まる。
「ち、ちが、そんな、こと・・・っ」
「本当に?」
「あっ、や、こ、こ・・・っ」
服の上から、卯月の柔らかな双丘を揉んだ。細い足の間へ、指を伸ばす。
「ここ、で、や・・・っ」
すでに震える身体で、力なく抵抗してみせる。
シチロウはそれに甘く囁いた。
「・・・誘ったのは、お前だ」
違う、と首を振る卯月の言葉などもう聞くことはせず、その首筋に顔を埋める。
「あ、あ・・・っ」
こんなにも、自分に欲があっただろうか?
毎日何度も愛欲に溺れるほど、気持ちが高鳴る。
「逃げるなよ」
逃がすつもりもないくせに、呟いてみせる。
気持ちを疑うなら、身体に何度も浸み込ませてみせる。
シチロウの中でしか、生きられないように。
渇きを覚えるほど、欲しかった。
非道だと言われても、手に入れたかった。
一度それを手にしたら、簡単に放してしまえるほど、シチロウは大人ではなかった。
離せなくなった温度を確かめるように、シチロウは腕に力を込めた。
酷い言葉だと知りながら、卯月の耳へと囁いた。
睨まれて、傷つけたと知りながらも、卯月の全ての感情が自分に向くのなら、二度とこの手を離すつもりはなかった。

「・・・・愛してるよ」


fin.

BACK ・ INDEX