好きこそものの道理なれ −レキフミ−




イタリアに居た二週間は、酷く長く感じた。
オーナーについてまわったり、仕事のためにいろいろと見ておくこともたくさんあって、それについては
時間が足りないくらいだった。
気持ちが焦っていたのは、仕事についてではない。
欲しいものが目の前に、手の届く距離にないからだ。
レキフミは普段は吸わない煙草を何度も口にしていた。
一緒に居たオーナーには、飢えた獣の側にいるようで落ち着かない、と何度も詰られた。
それでも人前にいるときは完璧に冷静さを保っていたのだから、許容範囲だろう。
自分にとって必要な二週間だったというのに、帰国するときは出かけるときより機嫌が良かった。
帰る時間を考えると、会社から帰宅する相手より早く家に着く予定だった。
仕事で疲れているだろう相手を気遣って、帰宅早々寛ぐ用意をしておいたというのに。
レキフミは二週間ぶりに顔を合わせて、そして何も言わず顔を背けたミチルに感情が冷えた。
触れれば熔けるほど、高温に冷えた。
消えた姿を追って洗面所に入ると、鏡に向かっていたミチルがまた顔を逸らしたのに目が据わる。
「何を、しているんですか」
もう一度同じ質問をした。
「なにも・・・して、ない。風呂に入るから、出て行ってくれ」
「じゃあ質問を変えましょう。何を、考えているんですか」
「・・・・な、なに、も」
「何も考えてないと? 二週間ぶりに帰ってきた恋人に対するその態度が、ですか」
「・・・・っ」
ビクリ、と肩を揺らすミチルに、レキフミは呆れるように息が零れる。
まったくどうして、そんなに判りやすいのだろう。
自覚がないところが、益々つけこまれる原因だというのに、自覚がないからか学習はない。
「リビングにあった住宅情報誌、あれはなんですか」
新しい雑誌だった。
購入した理由を想像して、レキフミは狭い洗面所の空気を冷えさせる自分に気付いた。
しかし解放してやる気にはなれない。
「もしかして、引越しを考えているんですか」
「・・・・」
背を向けたまま答えないミチルに近付き、背後から耳に声を落とした。
「・・・ひとりで? 俺から、逃げようとでもしているんですか」
「・・・・っ」
ますます身体を強張らせる姿は、とても年上とは思えない。
この俺から、逃げる?
逃げられると、思っている?
さらに凶暴な感情が膨れ上がった。
さてどんな酷い言葉で責め立ててやろうか、と思案していると、ミチルの掠れた声が聞こえた。
「・・・き、君、が、帰って、来なかったら・・・」
「は?」
「ひ、ひとりで、ここに、住むのは・・・・・苦しい」
何を言っているんだ。
ひとこと一言、ゆっくりと正確に告げるミチルに、さっきとは間逆に感情が膨れた。
単純すぎる思考は、すぐにトレースできる。
ミチルが何を考えて雑誌を購入したのか、判った。
しかし、どうしてそんな考えに至ったのかが理解出来ない。
「ミチルさん、ちょっとこっち向いて」
「や・・・っ」
「厭じゃないでしょう、ほら」
慌てて腕で顔を隠すミチルを強引に自分へ向けた。
顔を染めたミチルと、確かに視線が合った。
合ったことで、ミチルは泣きそうな顔で目を逸らす。
その顔を覗きこんだ自分は、さぞ意地の悪い顔をしているはずだ。
「ミチルさん・・・淋しかったんですか」
「ち、ちが・・・っ」
「ひとりで、不安になりましたか? それで、変なことまで考えた?」
「へん、変な、ことじゃ・・・」
「変でしょう。いったいどうして、俺がミチルさんを手放すというんですか」
一生放さないと言ったはずだ。
いっそ檻に閉じ込めてしまいたいほどなのだ。
「淋しくて、泣きました?」
「な・・・っ泣いて、ない!」
強く否定する声が、さらにレキフミの言葉を肯定しているように聞こえる。
「ひとりで居るのが、怖くなったんですね?」
「き・・・っ君は、いつもそうやって、自分の都合の良いように解釈して! 俺の言葉を無視するな!」
「君? まぁ良いでしょう。今は気分が良いので、許してあげますよ」
「ゆ――許して、もらうことなんかない! 手を放せ! 俺は風呂に入るんだ!」
「せっかくです。一緒に入りましょうか」
「は・・・っ入らない! 出て行け!」
「俺が出て行ったら・・・泣いちゃうでしょう?」
「泣かない・・・っ」
その顔で、その声で。
いったい抵抗にどんな意味があるというのだ。
「今日はすごく、舐めたいんで・・・洗わせてください」
「い、いや、だ・・・っ」
抵抗の声など、レキフミには関係ない。
ミチルの厭は、口にするまでもなく聞き慣れていた。
逃げ出そうとする身体からスーツを剥いでいくことも、レキフミの気持ちを高ぶらせた。
きつく結ばれたネクタイの中に指を入れ、シャツの上から胸の上を探る。
「厭なんて・・・言わないでくださいよ、二週間ぶりですよ。溜まってるでしょう?」
「・・・・っ」
びく、と腕の中で一層身体を小さくしたように揺れるミチルが、声のない答えを教える。
自然と顔が意地悪く笑った。
「・・・ひとりで、しました?」
「・・・・っ」
耳元にひっそりと訊くと、慌てて首を振る姿は、レキフミには肯定しているようにしか見えない。
「我慢できなくなったんですか?」
「し、してな・・・っ」
「別に、責めたり怒ったりしませんよ。当然の欲求と行動でしょう」
ただ、泣かせて苛めるかもしれないが。
それは今更で仕方がないことだとミチルもレキフミの性格を知っているはずだ。
「どうやってしました?」
「だから、俺は・・・っ」
それでも否定しようとする身体を強引に振り向かせ、狭い洗面所の壁に押し付けて足の間に腰を押し付ける。
逃げようとしても逃げられないミチルの中心に手を伸ばし、スラックスの上から形を教えるように撫でた。
「どうやって、したんですか? ・・・見たいなぁ」
低く呟いたのに、ミチルにはしっかりと届き顔を青ざめさせる。
しかしそれで引いてやるほど優しくはなれない。
「ねぇミチルさん・・・して、見せて?」
「い・・・っいや、だ!」
「どうして? ひとりでは、したんでしょう? 同じことするだけですよ」
「ち、ちが・・・っ」
「ほら、握って・・・もう硬くなってますから」
「う、あ・・・っ」
慣れた手順でベルトを外し下着の中に強制的に手を導く。
レキフミの手に包まれるようにして自分の性器を扱くことに、涙目になって躊躇いながらも戻れなくなった
身体につられてレキフミの手が離れても自分の手を離すことはなくなった。
厭だと恥じらいながらもレキフミの言うとおりにする姿を眺めていたが、まだ満足することは出来ず手が伸びる。
「ココも、弄りました?」
「ん、あっ」
シャツの上に尖ってきた突起をきゅっと摘むと、ミチルの身体がびくっと揺れる。
裾を捲り上げて白い肌を空気に触れさせると、ミチルが慌てて首を横に振った。
「や、やめ・・・」
「・・・ああ、引っ掻きましたね?」
「ち、ちが・・・っ」
「そんな嘘、通用するとでも? ミチルさんの肌、白いから痕が残りやすいんですよ。いつも俺は慎重にしてるのに、自分で傷付けてどうするんですか」
「・・・・っ」
もう言い訳も出来ないミチルが、恨めしそうにレキフミを睨みつけてくる。
レキフミはにっこりと笑って返してやりながら、自分の中心を握りこんだままの手をピン、と弾いた。
「手、止まってますよ」
「う・・・」
ここで止められないのはミチル自身がよく判っているはずだった。
レキフミに手伝ってやるつもりがないのも、良く知っているはずだった。
さあ見せろ、と困惑した顔を覗きこむと、ミチルの尖った唇が開く。
「俺・・・ばかり、じゃ、おかしい」
「なに?」
「俺だけじゃなく・・・君も、してみせろ」
俺も?
レキフミは突然の要求に驚き、しかし楽しそうに目を細めた。
「・・・子供みたいに、オ ナニーしあうんですか?」
「お・・・っい、厭とは、言わせないぞ。君が見たいというのは許されて、俺が見てはいけないなんて」
レキフミの直接の言葉に頬を染めながらも、ミチルは自分の意思をはっきりと告げた。
レキフミは鼻先が触れるほど間近に顔を寄せて、楽しそうになる声で囁いた。
「言うようになりましたね、ミチルさん・・・でも、」
「・・・・レキフミも、しろ」
レキフミの言いたいことを先に改めたミチルに、レキフミにしないという選択肢はなかった。




狭い洗面所に二人で向かい合ったまま、性器だけを取り出し自分の手で扱く。
ミチルの呼吸はすでに荒い。
レキフミの息も弾みそうだったが、必死に自慰をしながら視線はレキフミの手に向かうミチルに深く息を吐き出す。
「・・・堪らないな」
「は、あ・・・え?」
「そんなもの欲しそうな目で、俺の見ないでくださいよ」
「な・・・っ」
「ミチルさんに見られてるだけで、俺のはガチガチなんですよ」
扱かなくても、達してしまいそうだ。
上気した声で囁くと、ミチルは息を詰めて何かを耐えた。
達さなかったことに目を細めて、硬くなった先端をミチルの性器の先に擦り付ける。
どちらのとも言えない滑りで、音を立てるほどずるり、と擦れた。
「う、あっ」
「さっきから、指で・・・ここ、弄ってる。好きですよね、ここ・・・」
「や、やめ・・・っ」
ミチルの性器の、裏にある窪みを自分の先でグリグリと押し付ける。
「あれ、止めていいんですか? ああ、オ ナニーでしたね、手伝っちゃ駄目でした」
「あ・・・っ」
笑って糸を引く塊を離せば、ミチルは物足りなさを隠しもしない顔でレキフミの腰を追う。
無意識だろう自分の行動にミチルが顔を染めるのを笑いながら、乾いた唇を舐めた。
「手でするだけじゃ物足りないなら・・・ここも、弄っていいですよ」
ただし、かぐるのは駄目だ、とシャツの下で固くしていた乳首を抓る。
気持ち良さそうに大きく息を吐き出したミチルに、親指の腹で強く撫でた。
「ほら、自分で・・・片手、いけるでしょう」
「う・・・ん、」
朦朧とした目のミチルが、素直に性器から片手を離し自分の胸に触れるのを見て、レキフミはますます自分も熱くなるのを感じた。
「あ・・・ぁっく、う、んっ」
上下に性器を扱く手と、もどかしそうに自分の胸の上を擦る手に、ミチルの抑えられない声が溢れる。
あともう少しの刺激を求めて、ミチルの爪が乳首を引っ掻こうとするのを、ゆっくりと止めた。
「・・・駄目ですって、言ったでしょう」
「う・・・っで、でも、もう、」
「足りない? 痛い刺激が欲しいなんて、本当子供みたいだ、ミチルさん」
「だ・・・だ、って! もう・・・っ」
「こっちは、弄らないんですか?」
言いながら、レキフミは柔らかな尻から狭間を大きな手で包んで揉んだ。
「―――ッ!」
「あれ、弄らなかったんですか?」
好きなくせに、と笑うと、ミチルの目が強くレキフミを捉えて睨む。
その視線を甘く受け止め、硬く閉じた窄みに指をゆっくりと這わせた。
「ああ・・・指じゃ、こっちは足りないか」
「ば・・・っん!」
罵倒が出てくるはずだった唇を、強引に塞いだ。
熱い吐息を吐き出す唇は、やはり熱かった。
最初は躊躇った舌を誘うように舐めると、すぐに解けたように反応を返してくる。
角度を変えて深く、何度もキスを繰り返す。
苦しいはずなのに、これに抵抗は見せないミチルに、最後に唇に噛み付くようにして離し、
「・・・二週間ぶりなのに、キス、してませんでしたね」
笑うと、ミチルは綺麗な顔を不機嫌そうに歪めて睨みつけてくる。
その反応はなんだ、と獰猛になっている感情を隠さないで、口許は笑ったまま目を据わらせた。
「続き、してくださいよ・・・もの足りないなら、俺のあれ貸しましょうか? 挿れて自分で腰振りますか」
嘲ることを隠さないのは、ミチルの傷付く反応を見たかったからだ。
さらにどんな酷いことを言って貶めてやろうか、と考えると、ミチルは顔を伏せ足首まで落ちたスラックスと下着から足を引き抜いた。
自由になった足で、これでミチルの肌を隠すものはシャツと不自然に見えるまま残ったネクタイだけだ。
狭い空間でミチルは身体を壁に向け、深く溜息を吐く。
その顔が赤いのは、耳まで染まっているせいでレキフミにも見えた。
「ミチルさん?」
壁についた両手は固く握りしめられ、震える身体を堪えるようにも見える。
いったい何をするつもりだ、と目を眇めると、背後のレキフミには決して振り向かず、片手で腰を隠すシャツの裾を少しだけ捲くった。
そして、掠れた声が二言だけ零れた。
「―――貸せ、」
小さな声を、レキフミは聞き逃すことはなかった。
一瞬、何を言われたのか理解出来なかった。
しかし次の瞬間には沸騰するほど頭に血が上っていた。
まるで怒りにも似た感情の激しさに、舌打ちを隠すことは出来ない。
考えるより身体が先に動き、振り返って洗面台にあったボトルを手に取った。
レキフミのシェービング用のローションだったが、構わなかった。
量も気にせず白い狭間の上からそれをボタボタと零し、指で道筋を作るように奥にある窄みに流した。
「ん、ああぁっ」
「あんたって人は・・・!」
痛い、と身体が強張るのも気にせず指を二本一気に埋め込んだ。
二週間、本当にここには触れていないのだろう。
とすれば、硬く閉じてしまっているのは当然だった。
そこへ強引に押し込めば、ミチルが傷付くことは容易に想像がつく。
レキフミの性器はただでさえ、もう収まることなど出来ないほど固く反り返っていた。
「んあっああっあぁ・・・っ」
グリグリと指を押し込み、広げるというより滑りを中まで擦り付ける。
「傷を付けたくないと気を遣った俺を、馬鹿にしてるんですか?」
「あ――・・・っん、あっ」
「俺を挑発するなんて、本当いい度胸してますよね、ミチルさん・・・」
「ん・・・・っぐ、ああぁぁっ!」
中も確認せず、指を引き抜いて濡れた窄みに躊躇うこともなく一気に性器を押し込んだ。
きつさにレキフミも目を顰めたが、繋がった場所は切れてもいない。
ミチルも受け入れられるよう覚悟して身体を緩めていたに違いない。
望まれていた、と聞かなくても判る結果にレキフミは面白くなく顔を顰め、パン、と尻を叩いた。
白い丸みが赤くなったのも気にしなかった。
「ほら、望みどおり貸しましたよ、腰振ってくださいよ」
「ん――・・・っく、んんっ」
身長差から、レキフミが少し腰を屈めてもミチルの足が爪先立ちになる。
壁に手をついて耐えながら、ミチルは本当に腰を揺らした。
前後にぶれ、小さく抜き挿しを繰り返し、自分の好きな場所に当たるまで深く腰を押し付けていやらしいとしか表現しようのない姿態を見せる。
「んぁ、んっあ、あっあぁっ」
声を殺すことも諦めたように、片手で自分の性器を握りこみながらさらに腰を振った。
「あっあっ、ん!」
「・・・っクソ」
使え、と言ったものの、この状態でレキフミがじっとしていられるはずもない。
ミチルの中はもっとして、と言葉より雄弁にレキフミを誘って動くのだ。
ぐるり、と腰を回して違う刺激を与えてやると、ミチルは崩れ落ちそうになるような悲鳴をあげた。
「ん、ふぁ、あぁぁんっ」
崩れなかったのは、レキフミがミチルの細い腰を掴んだからだ。
自分でするより強い刺激を押し込めてやると、理性を失くしたようなミチルの声が止まることなく溢れてくる。
「んぁ、んっあんっあぁん・・・!」
「・・・なんて声、出すんです・・・そんなに気持ち良いんですか?」
ぐっと詰まりそうになったのはレキフミのほうだった。
引き摺られるのはどうしても許せなくて、レキフミは酷い言葉を探した。
「ねぇ、ミチルさん、俺に犯されて、気持ち良いんですか?」
「ん・・・・っ」
確かにミチルの意識に届いたのか、びく、と怯えたように肩が竦んだ。
「ここ、グリグリされて・・・気持ち良い?」
「んっぐ、あっあっ」
「いやらしいなぁ、ミチルさん」
「うー・・・っ」
肩越しにからかう声で囁くと、ミチルが何かを堪えるように振り返りその強さのまま睨み付けてくる。
なんだ、と答える前に、噛んでいた唇が開いた。
「・・・い、い」
「え?」
「・・・きもち、いい・・・っだから、放す、な」
何を言っているんだ。
レキフミは今日、何度そう思っただろうと頭を抱えそうになった。
しかし実際は強く腰を押し付けただけだ。
「んあぁぁっ」
「・・・っく、そ、」
強く追い立てるように抽挿し、奥から強く締め付けられることに自分も耐えられなくなった。
ミチルの掠れた悲鳴を聞いて、達したのはほぼ同時になってしまった。
我慢することなく、ミチルの中に吐き出してから、瞬間力が抜けて崩れそうになった細い身体を抱きとめる。
細く息を繰り返すミチルの身体に残った服を何も言わず脱がすと、まだ絶頂の恍惚としたものから抜けきっていない目が振り返る。
なにを、と問いかけるような視線に、レキフミは目を据わらせた。
「風呂入るんでしょう。忘れたとは言わせませんよ」
「・・・・え、」
「舐めたいって、言ったでしょう」
これで終わりだと思っていたら大間違いだ。
甘すぎる。
ここまでレキフミを追い立てておいて、一度で済まされると本当に思っているのか。
レキフミの灼熱のように欲情した視線を受け止めて、ミチルが漸く理性を取り戻したように怯えても許してやるつもりはなかった。




「もう・・・む、り」
何も出ない、と腕も上げられないミチルが抵抗したのに、レキフミは鼻で笑うように目を細めた。
宣言したように、浴室で丁寧に身体を洗ってやりながら、泡を流していく側から舌を這わせた。
駄目だ、と口を塞がれれば、塞いできた手のひらも指も舐めた。
犬のように顔も舐めてやれば、赤くなった乳首を口に含む頃にはミチルにまともに抵抗出来る力など残っていなかった。
浴室内でも一度犯し、のぼせる、と睨まれてならば、と寝室へ移動した。
四つ這いにさせてレキフミを何度も受け入れた窄まりに舌を絡ませれば、悲鳴のような声で泣かれた。
厭だ、と何度言われても止めてやらず、舌でそこを犯しただけでいかせた後は、ミチルに抗う思考も残っていなかったはずだ。
ぐったりとした身体を後ろから抱きかかえ、抵抗もない中に性器を埋めた。
「あ、あ・・・っも、むり、って」
「んー・・・動きませんから、繋げさせてくださいよ」
「ん、ん・・・」
ぴったりと腰を寄せたまま、ベッドに転がりしっとりと濡れたミチルの髪を梳いて後ろから耳やこめかみにキスを繰り返す。
「久しぶりなんですよ・・・本当にミチルさんが側に居るっていう安心が、俺も欲しいんです」
ゆっくりと、安堵を与えるような声を囁けば、ミチルは少し身動ぎをしながらも抗うことはしなかった。
一気に膨れ上がった激情のような欲望が落ち着いて、ピロートークくらいさせろ、と汗ばんだ肌を撫でる。
「本当に、ミチルさんは少しも目が離せませんね」
「・・・どうして」
「どうしてなんて俺が訊きたいですよ。いったいなんで俺が帰ってこないかも、なんて考えつくんです?そんな不安にさせるようなこと、俺しましたか?」
「・・・・そ、そうじゃ、ないが」
「ないなら、なんです。ミチルさんは本当、淋しがり屋ですね」
「ち、ちがっそんなこと、ない!」
「あんな乱れておきながら、違うなんて今更ですよ」
肩から腕に、指先までしっとりとした肌を手でなぞり、指の間に指を絡ませる。
首筋に顔を埋めて擦り寄ると、ぴくん、と竦んだ肩に挟まれた。
腕に収まる身体をぎゅう、と抱きしめて、薄い胸板を撫で、指先がつん、となった乳首に触れるとそこで留まり弄る。
ミチルの身体が徐々に緊張するように固くなるのを知りながら、後戯のような愛撫を止めることはない。
「俺としては、ミチルさんに最後の砦を残しておいてあげたつもりなんですが・・・仕方ないですね」
「・・・どういう、意味だ?」
「すぐに判ります。ここまでしても判ってもらえない俺の本気を、教えてあげますから」
「は・・・? い、いや、あの、それより・・・」
「・・・ん?」
「あの、その・・・手、が、どうして・・・」
「手?」
レキフミの手はミチルの乳首に絡んだままで、それがどうした、と音を立てて首筋にキスをすればミチルは赤くなった目で振り返り睨む。
「どうして、そ・・・そこを、触る、んだっ」
「ああ・・・だって気持ち良いんですよ。ミチルさんの乳首。ずっと触っていたいんです」
「君は! どうして・・・っ」
「はい?」
「君は、それで、いいかもしれないが、俺のことを少しは考えて・・・っ」
「感じますか?」
「お・・・っ落ち着かなく、なる、だけだ!」
むきになるミチルに、レキフミは我慢出来ず吹き出した。
「まったく・・・こっちのことを考えてないのはミチルさんでしょう?」
「なにが・・・っんぁん!」
優しく撫でていた乳首を強く摘み、全身を揺らせば繋がった場所が酷く反応する。
「ちょ・・・っちょ、っと、もう、おわ、りって・・・!」
「本当にあれだけで終わりだと思ってたんですか? この状態で、動かないまま終われると?」
「んあ・・・っあ!」
身体を起こし、繋げたままミチルの片足を掴んでぐるりと腰を回した。
正面から足を抱えて向き合う形で、怯えの映る目を満足して見つめた。
「もっとグズグズになって、俺から逃げられなくしてあげますよ」
「う・・・っうそ、つきっ嘘吐き!」
子供のような悪態しか言うことが出来ないミチルに、レキフミは自分の笑顔が決して優しいものではないことを自覚していた。
「俺が嘘を吐かないなんて、いつ言いました?」
「さい、最低、だっ君は、い、いつか、地獄に落ちるぞ!」
「君? ミチルさん、俺が今いる場所が、地獄じゃないなんて誰が言ったんです?」
身体を繋げて、留め続けるこの世が、素晴らしい天国だなんてレキフミは思ったことはない。
光のない深淵に、快楽と喜びだけを求めてミチルを犯し続けていることなど、今更確認することもない事実だった。
そこにひとりでいるのが淋しいと泣いたとしても、レキフミに放してやるつもりは少しもなかった。
繋ぎとめるためなら、どんなことでもする。
「逃げ出すことは、許しませんよ。俺が一生・・・愛してあげますから」
好きです、と耳に漏らせば、ミチルは一瞬何を聞いたのか判らないほど驚き、それから一気に全身を赤く染めた。
「な――っな、ん・・・っき、君は!」
「君?」
「・・・レキフミは、本当に、最低だ!」
「それはどうも。最低な男は、身体だけは最高ですから、安心してください」
「馬鹿・・・っ」
激しく罵る声が、喘ぎに変わるのはあっという間だった。
ミチルの手がレキフミの背中に回るのも、時間がかかることではなかった。
しかしレキフミがどれだけ本気でいるのかは、一生かけて教えていくつもりだった。

翌日、荷物の少ないレキフミの引越しが行われることは、今のミチルは知る由もなかった。




fin.



BACK ・ INDEX