自慰行為 ―恭司―





俺は未だに、飽きるってことがないのに不思議だった。
何度も何度も、本当もう何年も同じ相手を抱き続けてきて、それでも足りないと思う。
相手の言動に一喜一憂して、必死に縋り付いて、自分で首に鎖をつけてその先を持っててと渡す。
気付けば床に放られるそれを、何度も押し付ける。
でも、皇紀さんは、俺に甘い。
最近、本当に甘いな、と俺はにやけてしまう顔を必死に抑えていた。
落ち込んでいれば貶しつつも拒まないし、慰めてと縋れば溜息を吐いても剥がされない。
俺より大人だな、と何度も思うけれど、皇紀さんは俺が甘えることで安心しているようにも最近思えた。
子供のふりをして甘えれば、どこか安堵して諦めたようにして受け入れる。
俺は働き始めて、いろいろ経験もつんで、実際もともと、そんなに弱くもないからどんなことがあっても平気なんだけど、暗くなって背中を丸めれば、皇紀さんが放っておかないことを知った。
それを俺が――利用しない手はない。
何しろ俺に甘い皇紀さんは、何より綺麗で何より可愛いんだ。
そんな皇紀さんを見たくて、構って欲しくて、俺は傷付いているように見せる。
いや、本当に落ち込んでいることもあるんだけど、それでも皇紀さんが甘えさせてくれるだけですぐに復活してしまう。
慰めてくれる皇紀さんは何より優しくて、俺は我慢出来なくなるんだ。
慰めてもらうために傷付く。
自分で自分を慰めている気もしないでもないけど、皇紀さんにされるなら俺はなんだって良かった。
そこへ来て、今回、本当に嬉しかった。
今までの人生で、いやこの先のことを想像したって、これほど嬉しいことはないかもしれないって思うほどだ。
実のところ、今の状況で満足してしまいそうだった俺に、突きつけられた住宅情報誌。
何冊もあるそれに、いくつもの付箋。
その数は、皇紀さんの気持ちの数だ。
俺を想ってくれる、皇紀さんの気持ちの表れだ。
涙まで出てきそうだったけど、やっぱり若い俺は、すぐに股間に感情が直結してしまう。
「ん・・・っん、きょ、じ・・・っ」
「・・・皇紀さん、」
慰めて、と縋りつつ、俺は皇紀さんの身体を貪る。
触って舐めて入れて、何度してもし足りないってのは本当だ。
「あ・・・あ、恭司・・・っ」
「ん・・・皇紀、さん?」
「ま、待って・・・」
「え?」
片足を抱えて、いざ挿れよう、とした俺の手を止める皇紀さんは、縋るように身体を起こしたあとで俺をベッドに倒した。
「え・・・っえ?」
「・・・じっと、してろ、」
「う、あ・・・っ」
「あ・・・あー・・・っん」
俺の上に跨った皇紀さんは、俺が驚いている間に躊躇いなく自分で埋めるように腰を落としてきた。
マジっすか。
これ、夢?
俺の都合の良い、夢だったり、しねぇよな?
「あっあん、ん、きょ、う、じっ」
「・・・・・・」
俺の腹の上に手を付いて、細い腰を上下させる皇紀さんは本当に――
だめだ、俺、嬉しすぎて鼻血噴きそうなんだけど・・・!
皇紀さん、解かってんの?!
「慰めて」くれているのだ。
落ち込んだ俺を、優しく包み込んで、身体の奥で撫でてあやす。
いい? と上から視線で訊いて来る皇紀さんの揺れる身体に、俺は全身が真っ赤になった気がした。
「あっああっ、あ、つい、恭司・・・っ」
「・・・っクソ、ほんっとに、皇紀さんって・・・!」
どれだけ、隠しているんだろう。
まだ、どんな顔を隠しているんだろう。
俺は揺れる腰に、降参だ、と白旗を揚げた。
慰めて欲しいと強請ったのは俺だけど、こんなものを見せられては本当俺が堪らない。
ますます皇紀さんにはまっていく。
皇紀さんは俺をうざいとか言うけど、そうしてるのは皇紀さん自身なんだって気付いてんのかな。
いや、きっと、無自覚なんだろうけど。
俺は下から負けないように突き上げて、俺の上で揺れる皇紀さんにそのまま気付かないで欲しいと思った。
一生情けない男をしたっていい。
ずっと縋っているだけでもいい。
皇紀さんのそばにいられるのなら、俺は男のプライドなど簡単に放棄してしまえる自信があった。


fin.



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