誕生日  ―恭司―




怒られた。

もしかしたら、怒られるかな、とは思ったけど。
でも誕生日って、祝ってもらえたらすげぇ嬉しいもんだと思う・・・のは、俺だけ?
相変わらず皇紀さんは綺麗だ。
まさか、これで35って詐欺だと思う。
皇紀さんと付き合い始めて、三年が経った。
つぅか、俺が人と付き合った最長期間を今も更新中だ。
これ、死ぬまで続けばいいな、と思う。
マジで。
この三年で、変わったことといえば、やっぱり俺が就職したことだと思う。
絶対、出来ないと思っていた社会人だけど、人間やろうと思えばなんでもできるみたいだ。
今のところ、あんまりトラブルもなく俺は会社勤め、している。
でも会社は出版社。
普通の会社より時間も緩いけど、拘束時間がちょっと長い。
これを選んだ理由は、もちろん皇紀さんの仕事が第一にあったから。
て、コレ言うと絶対皇紀さん怒りそうだから未だに言えないでいる。
皇紀さんは相変わらずグラフィックデザイナーで、毎晩遅くまで残業もしくは泊り込み。
出来るだけ朝の時間も一緒に居たいし、帰っても皇紀さんの帰宅時間に合わせたい。誰も居ない部屋に帰っても虚しいしな。
仕事は始めは使いッ走りみたいなものだったけど、仕事を覚えると段々いろいろ解かってくる。最近はもう、結構一人で出来るようになったと思う。
一日体力も精神力も使っても、俺は元気に家に帰る。
マンションも変わらなくて、同じところに並んで住んでいる。でも俺の部屋はすでに物置状態だ。これは去年漸く皇紀さんに部屋の鍵を貰えたときから、そうなった。
俺が帰るのは皇紀さんの部屋。朝も皇紀さんの部屋からだ。
ものを置くことが嫌いな皇紀さんだから、俺のものがこの部屋に沢山あるわけじゃなくて、歯ブラシやシェーバーと、少ない服。それくらいのものだった。それでも俺は満足してる。
だって、結構皇紀さんは俺に甘いって最近気付いた。
甘えて甘えて甘え倒したら、皇紀さんはどうやら、突き放しきれないみたいだ。これはもしかして、俺に押し風が吹いてきたのかな。
でも、ここで急くのは良くない、と俺はこの三年で学んだ忍耐を使った。
ホント言うと、も少し広い部屋に一緒に住みたいけど・・・・・部屋の鍵貰うだけで二年かかってるんだぜ?
あと・・・・五年くらいは、この状態で我慢かも・・・・
俺は暗くなりかけた思考を振り切ろうと、俺が用意したデリバリの食事を食べている皇紀さんを見た。
相変わらず、食べてるところも綺麗だ。
いや・・・なんか、艶かしいっていうか。綺麗な箸使いで小さく開いた口に消える食事。
ほんとに、それって俺と同じもん食ってる?
皇紀さんは口の中のものを飲み込んでから、箸を置いた。
「・・・・・恭司」
「え、なに」
俺はちょっとうろたえてしまった。ジロジロ見すぎだったかな。
皇紀さんは大きく息を吐いて、
「ケーキ、二人じゃこんな大きなもの食べきれないだろう」
「ああ・・・うん、だけど、気持ちだから」
気持ちが急いて、喜んで欲しくて、ついついこの18センチホールを買ってしまったのだ。
皇紀さんはグラスに注いだワインを飲み干して、
「・・・で、お前は何を買ったんだ」
プレゼントの・・・・こと?
ど、どうしたんだろう。珍しいよな、皇紀さんから催促されるなんて。
俺は少し戸惑ったけど、素直に後ろに置いていた小箱を出した。
「これ・・・です」
皇紀さんは素直に受け取ってその場で開けた。
買ったのは、黒に近いほどの焦げ茶の革ベルトの腕時計だ。少しゴツめだけど、文字盤はシンプルだしメーカーも少し名が売れているところのもので、見た瞬間に気に入ってしまったのだ。
皇紀さんはじっとその時計を見つめて、黙ってしまった。
「・・・こ、皇紀さん? 気にいらない?」
こういうの、結構好きだと思ったんだけどなー。
俺が小さな机越しにその俯いた顔を覗き込もうとすると、皇紀さんはいきなり深く大きく息を吐いた。
巨大な、溜息だ。
・・・それって、マジショックなんですけど。
やっぱ、気にいんないですか。
「・・・莫迦」
俺はその小さな声にちょっと浮上した。
三年も付き合っていたら解かる。皇紀さんが本気で怒っているのと、照れているのと。
これは、ちょっと照れてる・・・?!
うわ、どーしよ・・・嬉しいかも。
俺も大概、単純だ・・・・
皇紀さんは少し頬を染めて、・・・ちょっと、そんな顔、自覚あんの?
「ほんと、お前は莫迦だな・・・」
睨み付けられた。
皇紀さん、そんな顔で言われても、俺、すっげぇ、やばい。
なにその顔。
マジ、犯罪じゃねぇの?
本気で、今日で35になったのかよ。
そんでもって俺、まだ24だって、解かってる?
今日も止めらんないかも・・・
皇紀さんのせいだから。
ちゃんと、責任取れよな。

俺をこんなに惚れさせた責任、一生かかって取れよ、あんた。


fin



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