恋愛情緒 6
深く口付けられたまま、僕はベッドに倒された。 絡んでくる菊池の舌を離したくなくて、追いかけようと必死でそれに夢中になってしまった。 気付けば制服もシャツも前が開かれていて、一緒に肩を外される。でもベッドに倒れているから腕が抜けない。その途中まで脱がされて菊池が一度キスを止めた。 僕の上に跨った格好のまま、身体を起こして自分のシャツを脱ぎ捨てる。僕は下からそれを見上げて、初めて見た菊池の身体に心臓がドキドキしている。 ど、どうしよう。なんか全然僕とは違うんですけど・・・ 何を食べたらそんなに筋肉がつくの? 僕は思わず手を伸ばす。だけど服が邪魔して、また腕が上がらない。 「なに?」 菊池が上だけを脱いでまた覆いかぶさって、伸ばそうとした僕の手を取る。 「これ・・・」 「え?」 脱ぎたい。 「う、ごけないから・・・や、です」 「ああ・・・悪い」 菊池は苦笑しながら僕の背中を少し浮かせて腕を引き抜いてくれた。自由になった手で、菊池の身体に触る。 肩とか、腕も胸も、なんでこんなに固いんだろう・・・ 「・・・・薫? な、なに?」 下からまじまじと見て触って確かめている僕に、菊池は戸惑ったように身体を硬直させてる。 「何をしたら、こんなになるんですか? いいなぁ・・・」 「い、いいなって・・・体質の違いじゃないのか? つうか、お前は俺みたいにならなくていいけど」 「どうして? だって、僕は痩せたはいいけど、筋肉が全然つかなくて・・・」 ダイエットを始めたときに、ただ痩せるだけじゃなくて筋肉もつけようと試みたのに。全然つかなかった。 「いや、充分気持ち良いから・・・このままでも」 「気持ち良い?」 誰が? 僕が? 菊池が? 首を傾げていると、菊池は困った顔をして、 「俺が・・・で、続きしてもいいか?」 ペタペタと触っていた僕に笑いかけた。 「あ・・・はい」 僕はそのまま手を伸ばした。 ぎゅってしてくれるんだと思って、その首に手を回そうとしたんだけど、菊池は驚いた顔をして、それから苦笑するように息を吐いた。 「お前な・・・」 「え?」 違うのかなと思ったけど、菊池はそのままやっぱり抱きしめてくれた。 「・・・可愛すぎる・・・」 僕の首筋に顔を埋めたまま呟いた。 すぎる? 可愛すぎる? それって僕が? 疑問に思ったけど、訊き返す前に菊池がそこを軽く噛んで嘗めた。舌のざらりとした感触に、全身を嘗められたような感じがした。 「・・・っ」 思わず肩を竦めてしまった。首筋から鎖骨の辺りを軽く何度も吸い上げられて、舌が這って。 「っ、ん・・・っ」 背中がゾクリと震えた。いや、身体中がゾクゾクしてる。 鳥肌が立つみたいな気分だ。立ってるのかな。 何度も息が詰まって、ちょっと苦しくなってきた。 菊池の唇がそこから離れて、顎から唇に戻る。それから何故か涙が浮かんできた僕の目を覗き込んで笑った。 「・・・すげぇ、感度いいんだけど? なんで?」 感度? いいって、なんで? そんなの、僕が知りたい。感度って感じてるってこと? これが? よくわかんなくなるこの感じが? 上がった吐息を吸い込まれるようにキスをされて、 「そのまま、感じてろよ」 「・・・ん」 菊池の顔がまた下にさがって、平たい胸に吸い付く。大きな手が全体を何度も這って、おへその辺りからわき腹も表面だけ触れるような軽い触りかたで、唇はいつのまにか僕の乳首をパクリと銜えた。 「っ、ん、っ」 なんだろう。 なんでこんなに息が苦しいのかな。 さっきから、腰のへんが、お腹のへんが、変な感じがするんですけど。 僕は思わず菊池の肩を押すように触って、震えそうになる身体に力を入れようとした。 菊池が、僕の胸の上で笑う。 その息が、また肌に触れて腰の後ろがなんだか気持ちが悪い・・・ 菊池の唇が離れたから、僕は視線を下ろすと僕の身体から唾液が伸びて、菊池の唇と繋がってる。それを嘗め取られて、僕は頭が真っ白になった。 「・・・っ」 思わず手が伸びて僕は自分の胸を隠した。 う・・・手に当たった乳首が固い。でも濡れてる。 なんか、やだ・・・なんで? 変だ。 僕は多分赤い顔で泣きそうな目を閉じた。 「隠すなよ・・・嫌なのか?」 菊池の声はなんだか楽しそうに聞こえる。 「ほら・・・」 「あっ」 胸を押さえていた手を取られて、もう片方の手もベッドに、僕の顔の両隣に押さえつけられる。 拘束されたことにびっくりして目を開けると、声以上に楽しそうな菊池が僕を見下ろして、 「嫌だった? 気持ち悪い・・・?」 「・・・・」 僕はなんて答えたらいいのか分からない。だって適切な言葉なんて思いつかない。 ただ、身体が変だ。 困ったまま、 「な、なんか、変だったから・・・っ」 「変?」 「か、身体が、ザワザワして、なんかお腹とか、むずむずするし、僕、どうしたのか、わかんない・・・」 泣き声になってしまった。 なのに、菊池はやっぱり笑って、 「どうしたんだ? いきなり気持ち良くなって」 「き・・・?」 気持ち良い? 僕が? って、これが? そうなの?! 「・・・そんなにびっくりした顔するなよ・・・やっぱ気持ちの問題かな・・・素直に感じてろよ? もっと良くしてやるから」 「・・・・・」 僕は何も言えず、ただ頷いた。 だって僕には分からないから、任せるしかない。とりあえず痛くなんかないから大人しく思うままに身体を任せよう。 でも、手は嫌だ。 「き、くち先輩・・・て、手、これ、」 「手? ああ、掴まれるの嫌?」 頷いた。自由にならないのは嫌だ。 菊池はにっこりと笑って、 「いいけど、隠すのはなしな?」 「・・・はい」 これから、僕はどうなるんだろう・・・ また重なった菊池の体温を感じて、ドキドキしたけどでも僕は安心した。 菊池が楽しそうなら、僕に笑ってくれるなら、何をされてもいいと思ったんだ。 このときは。 「甘・・っ!」 ベッドに横になって、うつ伏せにしていた顔を僕はのろりと動かした。 手が震えて力が入らないけれど、ぼんやりとした視界でびっくりした声を出した菊池を見ようとする。 身体中が痺れて、だるくて、上手く動けない。 気持ち良くしてくれると言った菊池は、嘘は言ってないのかもしれない。 あれからなんだかいろんなところを噛まれたり嘗められたり吸われたりして、菊池の手が、唇が触れるところからなんだか自分の身体じゃないような気がするくらいぼうっとなって、でもまさかそんなところまで嘗められるとは思ってなかった。 菊池が僕の足を、腰を抱えるようにして僕の間に顔を埋めて、手でそれを擦られたり嘗められたり、口の中に入れられたり。 僕はそれだけでどうにかなりそうなくらいだったのに、菊池がエスカレートしていくとますます解らなくなって。 僕は・・・初めて、射精をした。 気持ち良いのかどうなのか、よく解らない。 ただ、身体の中の湧き上がる熱をどうにかしたくて仕方なかった。それが開放されたとき、それが射精だ、と思った。 思ってたよりも、すごく疲れた。こんなに身体に力がなくなるとは予想もしてない。 胸を大きく上下させて肩で息をする僕の耳に入った菊池の声。 それが気になって、顔を上げたのだ。 菊池は口を手で押さえて、眉を寄せていた。もう片方のてに小瓶を持っている。あの、小瓶だ。 蓋が開いて、菊池はそれを睨むように見ている。 どうしたのかな・・・ 「せん・・・ぱい?」 擦れた声だけど、どうにか出た声で訊いた。菊池は訝しんだ目で、 「お前、これ・・・誰から貰ったって?」 「・・・瀬厨、くん・・・です」 「瀬厨・・・? って、あの一年の瀬厨?」 僕は他の瀬厨を知らなかったから、とりあえず頷いた。菊池は瀬厨を知っているのだろうか。 「その瀬厨が、くれたのか・・・?」 「・・・瀬厨くんは、原田くんに用意してもらった、って・・・」 僕は首を傾げる。 そんなに変なものが入ってたのかな? でも、瀬厨は嘗めれるものだって言ってたから、食べれるものじゃないのかな・・・? 「原田・・・?」 「同級生の、原田昌弘くん・・・」 「ああ、あの原田・・・て、あいつはこれ、使わないだろ・・・」 菊池は原田も知っているのだろうか? 小瓶を不思議そうに見る菊池に、僕も首を傾げたままだ。 「・・・なんで?」 「蜂蜜だぞ、これ」 「・・・・え?」 確かに、蜂蜜の匂いがしたけど・・・そのものだったの? それで、痛くなくなるの・・・? 菊池は指にそれを垂らして僕の口に近づける。 「ほら、嘗めてみろよ。甘いぞ、蜂蜜だから」 「・・・ん」 僕はその蜂蜜の付いた菊池の指を嘗めた。 甘い。 おいしい。 僕は思わず菊池の指を銜えるように舌を絡めた。菊池の指が、すごく甘い。 「ん・・・ふ、ん・・・っ」 唾液と蜂蜜が絡まって、口の中で音を立てる。 嘗め取っても、指が甘い。 「・・・・薫・・・!」 菊池の声が震えてる気がして、僕は指を離して菊池に視線を向ける。 どうしたんだろう。 そこで前かがみに蹲って、やっぱり少し震えてる気がする。 「やべ・・・原田の気持ちが解った・・・! 俺もこれ、使うかも・・・!」 「・・・・? なに・・・?」 どういう意味? 僕は唇が濡れてるのが気になって、自分の手の甲で拭う。唇に付いた蜂蜜が手に移る。なんだか勿体無くて、それも嘗めた。 そのとき、菊池の手がすごく早く動いて僕のその手を取った。取っただけじゃなくて、僕を仰向けにしてベッドに押し付ける。 「・・・先輩・・・?」 「・・・悪い、薫・・・」 呟いた菊池は瓶を僕の中心に零した。 「・・・っ」 火照った僕の身体には、それがすごく冷たい。びくりと身体を揺らしたけど、菊池はその蜂蜜を手に擦り付けるように僕の身体と一緒に撫でて。 「あ・・・っ」 また、変な声が上がる。 さっき嘗められていたときもずっと声が出て、それが自分の声とは思えなかったのに、菊池は可愛いからもっと出せと言って、僕はただ出てしまう声を抑えれなかった。 菊池が僕の足を広げて、指がもっと奥まで伸びる。蜂蜜の付いた指はどんどん深く探って、 「あ・・・や、せん、ぱい・・・っ!」 膝を立てて開かれた足は閉じることを許してもらえず、そこを使うって解ってても僕はどうにも落ち着かなくて、顔が赤くなって恥ずかしくて、腕で顔を覆った。 でも、触られてるのは僕の身体だ。 自分の身体なのに、自分の思うようにならなくて菊池に翻弄されてしまっているけど、やっぱり自分の身体だ。 指が、他人には触られたことのないところまで伸びる。 普通でも、自分でもそんなに撫でるように触るところじゃない。でも菊池の指がそこを確認するように、何度も撫でているのははっきりと解る。どうするんだろう、と思った瞬間、その指が埋められた。中に、入ってきた。 「あ・・・あぁ・・っ」 なんで・・・・・なんで、指が。中に。 指に付いた蜂蜜のせいで、痛くなんかない。 確かに、痛くなんかないけど、それでも入れるところじゃない。 僕はどうにか押し出そうとしてしまう。 涙が溢れて、身体が震える。 「薫・・・薫?」 菊池の心配そうな声が聴こえる。 菊池のもう片方の手が顔を隠していた僕の腕を取って、濡れた頬を擦る。 「泣くな・・・力、抜いて、」 「・・・・っ」 出来ない。僕は首を振る。 「薫・・・俺を見ろよ」 身体に力が入っても、菊池の埋められた指は動かない。 僕は潤んだ視界に菊池を入れて、何故か少しほっとした。 「力抜け・・・大丈夫、ゆっくり、するから・・・ほら」 瞼にキスをされて、涙を嘗め取られて、優しいキスが振ってくる。 「・・・っは・・・ぁ」 震えながらも、僕は力を抜こうとしてみた。菊池の指が動かないからか、おなかの辺りがなんだか変だけどさっきよりはましになったと思う。なのに、菊池の指が動いて、一瞬で深く、多分付け根まで埋められた。 「やあぁっ」 びく、と揺れた身体の、僕の、中心を菊池は握りこむ。 「や・・・あ、あぁっ」 いきなり擦り上げられて、僕は頭の中が真っ白になる。後ろで、中で指も動いているような気がするけど、もう何が、何をされているのかよく解らない。 「ひゃ、あ、ぁっや、あぁ・・・っ」 もう、何も考えられない。 動かされる菊池の手に、ただダイレクトに反応して理性がなくなっていく。 「ああぁっ・・・!」 中を探る圧迫感が増した、と感じたら、 「・・・二本、入ってるの、分かる・・・?」 耳元で菊池の声がした。 「あ、あ・・・っや、ぁん・・・っ」 よく、分からない。 これから僕、どうなるんだろう?身体の奥が熱い。中心が疼く。 僕はいったいどうしたんだろう。 怖い。 自分が分からなくて、怖い。 僕は菊池に思わず手を伸ばした。両手は塞がってるはずなのに、菊池は身体を僕に寄せて、その背中に僕は腕を回した。 手に、菊池を感じる。それでも安心できない。どうにかなりそうだ。 「せん・・・せ、ぱ・・・っど、・・ん、か・・・っ」 「・・・薫?」 「ど・・・に、か・・・っなる、や、ああぁっ」 菊池の指が僕の中を擦るように、執拗に動く。それがはっきり分かって、 「せんぱ・・・った、すけて・・・っや、だ・・・っも、だめ・・・っ」 なんて言ったらいいの?どう言ったらいいんだろう。どうにかしてほしい。 身体の奥にある、湧き上がる熱をどうにかしてほしい。指が、そこに届いて欲しい。 そしたら、楽になるのかな。 「・・・っ」 菊池の、舌打ちを聴いた気がした。 確かめようと思っても、僕はそれどころじゃない。 「あ、あぁっ?!」 いきなり指が引き抜かれた。それまであった圧迫感がなくなって、すごく嫌だったはずなのに、抜かれると物足りなくて、思わず追ってしまいそうになる。 けれど、すぐに違う熱がそこに当てられた。 「せ、ん・・・」 なに、と菊池を見上げた瞬間、押し込まれた異物感に目の前が真っ暗になった。 「・・・・っああぁ・・・っ」 指がどうとか、蜂蜜で濡れてるのがどうとか、そんなもの一切頭にない。 ただ、苦しい。 痛いのかな、どうなのかな。 苦しい。呼吸が、うまく出来てない気がする。 「・・・かおる・・・!」 何をされているのか、実はよく頭が回ってなくて分からなかったけど、菊池の苦しそうな声が聴こえて、僕はどこかでほっとした。 菊池だ。 大丈夫。 よく分からないけど、辛いのはひとりじゃないし、菊池が目の前にいる。 「・・・・せん、ぱい・・・」 擦り寄るように抱きついてから、僕はもう覚えていない。 すごく、泣いた気はするのだけど。 たぶん・・・どうにか、なったのだろう。 朝になっても、僕は目が覚めなかった。 |
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