夢の忘れ物  1





その日が騒がしいことは知っていた。
だから、その日にした。
聞いた話では夜中まで寮中大騒ぎらしい。
一人くらい紛れ込んでも判りはしない。


獅谷 楓は決意した。
土曜の学際の打ち上げで、教職員も含めての騒ぎらしいのだ。
総勢百人ほどの中に、自分ひとり増えても見つかりはしない。
盛り上がりも最頂を迎えるころ、十一時を回ったというのに寮内は大音量のうえ、明かりが衰えることはない。


遠慮がちにそのドアを押すと、鍵も掛かっていないことに一瞬驚いて、しかしすぐにその中に入る。広くもないロビーに入ってすぐ右に曲がると、すでに机をサイドに除けて床に座り込んで騒ぎ放題の食堂に入る。ここに自分が居ても誰も気づかないことは確信していた。
それでもこっそりと食堂内を見渡す。そしてすぐに、見つけた。
その人はすぐに顔が赤く染まっていて、手にしているのがジュースではないことを語っている。
仲間内で何が面白いのか分からないほど笑って、それでもこっそりと近づいて後ろからその袖を引いた。気づいて振り返ったその人に、人差し指を口に当てて、ぎごちなく、笑って見せた。笑い返されたとき、そっと出よう、と言った。


楓は相手の男、芦江 修の手を引いて、芦江の部屋に入る。
「芦江さん」
「・・・・んー、きみは、にねんの・・・?」
芦江は回っていない頭を働かそうとするが、楓は首を振った。
何も考えないで欲しい。なにも、気にしないで欲しい。
「違います・・・でも、ずっと芦江さんが好きでした・・・」
「ふうん・・・・?」
芦江はにっこり笑って、楓を見る。
「それだけ、言いたかったんだ・・・芦江さん」
微笑んだ顔が、近づいてくる。
楓はそれを拒めるはずがない。座ったベッドにそのまま押し倒されても、唇がそのまま重なっても、芦江を受け入れることしか出来ない。
半分、賭けのようなものだったし、こうゆうことを望んでいなかったわけでもない。
後のことを思うと、泣きたくなるけれど、でも止められない。
「・・・このこと、誰にも言わないでね?」
すでに涙が頬を濡らしていた。 
「俺のこと、忘れてもいいから」
その腕に抱かれながら、見上げた。
相手の身体はとても熱くて、その熱を忘れないようにしっかり抱きついた。
「覚えてなくていいから・・・好きだよ、芦江さん」


to be continued...



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