音李 2 音李にとって、四度目の主人だった。 創られたばかりの音李は誰が見ても美しく、他のアンドロイドと同じく従順で大人しかった。 音李を初めて買った主人は南国の穏やかな老紳士で、穏やかに過ごすのだろうと思われていた。 けれど、それから半年が過ぎた頃、博士はどうやってか音李の実情を知った。 美しい肌は目を覆うほどに傷で覆われ、目は虚ろで表情は一切が無かった。 金色に輝く柔らかな髪も色を失うほど酷く荒れ、誰が見てもその身体に受けたことを知られた。 拷問のような日々。 一言で言ってしまえばそれだけだ。 博士は自分の創ったものの扱いに機嫌を損ね、どういう手段を使ったのか音李をすぐさまそこから引き上げさせたのだ。 城に帰ってきた音李は言葉も無く、従順と言うより無感動なものになっていて、博士はすぐに外見を戻した。 記憶も全てを新しくしようとして、それを止めたのは音李自身だった。 酷すぎる記憶も持ったまま、音李は次の主人に買われていくことになった。 そこは北国のとても上流階級な一族で、どこよりもプライドが高かった。 美しい音李はそこで、二代に亘って娼婦を務めた。 美しいものに飾られ、誰よりもその外見を褒め称えられ、音李はその気質をそのまま受け入れた。 三代目になって帰った理由は、音李から聞いてはいないけれどプライドの高くなった音李の何かに、気に入らないところがあったのだろう。博士は快く受け入れ、次の主人を探した。 音李の出した条件は、金銭に不自由のない場所であること。欲しいものが与えられること。 それさえ守ればどこへでも行く、と音李は口にした。 迎えに来た黒塗りの車に乗り、着いた先は隣に移っただけの国だった。 車から降りると地面は煉瓦造りの道で、そこから続く屋敷は音李は初めて見る形だった。 全体を見れば長方形の四角。 中央に玄関があり、それに面した側にはいくつもの窓が規則正しく並んでいた。 一度見ただけではその数は分からない。 高い塀に囲まれた庭はきっちりと手入れがしてあって広い。 門から続く玄関にゆくまで、音李はゆっくりと歩いてそれを確かめた。 控えているのはこの屋敷の執事だと言う。 はっきりとは分からないけれど若すぎることはなく、かといって年がいっているわけではない。 礼儀も正しくセックスドールを迎えるだけにしては行き届いている。 音李はそれに満足して何を言うでもなく案内されるままに新しく自分の部屋となったそこに足を踏み入れた。 「旦那さまは夜のお帰りです。それまで、こちらでお待ち下さい。御用がおありの際はこちらのベルを押しお呼び下さい」 ベッドサイドに付いたそのスイッチを確認して、音李はただ頷いただけだった。 天蓋の掛かった大きなベッドも、備え付けられた机やソファ、クロゼットに至るまで趣味が良かった。 目の肥えた音李にはそれが分かり、まだ見たことのない新しい主人にそれほど酷くはない、と期待をした。 本を読んで過ごしたい、と言った音李のために書庫を案内してもらい、音李はその主人が帰るまでそこで過ごすことにした。 窓の外が闇に覆われて、音李は執事に呼ばれた。 新しい主人が帰って来たのだ。 音李は鏡で自分を改めて、乱れがないのを確認すると執事の後を付いてその部屋へ入った。 視界に入ってきたのは一人の男だ。 部屋はシンプルだけれど恐ろしく金が掛かっているだろう、美しい調度品で固められているというのに、 音李の視線はその大きなソファに寝転ぶようにして寛いでいた男しか見えていなかった。 それが、新しい主人魏劉芳―ウェイリウファン―との対面だった。 スーツのジャケットを床に落とし、ベストは着たままだったけれど襟元はすでに肌蹴ていた。 長い足を肘掛において組み、セットされていたであろう黒髪はすでに手で解かれていた。 後ろに撫で付けていた髪が落ち、その間からの射抜くような視線に音李は動くことも声を出すことも出来ず、その場に立ち尽くしてしまった。 恐ろしくいい男だった。 けれど、紳士だとは言い難い。 テーブルの上の琥珀色のアルコールを手酌でグラスに注ぎそのまま呷る。 音李が入って来ようとも執事が控えていようとその態度を改めるつもりはないらしい。 空になったグラスをテーブルに戻し、漸く劉芳は口を開いた。 「お前がアンドロイド?」 その声は低く、しかし音李ははっとして自分を取り戻しいつものように澄まして、 「音李です」 一言答えた。 「ふん、確かにあの男が言うとおり、綺麗なカオだな」 「・・・・・・」 あの男というのが誰かは知らないけれど、音李は少し博士を怨んだ。 確かに金はありそうだけれど、上品とはかけ離れすぎている。 これからを思って音李は溜息を吐きたくなった。 こんな男の、相手をしなければならないのだ。 「ここへ」 呼ばれて、音李は劉芳の寛ぐソファに近づいた。 投げ出していたその足を引き音李が座れるスペースを作る。 大人しく座った音李に、 「しろよ」 劉芳は黒い煙草に火を付けながら言った。 「・・・・?」 音李が意味を図りかねて眉を寄せると、劉芳は呆れたように、 「そこで、自分でして見せろ、と言っているんだ」 「な・・・っ」 美しい顔にはっきりと羞恥と怒りを混ぜて、音李は目を見開いた。 劉芳はそんな顔にも全く興味がないように灰皿ようの黒い皿に灰を落とし、 「出来ないのか? セックスドールのくせに? 俺をその気にさせてみろよ、それが仕事だろう」 あっさりと吐き出した。 「・・・・っ」 音李は自慰行為を見せたことなどない。 抱かれるときは、あくまで主導権を自分で握りセックスドールらしく奉仕はしたけれどそれでも高いプライドを捨てたことはなかった。 それ以前にされたことといえば、セックスとは言い難いもので音李の中ではカウントされていない。 震える身体を必死に堪えながらも、音李は自分の身体にあったズボンを床に落とした。 気付くと、その部屋に一緒に入ったはずの執事がいない。 いついなくなったのかは知らないけれど、第三者がいないことで音李は少しだけ落ち着いた。 白く美しい足の間に手を伸ばし、音李は覚悟を決めて小さな自分を扱いた。 肘掛を背にして、身体を劉芳に向ける。 「・・・っ、ん・・・」 セックスドールなのだ。 自分でしようとも、すれば反応する。 「足を広げろよ、見えない」 「・・・・っ」 大きなソファは、音李が寝てしまっても充分なほどの広さがあった。 どこか屈辱を感じながらも音李は言われたままに膝を開く。 濡れ始めたそこが劉芳にも良く見えるはずだ。 「後ろは? しないのか」 まったく無感動な声を聞き、それでも視線が自分にあることに赤くなりながらも濡れた指をそろりと奥へと伸ばす。 「ん・・・っ、ん、ふ・・・っ」 ゆっくりとした動きに、音李は次第に夢中になった。 快楽を求める人形なのだ。 それを追い始めれば夢中になる。 「子供のような顔で、淫乱な身体ね。確かに、エロジジィ共が夢中になるのも解かる」 「ん・・・えっ」 「ほら、もの足りねぇだろ」 「ひ、あ・・・っああぁっ」 音李の指を押しのけるように、深く埋め込まれたのは劉芳の指だった。 ぐちゅ、と濡れた音が響く。 濡れるのだ。 そういう構造であるのは、セックスのためのアンドロイドだからである。 「あっあ、あぁっや、そ、こ・・・んんー・・・っ」 「厭? 誰に向かって言っているんだ? 俺はお前の主人だろうが、可愛がってほしいなら、大人しく喘いでろ」 「ん、ん! あ、・・・っ」 劉芳は慣れていた。 快楽に弱いセックスドールなど、片手で終わらせられる。 「あ、あぁっ、も、い、く、いっちゃ・・・あっ」 「イっていいと、許した覚えはない」 「・・・・っ!」 劉芳はあっさりと音李に埋めていた指を引き抜いた。 その喪失感に、音李は震えるほど物足りなさを感じた。 因李の向かいで劉芳は足を広げ、 「俺を、その気にさせろ、と言ったろう。しろ」 息を飲み、唇を噛みながらも音李は気だるい身体を起こして劉芳の間に身を屈める。 震える手で服を寛げ、そこから取り出した劉芳自身はまったくその状態ではなかった。 その気にさせろ、と言ったけれど、音李のこの状態を見てその気にならなかった男はいない。 だからこの実状を見て音李は悔しさと羞恥で顔を染めた。 プライドの高い音李は、後には引けない。 どうやっても、この男に良いと言わせてみせる、と音李は迷うことなくそれを咥えたのだ。 「ん・・・っん、」 口に入りきらないそれに手を絡め、舌を必死で使った。 漸く硬くなり始めたときに、くっと喉奥で笑ったような声が頭上で聴こえた。 「・・・そんなにコレが好きなのか? どうしようもない淫乱だな」 「・・・・っ」 音李はセックスドールとしてはプライドが高かった。 良い意味ではなく、堕ちることなど出来なかった。 顔を上げて劉芳を真っ直ぐに睨みつける。 「ぼ・・・っ僕を、なんだと・・・!」 返ってきたのは、凄みの効いた笑みだった。 これに呑まれれば、誰だって抜け出せない。 「・・・ただのセックスドールだろう、飽きれば捨てられる。それだけのものだ」 低い声のそれは、事実だった。 どうあっても、アンドロイドは人形だ。 人間と同じ価値になれるはずがない。 セックスドールなら、尚更飽きればそれ以上に必要とする意味は、なかった。 「・・・・っ」 息を飲み、蒼白となった音李を劉芳は覗き込み、 「いい顔だな、安心しろ、ゆっくり可愛がってやる」 音李がプライドを保てていたのは、そこまでだった。 目を覚ました音李は、清潔なベッドで汚れた風も無く眠っていたのに気付いた。 意識を失ったときは、劉芳の精液に塗れてかなり汚れていたはずだ。 ドロドロだったベッドもしていた痴情の残りなどまったく感じないほど綺麗だった。 身体を起こすと、全身がだるさを感じた。 セックスでこうなるなど、音李は初めての体験だ。 厭だと何度も言った。 セックスが怖いと思ったことなど初めてだった。 博士に仕込まれたセックスはフワフワと気持ちが良く、自ら主導権を握ってしていたセックスは自分に溺れる人間が面白いだけで快楽はあまりない。 昨夜のセックスは、そのどれでもない。 音李は自分が溶けるのではないかと感じた。 身体が失くなってしまう恐怖を感じた。 快楽が怖い、と思ったのは、初めてだった。 お蔭でどれほど泣いたのか解からない。 外見機能は人間と変わらない音李は赤くなっているだろう目に触れた。 そこで羞恥を伴う怒りを思い出し、唇を噛む。 耐えられなければ帰っても良い、と博士に言われてはいるけれど、途中で帰ることなどプライドが許さなかった。 確かに、お金に不自由がなく何でも与えられる、という条件は満たしているけれど、劉芳という男はどう見ても貴族ではない。 真っ当な仕事をしているとも思えない。 ここを選んだ博士の意図を測りかねて、音李が眉を顰めたときだった。 「お目覚めですか」 軽いノックをして入って来たのは乱れひとつない執事だ。 ベッドの上に座る因李を見て、 「お着替えをお持ちしました。旦那さまはテラスにてご昼食中です」 「・・・・・」 音李は淡々と言われる言葉に、何も返さず差し出された服に袖を通す。 寝着を脱いだとき、身体中に残る昨夜の名残を見つけて音李は控えていた執事に背を向け赤い顔を隠しながら着替えた。 執事は執事で、主人に仕えるなら同じように自分にも仕えるものと思っているけれど、どうしても羞恥が拭えない。 自分を失うほど乱れたせいだ、と音李は俯いたまま新しい服を着る。 「良くお似合いです」 褒め言葉であるけれど、執事の声のトーンは初めて会ったときから変わらない。 本当だろうか、と鏡を覗き込む。 音李がここへ来ていたのは博士に貰った大きなリボンが襟元にあるブラウスに、すらりとしたズボンだった。 けれど、これは全く違うものだ。 黒いズボンは足にぴったりと付き、その上に羽織るものは音李は初めて見るものだ。 真紅の地に赤金で施された大輪の花の刺繍。 柄は恐ろしく細やかでしかし重さを感じない。 前は襟元と肩口で合わせるようになっていて、腰から大きくスリットが入っている。 袖口もゆったりとしていて、金色の髪の音李にそれは確かに、似合っていた。 こんな服もあるんだ、と思いながら音李は何も言えず執事の後を付いて部屋を出て広い廊下を歩いた。 あまり調度品を置かないすっきりとしたこの屋敷は、新しい主人とどこか似ていて納得できた。 そのうちに大きなガラスの扉の向こうに、新聞を広げソファに足を組んで座る劉芳が見えた。 テーブルの上にはカップだけが置いてあって、昼食は終わったのだろうか、と思いながら音李はその扉を超えた。 「・・・主人より遅いとは、良く出来たアンドロイドだ」 その新聞から視線だけ上げた声に、音李は表情も無く、 「人間ほど頑丈に出来ておりませんので」 冷たく返した。 愛想を振りまかなければならないのは解かる。 アンドロイドは人間、主に従順でなければならないのだ。 けれど、どうしても音李は甘える気にもならなかった。 「あれくらいでか、これは安物買いをしたかな」 明らかな侮蔑に音李はきつく劉芳を睨み、 「・・・僕だったから、一晩付き合えたのです。普通の子なら、一人じゃ足りないところです」 劉芳はそれもあっさりと受けて、人の悪い笑みを浮かべた。 「そうか? 慣れている身体にしては、稚拙な手管しか使えないようだったが」 「・・・・っ」 音李は今度こそ、はっきりと顔を染めて俯かせた。 手管が使えない。 けれど、使えなくしたのは劉芳である。 どこまで快楽を知り尽くしているのか、される全てのことに音李はただ泣いて感じることしか出来ずに終わった。 「座れ」 音李は手をぎゅっと握って羞恥に耐えながらも、言われるままに劉芳の隣へ座る。 「飯は?」 「・・・食べろとおっしゃるなら、頂きます」 食べなくても、音李は平気だった。 快楽さえ与えられていれば、支障はまったくない人形なのだ。 劉芳は口端をあげて、 「へぇ、便利なものだな、さすが人形だ」 「・・・っ」 もはや何度目かなど解からない侮蔑に、音李はキッと視線を向ける。 見下した笑みに負けるものか、と思っていたのだが、そこにあったのは柔らかな笑みだった。 こんな顔も出来るのか、と音李は一瞬怒りを忘れてしまう。 「・・・なかなか似合うな、それも」 新しい服を身に付けた音李を確認するように劉芳は視線を巡らせて、そのとき執事が持ってきたトレイをテーブルに置かせた。 白い陶磁の器で、蓋がしてあった。 劉芳がそれを取ると作りたてなのか、湯気がフワリと流れる。 音李はそれも、初めて見る食事だった。 「粥を見たことないのか?」 その通りなので、音李は素直に頷く。 劉芳は小皿に乗った薬味を幾つか上にかけてやり、小さな取り皿に盛る。 レンゲを付けて音李に出し、 「熱いからな・・・温冷も感じるのか?」 「それくらい・・・通常なら、感じます」 音李は暖かな器を両手で受け取り、小さく劉芳を睨む。 貰ったレンゲで熱を冷ますようにかき混ぜていると、 「通常でなければ、感じないのか?」 劉芳の疑問に音李は的確に答えた。 「痛くない、と思い込めば痛みは感じません。ただ、そうなるには――」 しかしそこで一度区切る。 思い出したのは、初めてその機能を使ったときだ。 初めての主で、とても通常の感覚ではいられなかったときだった。 自分を失くすほど、心が壊れなければならない。 そうなれば、痛覚も快楽もない。 まさに、ただの人形となるのだ。 そこで黙った音李に、劉芳は金色に輝く髪に指を絡める。 「髪は? 伸びないのか?」 沈みかけた思考から、音李はそれで我に返る。 劉芳に眉を寄せながら、 「伸ばすのなら、博士にそう伝えていただかないと・・・今は、その機能は付いていません」 音李は耳の下辺りで髪を揃えている。 その長さが、気に入っていた。 そして当たり前に思う疑問に音李は訝しみ、 「・・・・アンドロイドを知らないのですか?」 答えは是だった。 劉芳はあっさりと頷き、 「娼館にいる女のセックスドールなら買ったことがある。飼うのは初めてだ。お前は子供だが、成長もしないのか?」 「・・・・したほうが良いのなら、それも博士に伝えてください」 音李は気持ちが沈むのを感じた。 どうして、こんな気分になるのか解からないけれど、劉芳のせいだとは理解できた。 「いや、今のところお前で満足出来る。もう冷めたろう、食え」 「・・・・・」 白い器に盛られた白いそれを、音李は恐る恐る口に入れる。 まだ温かかったそれは、気だるさを残した音李に丁度良かった。 「・・・美味しい」 素直に口から零れた。 それを見ていた劉芳は、 「美味いか不味いかも解かるのか、なら、昨日の俺の精液とどっちが美味い」 「・・・・っ」 音李は口に含んだそれを危うく吹き出しかけて、どうにか粗相をせずにすんだ。 飲み下してから、劉芳を睨みつける。 「な、なんて・・・っ貴方ほど品がない人は、今までで初めてです!」 思わず口にしたそれに、劉芳は少し面白そうに、 「うん? なら、俺は何人目の主人だ?」 「・・・・・」 音李は俯いて口を閉じた。 新しい主人には、前の主人のことはご法度である。 主人は一人だけだ、と思い相手に仕えなければならないのが第一だからだ。それに我慢が出来ず口からでてしまった。 黙りこんでは見たが、劉芳から無言で居ながらも圧力を感じて、 「・・・・四人目です」 正直に、答えた。 「それは多いのか? 少ないのか?」 多いのだ。 基本的に音李の博士の創るアンドロイドは性能が良い。 返品などは有り得ないし、とても慈しまれ大事にされる。 そこまで愛されれば、アンドロイドは次の主人など考えない。 黙りこんだ音李に、劉芳は答えを知った。 俯いた音李に腕を回し、反対側から柔らかな髪をかき上げる。 覗いた白い肌に、口を寄せる。 額からこめかみ、頬に落ちて耳へと吐息を掛ける。 「俺好みに仕上げてやる」 「・・・・っ」 その囁きは極上の男の声で、音李は昨夜を思い出し身体が震えた。 「こ、零れます、から・・・っ」 止めて下さい、と言ったつもりだった。 けれど劉芳はそのまま耳へと囁き、 「粗相をしたら・・・お仕置きだな」 「・・・っ」 長い指が音李の細い身体に触れて、乳首を正確に探り当てる。 クリ、と押し揉むようにされて音李は器を持つ両手が震えて、零さないようにするのに必死だった。 それだけで熱を持った目で劉芳を睨み付け、 「止めてください・・・っご主人さま・・・っ」 はっきりと請う。 劉芳は少し目を眇めて、 「その呼び方は好きじゃない。名前を呼べ」 「・・・劉芳、さま」 「さま、もいらない」 「・・・・・劉芳」 「よし、可愛がってやる」 劉芳は目を細めて、音李の手から器を取り上げた。 そのまま首筋に顔を埋めて、 「俺の喜ぶようにしろ・・・この身体で、覚えるんだ」 「・・・・んっ」 音李は覆いかぶさってくる身体に、しがみ付くように腕を回した。 邸内であるけれど、外でもある。 陰りひとつない日の下でもある。 昨夜、全てを暴かれるほどに抱かれた後である。 けれど、音李は拒めなかった。 セックスドールであるからではなく、音李は新しい気持ちがあることを知った。 新しい主人に抱かれて、嬉しく思ったのだ。 |
to be continued...