純情な番犬   <前編> 





貴弘が夏流先輩と付き合い始めたとき、やっぱりな、て気持ちが大きかった。
貴弘はとても、可愛い。
男子校にいるから、そう思うんじゃなくて、どこにいても、華やかになる存在だと思う。
誰にでも、好かれる。
可愛らしい(本人に言うと怒るけど)顔も、正直な性格も、正義感の強いところも。
男にでも女にでも、好かれるんだろうなって、思ってた。
それが、自分じゃないことも。
初めて会ったのは高校の入学式で、他に、気の合う仲間と一緒につるむようになった。
誰もが、貴弘を護りたいって、思ってたはずだ。
俺だけじゃない。
それを横から鳶に油揚げ・・・状態で、夏流先輩に持っていかれて。
仕方ないよな。
あの、夏流先輩だ。
この学校で、というより、あの人に敵う人間を見たことない。
厚顔不遜で、唯我独尊で、その人を賺したような笑みで、いつも誰よりも優位に立ってた。
誰にも負けることなんかないし、刃向かうヤツも、見たことない。
それに堕ちてしまった貴弘は、やっぱり、て気持ちもあったけど。
でも、他になんにも思わないのは、夏流先輩のあの笑顔だ。
貴弘にしか向けない、優しい顔。
そんなの、初めてだった。だから、何も言えない。
純情に、男同士ってことを気にする貴弘に、正面から「おめでとう」なんて言ったら、怒られるだろうから、言わないけれど。
でも、良かった、って、ホント、思ってるよ。
もし、貴弘が俺を選ぶなら、俺は何をおいても、貴弘を護り抜くって決めてたくらい、好きだったから。
あるはずないから、思ってるだけだけど。
今でも、大事な友達だ。
それで、充分。
そんな日常を過ごしていたのに。
俺には理解できない。
なんで、この状況なんだろう?
「松島、腰、ちょい上げて」
そんなこと、聞けるワケがない。
何度も奥を突かれて、俺の身体に自分で力が入れれない。
ベッドが軋んで、その音すら、もうよく解らなくなりそうなのに。
俺はかすかに首を振って、痛い、と言った。
ベッドにしがみ付いてる俺の後ろから、笑うような声が聞こえた。
「そんな、はずない。あんなに、慣らしてやったんだぜ」
ああ解ってるよ、覚えてるよ。
どんなに嫌がっても、止めてくれなかったもんな。
俺の腰を勝手に掴んで、引き上げた。
もっと深く、入ってくる。
一体お前、いつ終わるわけ?
もうそろそろ、終わってもいいんじゃねぇの?
そのまま身体を重ねられて、首筋に息を感じる。
シーツと身体の間に入ってきた手が、尖った俺の胸に触れて、
「・・・っ」
シーツに押し付けて、声を殺したけれど、解ったはずだ。
「・・・すげぇ、絞められた・・・」
揶揄うような、嬉しそうな声。
解ってるなら、するな。
前戯だけで何度もいかされて、後ろを攻められてからも独りでいかされて、なのに、入れたまま、こいつは一度もいってない。
頼むから、もう、終わってくれ。
他のメンバが都合悪くて、二人きりで飲み始めた。
もともと無口だったけど、キライじゃなかった。
聞けば、ちゃんと返事はするし、くだらない話にも乗る。
そして、貴弘が大事なのが、共通点だ。
俺も、酔いが回り始めて、何を言ったのか、顔の表情が変わった。
いつも、こいつは無表情で、何を考えてるのかわからなかった。
だけど、笑った。
なんだ、笑えるんだ、と気を良くして、どんどん飲ませた。
そしたら、いつのまにか、ベッドの上で。
慣れたような手つきに、酔っ払った俺はすぐに組み敷かれてしまって。
でも、頭は覚醒した。
思いも寄らない言葉が、次々にコイツの口から出てくる。
無口な男はどこに行った? 何の感情もない無表情さはどこに行った?
笑って、俺を攻めた。
有り得ないだろ・・・俺が、抱かれるなんて。
「すげぇ・・・色っぽい。背中だけで、いけそう・・・」
なら、いってくれ!!
終わって早く、解放してくれ!
俺のその思いが解ったのか、リズムが、違ってきた。
一定の動きで、身体が揺れる。
「あっあっあっ・・・」
それに合わせて、俺は声が出てしまう。
もう、口を閉じて抵抗するところは、通り過ぎた。
後ろで、気持ち良いところがあるのは知ってるけど、そこを何度も擦られて、俺は先にいってしまった。
何度目かなんかも解らなくて、シーツが汚れる。
絶対、このシーツ、もう使えない。
その後で、俺の中に何かが溢れた。
何かなんて、考えなくても解るけど、考えたくない・・・
震えるように息をして、落ち着かせようとしてた背中に、声がかかる。
「・・・すげ、溢れそう・・・」
「・・・・っ!!」
入れたままで、何度か擦り上げられて、俺は泣きそうだ。
まだ、終わらねぇの?
俺、もう、無理。
力なく、振り返って睨みつけた。
はずなのに、笑って受けとめらられて、
「・・・誘ってんのか?」
んなわけねぇだろ!
「その顔、キョーレツ・・・」
「ま、待て! も、いやだ!」
はっきりと、言った。
態度だけじゃ、判んないのか?!
少し考えた風に首を傾げて、それからニヤリ、と笑って俺を見た。
「・・・じゃ、最後・・・正面から、抱かせろ」
「・・・・・」
なんだと?
それって、お前の顔見て、やられろってこと?
俺の、されてる顔、見られるって、こと?
「・・・っや、まっ・・・!」
俺が言う前に、一度引き抜かれて、身体を回転させられた。
視界に、男の身体が入る。
制服の上からじゃわからなかった、引き締まった身体。
視線が合って、ニヤリ、と笑われた。
腰を掴まれて、一気に引き寄せられた。
「・・・っア・・・!」
ずっと入って慣らされてたのか、思ったより抵抗が無かった。
・・・ソレに俺、喜んでいいのか?
思わず仰け反った首に噛み付かれて、そのまま、唇が下がって、胸を嘗められて、尖ったとこも、口に含まれて・・・
・・・・そんなに、美味しそうにするもんじゃ、ないと思う・・・
思ってても、声が震える。
俺、こんな身体だったか?
男に、簡単に抱かれる身体だった?
それとも、こいつが、したのか・・・?
だとしたら、ぜってぇ、許さねぇからな。
身体を開いて、足を抱えられて、有り得ねぇ・・・この格好。
それで、受け入れてる、自分がまず、有り得ねぇ・・・
圧し掛かってきた身体に、思わずしがみ付く。
掴むものが、コイツの身体しか、無いんだから仕方ないだろ。
顔を見たくなくて、肩口に顔を寄せた。
さっきはあんなに焦らされたのに、今度は俺と一緒にいくつもりらしい。
追い上げられて、俺はもう何も考えれない。
ただ、いきたい。
そう思うだけだ。
潤んだ視界に入った肩に、傷が見えた。
古い傷に見えた。
なんで、こんなとこ、怪我してんの、と思う前に、俺は真っ白になった。


to be continued...



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