それが日常だと知れる日々 11




「え〜春くんの子供じゃなかったのぉ〜」
「どうして引き止めておかないのよ!」
「責任持って自分で面倒見る、くらいのこと言えなかったの?」
「・・・・・・・・・・」
連休が明けて、春則の部屋を訪れたのは姦しい、と思う三姉妹だった。
冬姫から連絡を受けたのだろう、さっそく揃って春則の部屋に着たけれど、もう春則の部屋に子供は居ない。
状況を説明すると、
「ありえる」
「情けない」
「甲斐性が足りない」
口々に罵られる。
これを前にすると、どれだけ繕が気遣ってくれたのかが解かる、と春則は深く息を吐き出した。
けれど、目の前に自分のソファが視界に入り慌てて視線を逸らす。
ジーンズの次女、夏海が床に胡坐をかいて座り、長女の秋子と三女の冬姫がゆったりとソファに腰を下ろしている。
テーブルを挟み反対に春則も床に座りながら、正面のそれが見えない、と顔を伏せた。
大人が二人も座れば充分のそれで、つい昨日春則は繕と身体を重ねた。
今まで遊びという遊びはしてきたつもりで、さらに自分自身もかなりエロいと自覚もありながらそこでしたばかりのセックスはどうしても羞恥が拭えないもの
だった。
あんのエロリーマンッ、と春則は思わず赤くなる顔をどうにかしたい、と思い
つつ涼しげな顔でこの部屋から仕事に出て行った男を罵る。
俯いていた春則はそこに視線を感じて、
「・・・なんだよ」
見返すと三姉妹がじっと自分の顔を見つめていた。
「あーぁ、もっと落ち込んでいるかと思ったのに〜」
「仕方ないわね、村瀬さんが側にいたんじゃ」
「お役御免になるのも淋しいわね」
「は?! なに言ってんだよ?」
どういう意味だ、と春則が詰め寄っても、
「顔に全部出てる」
と言われて、春則はそんなに解りやすい顔をしているのだろうか、と思わず自分の頬に触れた。
しかしどうやらこの姉たちは自分を励ますために集まったのだと知り、苦笑してしまう。
甘いな、と春則さえもそう思うのだ。
「せっかく集まったんだし、ご飯でも食べに行きましょうか」
「賛成〜」
「春則のおごりね」
「当然よね」
「え・・・っちょ、待てよ! なんで?!」
「心配かけたお詫びだと思いなさい〜」
そう言って笑う冬姫に、心配したと言うのならもっと態度で示して欲しかった、と春則は思っても、この姉たちには何を言っても無駄だと言うことも知っていた。
姉弟で揃って部屋を後にして、最後に春則は無人になったソファに視線を向けた。
そこにはもう小さな存在はいない。
二度と存在することもないのかもしれない。
けれど春則は違う記憶を思い浮かべて、顔を染めた。
「・・・っとに、変わんねぇな」
独り言のように呟いて、苦笑した。
繕が側に居ないときも、また居るときも、生活に何も変化は感じられない。
その変わらない日常に安堵している自分に気付いて、春則はその日常になったことが一番の変化だ、と改めて気付いた。
「俺をこんなにしやがって、どう責任とるつもりだ・・・」
春則はぼやきつつ、急かす姉たちを追いかけた。


fin.



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