暴露 ―ケツマツ―
「あ・・・れ?」 春則はドアを開けて驚いた。 そこに立っていたのは呼んだ譲二とその後ろに見慣れた男、繕だった。 「なんで?」 その組み合わせに首を傾げる。 「ちょっとそこで一緒になった」 譲二はさらりと事実を伝える。譲二はその奥を気にして、 「ケイタは?」 「ああ・・・うん」 春則はバツが悪そうに頭を掻いて、 「悪い・・・あんなに弱いとは思わなくて」 二人を部屋に入れる。今までリビングで向かい合って呑んでいたケイタは今、そのソファに転がって意識を無くしていた。 ほのかに染まった頬と、薄く開いた赤い唇。眠っているだけでも男を誘うその表情に春則は済まなさそうに顔を顰めた。 譲二はテーブルに載った焼酎を見て、 「これを呑ませたのか? 二杯も持たなかっただろ」 正確には一杯半だった。 飲み友達でもある譲二には春則がどれほど呑むか充分知っている。それにケイタが付き合えるはずもなかった。 譲二はケイタに近寄り、ソファの前で跪く。上気した頬に手を触れるとその感触にケイタが少し身動ぎをする。 しかし起きるわけではないようだ。ますます色気を醸し出すケイタに、譲二は笑みを浮かべる。 それをしっかりと見てしまった春則と繕はため息を吐いて、口を開いたのは春則だ。 「譲二、お前、ケイタをどうするつもりだ?」 「・・・うん?」 「子供みたいに素直なコじゃねぇか・・・真剣に相手してやってんのかよ」 その隣りに並ぶ繕と似たようなことを言われて、譲二は思わず笑ってしまう。 「ケイタの願いは叶えているつもりだが?」 「ああ・・・あの願いね・・・!」 春則は少し顔を赤くして思い出した。繕が首を傾げて春則を覗き込むが、春則が答えれるはずはない。 「そうじゃなくてな・・・」 「お前がそう言うくらい、可愛いだろうが、ケイタは」 「・・・まぁな・・・思わず手が出るとこだった」 正直に口にした言葉に繕は驚き、譲二は人の悪い笑みを浮かべた。 「出せば良かったんだ」 「・・・・譲二?」 思わぬ言葉に二人から顰めた視線が向けられる。それをさらりと受けて、 「気持ちいいならケイタは素直に答えるだろ・・・お前なら、なおさら大丈夫だな」 春則は額に手を当てて、 「あのな、譲二・・・!」 出せるはずはない。言い募ろうとした春則を制して、 「それを俺の前でやってくれたら文句はない」 「はぁ?!」 「一度、見てみたい・・・ケイタが抱かれているところが」 「お前・・・!」 「おかしいか? 誰に抱かれても、可愛いことに違いはない」 春則の常識が通じない譲二に、大きくため息を吐く。繕とも視線を合わせてまた息を吐いた。 それから春則は頭を切り替えた。 「譲二・・・お前、前に・・・ペットから連絡があったって、すぐに帰ったよな・・・?」 「・・・・うん?」 「それって、ケイタだろ・・・?」 「それが?」 「連絡があって、すぐに帰ってやるくらいは、思ってるってことだよな」 譲二はその会話が全く気にならないのか大人しく寝ているケイタに視線を移して、 「・・・ペットって、飼い主の愛情だけで生きてるだろ」 「は?」 「それが無くなったら、すぐに息絶える。野生には戻れないからな」 「譲二・・・・」 「こんなに抱き心地のいいペット、殺すにはもったいないよな?」 春則と繕はそれぞれに大きく息を吐いた。 それまで黙っていた繕が口を開く。 「いい加減、素直に答えてやればいいだろう、ケイタは喜んで一生飼われるさ」 譲二は繕を見て、苦笑した。 「いいんだよ、これで・・・」 「いいのか?」 「お互いに、余裕を持っていたほうがいい。この先ケイタが他の男に飼われるようになったとき、俺は自分を抑えれる自信がない」 譲二は自分の愛情の深さと黒さを自覚していた。誰にでも跪き愛想を振る譲二は、博愛主義に見えた。 「俺は、独占欲が強いらしいな」 だから一つに絞りたくない、と呟く。 黙ってしまった視線を二人から受けて、譲二はしゃべりすぎた、と苦笑する。それから顔をケイタに寄せてその耳元に優しく囁いた。 「・・・ケイタ」 「・・・・ん、」 「起きろよ、帰るぞ」 瞼を震わせて、ゆっくりとケイタが目を開く。しかしやはりとろりとした視線で、 「・・・・譲二?」 そして甘い声で視界に入った男を呼んだ。何度か瞬きをして、はっきりと譲二が目の前にいると理解すると、 「・・・仕事、終わったのか・・・?」 「ああ、ここで寝ているか? 帰ったら、可愛がってやるぞ?」 ケイタはのろりとした動きで腕を上げて譲二の首に絡めた。 「・・・かえる・・・」 鼻先を擦り付けるような甘えた仕草に、春則と繕は思わず視線を外した。考えたことは一緒だった。 やってられない、と呆れたのだ。 お互いを口でどう言おうと、傍目には充分想い合っているようにしか見えない。 譲二はいつものようにケイタを抱えて、 「邪魔したな・・・悪かったな、春則」 「別にいい・・・ケイタにまた懲りずに呑もうって伝えてくれ」 目の前にいるけれど譲二にそう言ったのは、すでにケイタが譲二しか見ていないからだ。とろりとした視線を譲二に向けて、酔いの覚めていない状態で大人しく譲二に抱かれている。譲二は苦笑してそれを受けた。 譲二はそのマンションを出て、すぐにタクシーを捕まえた。 その中で気持ち良さそうに譲二にしなだれかかるケイタに、譲二は慣れた声で甘く囁いた。 「解ってるのか・・・? ケイタ」 「・・・ん?」 「他の男の家で、無防備にして・・・帰ったら、まずお仕置きだな・・・?」 火照ったケイタの身体をゆっくりとなぞりあげながら、運転手には聴こえない声でその鼓膜に響かせた。 「・・・・っ」 素直に反応したケイタは、それを想像して甘い視線を譲二に向けた。 「・・・どんなこと・・・?」 快楽に従順なケイタは、期待に満ちた目で訊いた。 譲二は誰もが人が悪い、と言う笑みを浮かべて、 「・・・寝れると思うなよ・・・?」 身体中を溶かす甘い声に、ケイタはうっとりと目を閉じた。 |
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