愛して欲しいと言えばいい 3
高校に入って、周りは誰かと付き合うことが多くなった。 自然とセックスの会話が多い。ケイタも興味が無いわけではない。周りと同じように、好奇心が大きかった。 「快楽」というものに、溺れたらどうなるのだろう。 女を抱くわけではない。だから違うかもしれない。しかしケイタは興味を抑えられなかった。 好きな相手がいて、どうしても抱かれたかったわけではない。ただ、してみたかっただけだ。 その顔のせいで昔から声を掛けられることが多かったケイタは、それを利用した。女の声には一切興味はない。 声を掛けてくる、男をそれでも充分選んだ。 スーツを着た、大人の男だった。 今から考えればとても上等の男とは思えないけれど、高校生のケイタから見ればとても「大人」に見えた。 だから抱かれた。 終わったとき思ったのは、「こんなもんか」とあっさりしていた。 知識はあったけれど、それ以上に痛かった。とてもじゃないが、犯されて気持ちいいとも思えなかった。後ろに挿入されただけで、達することなど出来なかった。 何度か繰り返すうちに、自分で結果を見つけた。 「自分から気持ちよくすればいい」と思った。 ケイタは、どんなことをしていてもその中から「快楽」を見つけようとした。 こんな性癖だからだろうか。寂しくてたまらなかった。だから身体だけでも求める。好きな男などいなかったけれど、抱いてくれる男を捜した。誰でも良かった。 その淡白なところは、今も持っている。 欲しくて欲しくて堪らないけれど、手には入らない。諦めきれない。 その男以外の、誰に抱かれても一緒だった。 好きになってしまったのも、その相手に抱かれてからだった。 大学に進学したケイタは、友人の中にその男を見つけた。とても冷静で、ストイックな色気を振りまき女にもてる。けれど、本命を作らない。気がむけば誰とでも身体を合わせていた。その中に、男が入っていると知ったのは偶然だった。 ケイタは一応「付き合っていた」男と手が切れたとき、なんとなくその男と寝た。 セックスで感じたのは初めてだった。 されている行為にこれほどまでのめり込んで、振り回されて、挿入だけで達したのも初めてだった。つまり、男が「巧かった」だけなのだろうが、ケイタには驚愕だった。 男が他人と付き合うことに関して淡白なのは知っている。しかし何度か身体を重ねて、話していくうちに惹かれた。 男のことばかり考えている自分に、ケイタは気付いた。 「好きなのだ」と気付いたのは、もう本気だと言えなくなってしまってからだった。 大学を出て周りは就職したけれど、ケイタは何もしなかった。 しないでも生きていけたからだ。 ふらりと街に出て遊び、ふらりと帰る。 しかし、その男の連絡を、ずっと待った。それだけの日常だった。 その男以外で、セックスが巧いと思う男に出会ったのはその頃だった。 * 「客」のエスコートで行ったクラブは、「高級会員制」とあった。 譲二は慣れた仕草で、その中に溶け込んだ。周りが全て男だったけれど、自然と自分の「客」の相手だけをしていた。 「客」の望みが、それだったからだ。自分を見せびらかせて優越感に浸りたいという欲望が取れたからだった。 その途中、一人の男が譲二の「客」に対して声を掛けた。どうやら知り合いらしい。にこやかに話す二人を、譲二は黙ってそばに居た。それが役目だ。 その相手にも連れが居た。人形のように、そこに座っていた。綺麗に整った顔にまだ幼さが見え、どうやら譲二と同じ立場のようだ。 譲二と目があった。 しかし、笑うでも怒るでもない。瞬きをしても、表情に感情などなかった。ただそこにあるものを見ているに過ぎない。そのうちにお互いの間で話していた二人が動いた。 どうやら、意気投合してしまったらしい。 今回は、譲二はこれでお役御免となるようだった。 「悪いが、この子の相手をしてくれないか?」 この子、と言われたのはその人形のように傍に居たまだ少年のような男だ。言われた譲二は、視線を自分の「客」に向けた。主人はこちらなのだ。 それも、頷かれた。 「ごめんね、ジョージ。お願い」 「貴方が良いなら、俺は気にしません。このまま帰っても良いですが?」 わざわざ譲二のために、相手を見つけてもらわなくても良い。答えたのは相手の男だ。 「いや、頼みたい。今日は抱いてやると言って連れてきたんだ。とても好きな子だから、気が済むまで付き合ってやって欲しい」 何が好きなのか。 譲二は言葉の調子で解った。 こんなクラブに来る人間である。相手など気に入れば誰でもいいのだろう。自分の「客」もそうだった。 もうすでに料金は受け取った。断るのも受けるのも譲二次第だが、相手に少し興味を持った。 人形のような少年がどれほど「スキ」なのか、試してみるのもいいだろう、と思ったのだ。 そのクラブの上にはホテルのように泊まれる部屋があった。 譲二は自分の「客」と別れ、違う相手を連れて上に向かった。 「名前は?」 エレベータに乗り込んで口を開くと、少し首を傾げて、 「・・・必要なのか?」 初めて聴いた声は、大人でも少年でもなかった。啼かせたらいい声だろう、と思った。 「どちらでもいい」 譲二もそれほど固執するほうではない。 「ホスト」という職業柄、誰にだってその気にしてきた。興味のない人間にでも、立たせて来たのだ。答えた譲二に、 「・・・・ケイタ」 小さな声がエレベータの中に響いた。 これが、譲二とケイタの出会いだった。 エレベータを降り部屋に向かう廊下で、 「ジョージって、源氏名?」 先ほどの「客」の言葉を聴いていたのだろう、ケイタは見上げるほどの身長差の譲二を見る。 「本名」 譲二はあっさりと教えた。名前に意味があるとは思えない。 誰に隠すつもりもなかった。 「源氏名みたい」 ケイタは笑った。 譲二が見る、初めての変化だった。子供のような笑顔だな、と思った。 部屋に入ると、ケイタは性急に求めた。 「・・・我慢出来ない・・・早く、しよ」 見上げた目が濡れているのも、しなやかな身体も、男を誘うことに慣れているようだった。 主導権を握るように自分から身体を開いたケイタは、しかしされてばかりいで大人しくしているはずはない譲二に理性をなくしていった。 「あ・・・ああっ」 後ろから奥深くまでまで埋め込んで、汗に濡れた身体を弄る。細い身体だった。 感じて上げる声は、やはりいい声で啼いた。 「ん、あっ、そこ・・・あぁ・・・っ」 自分から腰を揺らしてもっと譲二を求めるケイタに、いつしか譲二ものめり込んだ。 「待って・・・あぁっ」 身体の向きを変えて、再び奥まで挿入する。 どうみても全身で感じてしまっているケイタは、もう人形には見えなかった。扇情的に濡れる目も、震える身体も譲二は久しぶりに、仕事でなく誰かを抱いた。 「巧いな、お前」 言われたのは、もう指一つ動かせない、とベッドに倒れ込んだときだ。 何度もその奥に打ち込んで、譲二が風呂に入るか、と聞くとケイタは、 「入るだけ?」 とまた誘って笑った。それにもちろん譲二は答えてやった。 ぐったりとしたのは、その後で譲二がベッドに運んだときだ。さすがに疲れたのだろう、目も閉じかけている。 「また、しよ?」 譲二はその隣に座って、 「・・・俺は高いぞ」 「・・・お金取るの・・・? ああ、ホストなんだっけ」 「それが仕事だ」 「お金出してまでセックスしたくないよ・・・でもお前、気持ちイイから・・・どうしようかな」 声がゆっくりなのは、半分睡魔に襲われているからだ。 譲二は思わず笑みが零れた。 「・・・暇なときなら、相手してやる」 髪に手を絡めると、とても軟らかかった。 譲二は自分でもどうしてそう言ったのか不思議だった。 しかし、言ってしまったものを撤回しようとは思わない。 「・・・本当・・・? じゃ、またして・・・?」 「ああ・・・寝るのか?」 「うん・・・寝ても、いいんだろ、ここ・・・?」 「俺は帰るぞ」 「うん・・・わかった」 本当に解っているのか、ケイタの目はすでに何も見ていなかった。 譲二は自分が笑っているのに気付いた。 だから自分の名刺の裏に、携帯の番号を書いてそのまま部屋を出た。 |
to be continued...