素直な情婦





いつもはきっちりと纏まっている髪が額に流れて、眼鏡に隠されていたその目が直接潤んで俺を見上げている。
その状態で、終わったばかりだというのに、また俺は落ち着かなくなってきた。

やばい・・・

呼吸を整えようとするその肩も、上気した頬も、何もかもが俺を煽る。
「・・・すまない」
その濡れた口が、呟いた。
「え?」
言葉の意味が解らず、訊き返す。
俺の視線から逸らして、申し訳なささそうに、
「・・・本当は、経験してから、お前を楽しませてあげるつもりだったのに・・・俺は、なんにも出来なくて、すまない」
「・・・・・」
今の台詞は、どう受け止めればいいんだ?
それ以上に、お前がどうにかなるって?
しかも、他の誰かに?
「・・・つまらなかっただろう」
「ふ、ざけんな!」
俺が上げた怒鳴り声に、驚いて視線を戻す。
「他の誰かで練習するだと?!そんなことしてみろ、二度と抱いてやらねぇからな!!」
「・・・・」
俺も大概、偉そうなことを言っている。
なのに、また俯いて、今度は嬉しそうな顔で・・・
おい、自覚、あんのか?・・・・・ないんだろうな・・・
「・・・そうだな、こうゆうことは、好きあったもの同士がするのが、普通だ・・・」
ふと、俺に視線を戻して、
「なら・・・僕はお前を好きだが、お前は僕を好きなのだろうか?」
「・・・・・お前じゃなかったら、殴り倒してるとこだぞ」
「何故?」
「・・・・もう、いい」
俺は諦めたように、首を振った。
始めてだというその身体は、未だに余韻で俺を誘う。
俺を好きだという言葉は、もう俺も疑わない。
なのに、なんで気づかないんだ。
俺だって、お前に落ちてるんだよ。
いつもはきっちりと制服を着込んで、髪を一筋の乱れもなく整えて、縁のない眼鏡で調えられた完璧なエリート会長。
そいつを、毎日、どんなふうに乱れさせてやろうか、と、頭の中はとてもじゃないが、誰にも見せれない。
「どうした?」
どうした、じゃねぇっつの。
俺はもう一度、ベッドに押し付けて、
「・・・もっかい、させろ」
身体に口付けた。
「・・・あ・・・」
吐息が、上がるような声に、すでに俺は落ちそうだ。
勘弁してくれ。
「・・・抱いてくれるなら、僕を嫌いではないな?」
「・・・・」
馬鹿な確認をするコイツに、なんで俺、落ちたんだろうな・・・
ムカツクから、絶対言わねぇ。
黙って俺に抱かれて啼いてろ。


fin



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