夏の傷。





「俺の夢は、二学期に、お前ら全員と会えることだな」
クラス中から、「クサイ!」とブーイングの嵐だった。
いつも飄々とした、男の言葉。
まだ若くて、気安くて、いたずらも一緒にした。
校内で一番、人気があった。
あの不良教師。
夏休み前の、言葉。
その日、俺は男と寝た。
初めてだった。
それでも男を好きだったし、離れたくない、と思った。
男も、生徒の俺を真剣に思ってくれてると感じた。
夏は、始まったばかりで、これから楽しいことが溢れてる、と思ってた。
それなのに、男は夏中会えないと言う。
海外の両親の所に行くという。
俺はすねたけど、仕方ない、と承諾させられた。
何度も「愛してる」と囁かれ、頷いた。


その夏が、終わる。


夏休みが終わるその週。
連絡網が来た。
「・・・・え?なに?」
俺は、何度も聞き返す。


ナニヲイッテルンダ?


男の訃報だった。
癌だと申告された男は、転移が多く、助からないことが、春には判っていた、と聞かされた。
ふざけた態度を取っていた男が頭を下げ、ぎりぎりまで、学校に来ていた。
葬式に、クラスの全員が集まったけれど、誰も泣かなかった。
これは夢のなかのようだ。
誰も、泣けなかった。現実に、したくなかったのだ。


あんなに愛してると言ってくれたのに、


あんなに好きだと言ったのに。


最後まで、我侭で、自分勝手すぎる男は、一人で逝ってしまった。
その最後すら、見れなかった。
男の夢は、叶わなかった。
それを知っていたあの男。
体中に、憎しみが踊る。
愛し過ぎて、狂おし過ぎて、しかし誰にも怒りをぶつけれない。
一生忘れてなどやるものか。
愛に似た怒りを俺は、吐き出すことはなく、心臓に不発弾を抱えて、学校に戻ることにした。


男と同じ立場になった。
ここには、あの男の想いが溢れている。
いっそ、この想いに溺れて、死んでしまいたい。
学校は、あの男がいたときから、少しも変わらない。
俺は、男が吸っていた煙草を銜えて、いつまでもここいにいたいと願った。


fin



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