お医者様でも草津の湯でも さくらは紅矢の顔が好きだと思った。 強い視線で、さくらを見透かすように余裕の顔で笑う。見詰め合うと緊張してしまうけれど、それでもずっとそうしていたい、と思うのだ。 「さくら・・・?」 ぼうっとなってしまうさくらを、覗き込むようにして笑う。 「・・・ん、」 掠め取るように口付けをされて、子供のように笑う紅矢は誰よりかっこいい、とさくらは思った。 紅矢が望むなら、本当に何をされたっていい、と思っていた。 締め切った部屋は暑かった。 お互いの重なる熱と、吐息で窓が曇る。汗で身体が滑る。 しかし、紅矢はそんなことに一切気になどしていられなかった。 細い腰を掴んで自分をさくらの中に沈めて、その絡みつく熱をもっとずっと感じていたいと揺れる腰が早くなる。 いつまでもいつまでも、こうしていたい、と頭の中が痺れるほどさくらを感じていたい、と紅矢は注挿を止めなかった。 「や、やぁっやだやだぁ・・・っ!」 紅矢を煽るだけでしかないような声で、組み敷かれたさくらが腕を伸ばしてくる。涙の止まらない顔を振り、いやだと口にしながら紅矢に縋り付いてくる。それに紅矢はどうしようもない気持ちが湧き上がって、強く腰を押し付ける。 「あぁあっ、いやぁっやだっやだぁ・・・」 「・・・いや? 駄目か? さくら?」 言われても止めるつもりはないくせに紅矢は声だけは優しく囁きかける。泣き顔を振るせいで、涙がシーツに飛んだ。さくらはそれでもいや、と紅矢に擦り寄ってくる。 「こう、やぁ・・・! ど、どうにか、なっちゃうよぉ、も、こわれ、ちゃうよぉ・・・っ」 助けて、と泣きついてくるさくらに、紅矢は頭が沸騰しそうだった。 「やぁあ・・っ」 腰を掻き抱いて、自分より小さな身体を軋むほど抱きしめて、紅矢はもう止まらなかった。 「さくら・・・っ」 「ああぁ・・・っこぉや・・・っ!」 悲鳴のような声を聴いて、紅矢もどうにかなりそうだった。 激しくさくらの中を打ち突けて、もう終わる、と感じた。 その瞬間、 「さ、くら・・・っ」 壊した、と思うほど抱きしめた。 しかし、身体はがばり、と勢い良く起き上がった。 掻き抱いた手は、宙を掴み自身に返って来る。 「・・・・・・・・・あ?」 紅矢は一瞬どこにいるのか解からなかった。覚めきっていない視界を見渡し、どこからか耳慣れた目覚ましの音が聞こえている。 状況を確認すれば、そこは自分のベッドの上だ。そして、そこには一人しかいない。欲情した身体で理性を取り戻して、 「・・・夢、かぁぁぁ―――――」 魂が抜けるような溜息を吐き出した。 実際、泣きそうだった。朝から元気の良すぎる自分の身体に、紅矢は布団をぎゅう、と抱きしめて、 「・・・悪夢だ・・・」 とほとんど泣き声で呟いたのだった。 最悪だ、限界だ、自分の忍耐はいったいどこまで試されるのだろう、と紅矢はそれでもあの笑顔を見るために、さくらに会いにゆく。 人生のなにかを、擦り切っているような気がする。 最近の紅矢はしみじみとそう実感しつつ、試練のように学校へ向かうのだった。 さて今日は、どこまで耐えれるのだろうか、ともう一度大きな溜息を吐いた。 |
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