木漏れ日の授業





歴史を感じさせるほど古い木造建築。それが校舎。
しかし先生は、その中でより外での授業を好んだ。
特に、今日のように快晴に澄んだ空の日は。

大木を背に、先生は座る。
「場所は敵地、目前に敵襲。指揮官が一人、部下は七人。抜け道は背後にひとつ。どうする?」
先生の顔は穏やかだ。
戦略について語っているとは思えない。
先生を囲むように略式の軍服を崩した生徒が七人。その端に、俺。
全員姿勢を崩しているけれど、柔らかな芝生の上に寝転んで大空を見上げているのは俺ひとり。
先生の質問に周囲が口々に答える。
教科書に載っている答えだ。
それが、正しい。それを、行うべきなのだ。俺たちは。
「阿久利は?」
先生は最後に俺に訊いた。
俺は、姿勢を変えることはなく、見上げていた目を閉じて、
「全員で走って逃げる」
弾けたように、笑いが起こった。
みんな笑っている。
そんなこと、本のどこにだって載っていない。
先生も顔を歪めるように笑っていた。
「正解は、指揮官が殿を勤めて全員を退却させる、だ」
先生の中の、道理だ。
先生がそう望むのなら、俺たちは全員、それに従うだろう。
自分が指揮官になったのなら、迷うことなく部下を逃がす。
それが正しい。
先生は自分で答えながら、消えそうな笑顔で俺たちを見渡した。
「でも、俺の意見は、阿久利に賛成だ」

先生。
そんな顔、見せないでよ。
「全員、逃げて帰って来い」
声には出さないけれど、先生の声が聴こえた。
だから、先生。
俺たちは先生に従うんだ。
先生が笑顔になるのなら。
俺たちは必ず帰ってくる。
だから、先生。

  泣かないで。


fin



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