ネジとナット ―レキフミ―






「・・・ええ、申し訳ないですが」
オープンテラスのカフェで、一緒にいると隣にいる人がどれだけ注目を集めているのかが良く判る。
でも、悪いけれど、他の誰にも渡すつもりはない。
逃げられないように、雁字搦めに俺で縛り付けて一生ここに居させる人だから。
悪いけど、見るだけにしてくれるかな。
「いえ、そういわれても・・・ええ、すみません」
そんな注目されてる視線すら慣れているのか気づいていないのか、ミチルさんの視線は俺に向いたままだ。
ミチルさんが隣にいるというのに、携帯片手に電話しているという俺もどうなんだ?
でも、俺の声だけ聞こえるそれに、すごく気にしているのが良く判って、どうしようかな、すげ、楽しい。
「すみません、ええ・・・いや、勘弁してください・・・はい、じゃ」
会話を打ち切って携帯を閉じた俺に、ミチルさんは、
「良かったのか?」
電話を切ったことを気にしているようだ。
あのね、ミチルさんといて、ミチルさん以外のことが優先されるなんて、有り得ないんですよ。
でもそんなことは言わず、俺はただ笑い流して、
「ええ、いいんです。言われても困ることだったので」
「困る?」
首を傾げたミチルさんが、聞きたそうだったので俺は苦笑したまま話した。
「俺、ネジにしかなり得ないんですよ」
そのままの意味だったのだが、ミチルさんはますます不思議そうな顔をする。
判らないのか、やっぱり。
「ミチルさんがナットでしかないみたいに、俺はネジしかなれません。けど、この人どうしてもしつこくて」
俺にナットになれと言う。
「ネジ? ナット?」
やっぱり判らない、と言うミチルさんに、俺は右手の親指と人差し指で輪を作り、
「ナットと」
左手の人差し指を立てて、
「ネジです」
それを輪の中へ入れて見せた。
「・・・・っ」
漸く意味が判ったのか、瞬時に真っ赤になったミチルさんが俺から視線を外す。
「ねぇ、ミチルさん、しませんか」
「・・・・っ君ね!」
囁いた俺に、ミチルさんは真っ赤な顔を俯かせる。
ああ、やばいな。
すっげぇ、啼かせたい。
今日は、覚悟してくださいよ。

眠れるなんて、思わないでくださいね。


fin.

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