蜂蜜漬 ―ウヅキ― 落ち着かない。 ここのところ、居心地が悪いくらい、落ち着かない。 一緒に暮らしている――といっても、俺が居候しているだけだけど――ナナさんが、どうもおかしい。 最近、甘い。 本気で甘い。 怖いくらい甘い。 そのうち、箸の上げ下げから服を着る釦の一つひとつまで留めそうで。 本気で―――怖い。 耐え切れなくなって、俺はそれを訊いてみた。 ナナさんは、にやりと笑って。 珍しい。 やばいな。 こういうときのナナさんの言葉は、聴きたくないかも・・・ 「俺は悪い大人だからな」 「はい?」 「甘やかして甘やかして、俺なしでは生きていけないくらいにしたいんだ」 「・・・・な、なんで?」 ナナさんはにっこりと笑って、 「お前が俺から離れないようにするために、決まっているだろ?」 「・・・・・・」 やっぱり、訊くんじゃなかった。 「もう、俺以外の男には抱かせたくないし、とろっとろにして俺の側以外で生きていけなくすれば、俺から逃げられないだろ?」 「あ、あのな・・・」 何を言っているんだ、この人は! 俺の顔は赤いはずだ。 すげ、顔が熱い。 だいたい、他の男ってどういう意味だよ。 もうすでに、これ以上にないくらい甘やかせて貰っているっていうのに。 離れられるはずがないのは、俺のほうなのに。 「なに、言ってるんだよ、他の野郎なんか・・・俺はもう、ナナさんじゃないと・・・」 「ん?」 言いかけて、俺は何を言っているんだ、と思い直した。 ナナさんが、それを聞き逃すはずはない。 嬉しそうに俺を窺ってくる。 勘弁してよ・・・ 「なんだって?」 「いや・・・あの、」 「言えよ、はっきり。俺じゃないと?」 「・・・・・・」 俺ははっきりと、ナナさんを睨んだ。 分かってるくせに! 言いたくないけど、こういうときのナナさんが引かないのも、もう知っている。 「いいけど、言わなくても」 「え?」 あっさり引いたことに驚いて、顔を上げるとそこには人の悪い笑みを浮かべたナナさん。 ああもう、どうしてこんなに、この人かっこいいんだろう・・・ 俺、マジでやばいよ。 「夜、何度でも言わせてやるからな?」 覚悟してろよ、と囁かれた。 「・・・・・っ」 この甘さから、一生抜け出せない気がしてきた。 それでもいいと思ってる俺のほうが、やっぱりやばい? |
fin.